マルチパーパス・アイテム〜道具とわたしの距離感

VARGO BOTの誘惑と憂鬱

何を削れるか。楽しい遊戯。
買い集めたギアを使ってみたくて旅に出る。旅に連れ出してくれるギアは素敵だ。ただ、あまりに度が過ぎてしまい、わたし自身が「軽量ギアを背負う係」になっていた。
道具はわたしに背負われてばかり。主は誰なんだい?

 「持たないひと」になりたい。持っていかないなら、重さを100%カットできる。旅はわたしのものだ。

道具を使いこなすと、わたしはわたしでいられる。一つのものをいろいろな用途で使う。例えば、日本手ぬぐいなんて優秀だ。速乾性タオルとしてはもちろん、バンダナにも鍋つかみにも、マフラーにもなる。温泉に寄るのも安心のパートナー。

VARGOのBOTは、ここ数年ではベストな発明品だと思う。ボトルとポットを合わせてしまったのだ。鍋はいつもツレない。食事のときしか相手にしてくれない。もっと仲良くやっていきたいと思うのに、いつも背負われてばかりじゃんか。

BOTはポットにねじ切りがしてあり、ふたを締めることができる。つまり、ボトル、コンテナー、鍋と変幻自在の半端ない歩み寄り感。寄り添ってくれるギアだ。
常々、「ナルゲンのボトルが金属にならないかなぁ」と思っていたから、5年前にATのトレイル・デイズで発見したときには狂喜乱舞してしまった。VARGOのブライアン社長に「これぞ探していたものなんだ。町で買ったコーヒーをトレイルに持っていける」と力説したくらい。

興奮のあまり物理の特性を忘れていた。温かいものを入れて、ふたを締めた場合、内部の温度が下がると空気が縮まってふたが開かなくなるのだ。ジャムを瓶詰にするときと同じ。温かいものをいれたら、ふたは締めないこと。そんなのただの鍋じゃんか。

そもそもチタンのボトルにお湯を入れたら、もはや表面温度はお湯。立体的なお湯。把手がないから、熱くて持てない。
入れられるのはアイスコーヒー。手がかかる子だ。

それでもお湯を沸かせるボトルという、かけがえのない機能がある。
実際にお湯を沸かすときにも、ボトルと鍋が兼用だとふべんなこともある。
必要な水量を沸かすのが難しい。
例えば500ミリリットルを沸かしたいときに、BOTに水が1リットル入っていては、水を捨てないとならない。もったいない。
水が少ない場合は、追加してお湯を沸かす。食後のお茶を飲むには、あらためて水を汲みに行く。

二人ならもう一人のボトルで水を汲んで、一人はお湯をわかせる。なんという便利な仕組み。ソロだとキャンプの支度に忙しいのだ。「………パートナー、ねぇ」
前向きに考えよう。水を2回汲みに行くだけで、予備のボトルも要らなくなる。30グラムの削減。やったー。そうさ、ひとりでできるもん。何度も、水を汲んで来たらいいさ。面倒くさい人間関係ともおさらばさ。

気になるのは重さ。
・本体が102グラム
・ふたが47グラム
・合わせて149グラム。

ナルゲンの1リットルボトルが179グラムあることを考えると、まぁ、軽いのかなぁ。
いやぁ、重いだろうな。プラティパスとチタンカップを合わせても100グラム未満。スクリューコンテナーも足すと、BOTと同じくらいか。
3つのギアを足したら、重さは三つ分になるという、お得感がない感じ。
それでもアイテムの点数が減ると心理的負担が減る。こころは軽くなる。

それに、何でも上手にこなす道具よりも、ひとの手伝いが必要な方が、どうにも魅力じゃないかしら。

良い道具はひとをも育ててくれる。甘やかさず、寄り添うように。
BOTは少しツンが強すぎだけど、少しのデレがたまらなく良いのです。

そういえば、カトラリーを忘れてペグでご飯を食べてことがある。衛生面はもちろんアレだけれど、舌触りがだめだった。残念。
予備のペグもなにかに役立てたいと思うアイテム。うまく活用できれば革命的な軽量化だったのに。一本8グラム削減になるのに、ほんと、ツレナイ。

Text by Loon