ハイキングティップス

カルデラコーンとご飯炊き

2015/10/09
勝俣隆
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カルデラコーンとシマーリングを使って、チタンクッカーでお米を炊きます

【お米のこと、山ごはんのこと】

日本を含めアジアで長いあいだ親しまれてきたお米。その調理方法が、弥生時代の「煮る」から「蒸す」過程が加わわり「炊く」ようになったのは、羽釜による調理方法が確立された江戸時代に入ってからと言われています。さらに白米が一般の人まで普及したのは、江戸の薪不足を解消するための方策がきっかけでした。調理に時間がかかる玄米は多くの薪を使うため、江戸の人口増加に伴う薪不足が深刻化した際に、町では白米が推奨されました。そのせいで脚気が増えたのは、いかに当時の食生活が質素で、玄米の栄養価に依存していたのかを表しています。一方、薪に不自由しない農村部では、電気釜が普及する戦後まで玄米にひえやあわ、そばなどの雑穀や芋を混ぜて炊いたものを主に食べ、白米はお正月など特別な時だけだったそうです。

弥生時代から2千年経て、ようやくお米を「炊く」まで調理方法が進化したのに、電気釜の発明によりその調理技術が日常的には使われなくなったのは悲しいですね。

それでも電気での調理ができない山では、長い間(と言っても100年ほどですが)山上でお米を炊いていたようです。昔は山小屋に泊まるにも白米をもって行ったと、ものの本には書いてあります。炊飯の技術が当たり前だった山でも、残念なことにアルファ化米や、レトルトや乾麺などの食事の多様化によって、今ではどちらかと言えば珍しいいでしょう。

特にチタンクッカーとガスストーブの普及で、山でご飯を炊きたくとも炊けない状況になりました。チタンクッカーとガスストーブの「強い火力×薄い鍋」はお湯を沸かすには困りませんが、「とろ火×熱の回る厚い鍋」が必要な炊飯とは方向性が真逆な進化でした。軽量化と利便性が必ずしも良い結果をもたらすわけでもないのですね。おかげでアルファ化米なんて普段食べないものを、山に行くたびに日数分買うので結構な額になって悔しいったら...。

かねてよりハイカーズデポでもアルミ鍋を使った炊飯を提案してきました。ALMIPOTは「とろ火×厚い鍋」というロジックで最軽量のものを作りたいというところからスタートしています。

その一方で、チタンクッカー使った方法がないかと色々と試していました。ストーブの改良やクッキングシート、適した燃料の模索...どうにか無理なくお米を炊きたい。お米のエネルギーは山歩きに相応しいものですし、心の面でも山での炊きたてご飯は力が湧く、という方が多くいらっしゃいます。

ある時、カルデラコーンにシマーリングがつけられるとスタッフの一人がふと言いました。不思議なものです。カルデラコーンは熱効率の高さによる沸騰時間の短さが売りなのです。弱火にする意味が判りません。でも、たしかに、円錐状の筒によりサイドから鍋に熱が当たるのは良さそうです。かまどみたい。あとは、ちょうど良いとろ火になるのであれば、ですが...。

ということで、カルデラ炊飯のおはなしの始まりです。

 

【準備】

では、実際にカルデラコーンでの炊飯に必要な道具選びです。

(クッカー)まずはカルデラコーンにフィットするチタンクッカーを選びます。炊飯に適した鍋は底の直径が12センチ以上は欲しいです。12センチでも炊けますが対流のせいなのか、少しだけ甘みが気が少ないような気がします。エバニューのTitanium Ultralight Cooker 2 (900ml)は直径が13.5センチと期待できます。(600mlのTitanium Ultralight Cooker 1でも一合ならなんとか炊けますが、味を比べると900mlの方が美味しいような...。) それと、意外に知られていないことに、この鍋はノンスティックコーティングがされていません。UL仕様なのでそうなっているのかもしれないのですが、コーティングは焦げた場合にこすり落とせないので、実はノンコーティングの方が炊飯も含め、調理をした後の処理が簡単なのです。

 

(カルデラコーン)鍋に合ったものを選んでください。容器の中にはカルデラ五徳、専用ストーブ、燃料ボトル、計量カップが付属しています。

 

 

(シマーリング)上下があるので、ロゴが上になるように(口がすぼんでいるのが上です)しっかりとフィットさせて使います。空気の流量をコントロールして、火力を85%まで下げるそうです。

(おこめ)精米したお米を一時間ほど浸水します。無洗米だと研がなくて楽ですが、お米のとぎ汁は洗顔に良いので、山で化粧水代わりに使っても良いのです。

(アルコール)燃料のアルコールを25-30㏄使います。カルデラコーン付属のカップにおおよそ一杯です。水の沸騰もアルコールの気化も、外気温や液体そのものの温度に大きく左右されます。このあたりの経験値が増えていくと一級炊飯士への道に近づきます。

 

 

【炊飯編】

1.お米を炊くといえば「はじめちょろちょろ なかぱっぱ 赤子泣いてもふたとるな」と唱えてしまう愉快な御仁が居ますが、一般的には白米だと最初に火力を上げた方が上手くいきます。玄米だと「はじめちょろちょろ」で良いです。あと、圧力のことは、この際だから無視してしまいましょう。エベレストでは圧力鍋が必要ですが、3000mほどの日本の山のテントサイトなら大丈夫です。

2.水の分量ですが、700mくらいの低山だとお米に対して1.5倍を目安にお好みの硬さに合わせてベストな分量を探してください。2500mくらいですと水の量はお米に対して2倍弱です。この「弱」が曲者ですが、そういうものなのです。世の中、なんでも杓子定規では上手くいかないのです。2倍だとお米が柔らか目です。

研いだお米を1時間以上、浸水してください。テントサイトには夕方には着いているでしょうから、乾杯の前、夕寝の前にやってしまいましょう。うっかりと寝てしまって、まぁ、いいやと、そのまま炊くと芯が生煮えな美味しくないご飯ができます。そんなうっかりなことは実践済みなのです。

 

3.カルデラコーン専用のストーブにアルコールを入れます。カップに計って入れると今後の必要な量の参考値が取れます。気温の高い夏に低地だと20ccでどうにか炊けます。気温が低く、高地の場合は30ccくらいです。冬の場合は、ストーブの周りにある溝にアルコールを垂らして、アルコールストーブ自体の温度を高めて、中のアルコールの気化を促進させます。シマーリングはまだ使いません。火をつけたら30秒ほど安定するまで眺めています。カルデラコーンで囲って火が落ちついてきたら、鍋を置いてください。

4.沸騰するまで数分かかります。3分だったり、5分だったり...おおらかな気持ちで待ちます。沸騰しかけたら、カルデラコーンごと鍋を火から外して、シマーリングをつけます。シマーリングの上下をしっかり確認してくださいね。火の点いたストーブに被せるのは嫌いな方は、鍋の蓋を外してストーブに乗せると火は消えます。手をかざして、火が点いていないことを十分に確認してから、シマーリングを被せて、もう一度、火をつけます。熱いので気を付けて!

5.とろ火になったところで、再び、カルデラに載せた鍋を戻します。しばらくすると、お米のでんぷん質が熱によって糖化される(アルファ化する=糊化する)香りが水蒸気とともにしてきます。気温が高い、低地では13分で炊きあがります。高地だと20分以上かかることもありますが、ここは「分」という価値観は捨てて、目と鼻、そして耳で感じ取りましょう。Feel!です。

水分量がちょうど良ければ、水がなくなった時にちょうどお米が炊きあがります。つまり、水分がなくなることを見極めていれば、鍋をおろすタイミングを外すことはありません。

まずは<目>です。濃い水蒸気が出ている間は水分がある証拠です。水分がなくなるころ、すーっと湯気が薄くなります。

そして<耳>をかざして水分があるときの音を聞いてください。ポタポタと音がします。やがて水分がなくなるとプチプチとした音に変わります。

最後に<鼻>の出番です。お米が糊化する甘い香りが減り、水分を失ってプチプチとした音が始まってしばらくすると、焦げができ始める香りになります。このおこげの香りが火から下ろすキッカケです。

6.はい、赤子泣いてもふたとるな、です。ふたを開けて「愛情」と言うのも、もはや無しです。10分ほど蒸らしです。おいしいご飯が炊けるように祈りましょう。もし芯が残っている場合は、水を少し足して、もう一度、とろ火にかけてください。きっと、うまくできます。

 

 

【むすび】

これで今日のおはなしはおしまいです。

おいしいご飯が炊ければ、おかずはシンプルなものが欲しくなりますね。カレーなんてもったいない。鉄火味噌やごま塩がお勧めです。一食当たりの重量は1合分の150gと少しです。アルコールは30ccは25gくらいでしょうか。一食当たり、200g程度でおなか一杯食べられます。あさ、炊いて、おにぎりにするのも良いのです。

なお、エバニューの900では、2合炊きもできなくはありません。が、EV900で1合を炊く方が美味しいですし、EV600で1合の方がまだ美味しいです。2合炊きは、浸水も含めてまだまだ研究します。

勝俣隆

書き手勝俣 隆

1972年、東京生まれ
ULハイキングと文学、写真を愛するハイカー。トレイルネームは「Loon(ルーン)」
アパラチアン・トレイルスルーハイクののちハイカーズデポ スタッフへ。前職での長い北中米勤務時代にULハイキング黎明期の胎動を本場アメリカで体験していた日本のULハイカー第一世代の中心人物。ハイキングだけでなく、その文化的歴史的背景にも造詣が深い。ジョン・ミューアとソローの研究をライフワークとし、現在は山の麓でソローのように思索を生活の中心に据えた日々を過ごしている。2016年以降、毎夏をシエラネバダのトレイルで過ごし、日本人で最も彼の地の情報に精通しているハイカーと言っても過言ではない。著書に『Planning Guide to the John Muir Trail』(Highland Designs)がある。

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