海の日を過ぎたのに、晴れたり降ったりと今年の梅雨には焦らされて、もう待てないやと赤岳にやってきた。
お昼過ぎには行者小屋に着いて、なんとか幕営地を確保。なんとまぁ、見事なテント村。
雨のキャンプも乙なものと、停滞覚悟で持ってきたULらしからぬテントを広げると、読みたかった本を傍らに、いつもより上等なインスタントコーヒーのため にお湯を沸かす。時折、ガスが薄くなって大同心の勇ましい岩や、阿弥陀さまのどっしりとした姿が現れる。覆いかぶさるように屹立した山並みに見惚れてしま う。標準レンズになんて収まらない。諦めて山を眺めながらコーヒーを愉しむ。

夕方も過ぎ、小屋の前のテーブルでは宴会も兼ねたご飯の支度がはじまり、あちこちからゴーゴーとガスストーブの噴射音が鳴り響く。話し声のトーンも大きくなっていった。
逃げるように小屋から離れたテントサイトに戻り、アルコールストーブをちまちま準備する。ライターを近づけると、ポッと音がなる。陽の光では薄らいでしか 見えない青白い炎を確認してカップを置く。アルコールストーブの利点は静けさと言うけれど、お湯を沸かすまでののんびりと過ごす時間も好きだ。
すこし早めの夕飯を摂ると、なにもすることがない。ラジオを小さな音で鳴らし、天気予報を確認する。電波の通じない谷あいのサイトではスマホなんてただの重しだ。ラジオは偉い。そんなことを考えていたら、いつの間に寝てしまっていた。

混み合う赤岳の頂上を嫌って、さっさと地蔵の頭に向かう。
すこし静かなところを見つけてようやく一休み。足元には小さな花が、小石を押しやるように咲いていた。コマクサも登山道からすこし離れたところで元気な様 子。雨が多いこの時期は、花の色は鮮やかで活き活きしている。梅雨を嫌うのは人ばかり。花を狙うミツバチも初夏を謳歌して、お尻を振っては小さな花の中に 頭を突っ込んで蜜を味わう。イワヒバリの雄はパタパタと飛びまわっては餌を見つけて、パートナーへの給餌に励んでいる。自然はあるがままに存在していて、 登山者なんて構わないのだ。

朝陽に温められたガスが稜線を越えて流れると、雲海の下に埋もれていた清里の町並みが姿を現した。ここ最近は、白いガスに覆われて、下から見る八ヶ岳はぽっかりと消えてしまったようだった。
長い梅雨はもうすぐおしまい。そう思うと、夏がすこし恨めしい。

Text by Loon