ハイキングリポート

Walkin' on JMT

2016/07/31
勝俣隆
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《ドナヒュー・パス・コントロール》ドナヒューパスの人数制限とオーバーユースについての報告

Walkin' on JMT
〜ドナヒュー・パス・コントロール〜

記事:勝俣隆

 

ドナヒューパスといえば、昨年より南下するハイカーの人数制限が開始されたので、JMTに興味がある方には馴染みがあるかもしれません。JMTの58キロ地点過ぎにある、最初の大きなパス(峠)です。

 ドナヒューパスの人数制限が行われている理由として公園局は「パーミッションを事前に押さえるスルーハイカーによって、2-3日のハイカーの利用が制限 されてしまっている」と説明しています。確かにスルーハイカーならパーミッションに合わせて旅程をずらせますので、他のハイカーのヨセミテ近郊のトレイル 体験を阻害してしまう要因なのでしょう。

もう一つの問題として、この区間のオーバーユースです。トレイルを見ていただければ分かりますが浸食が著しいです。(この写真は10年前のものです。それ以降はできれば通らないようにしているので写真がありませんでした。)
通常、アメリカの公園局は浸食したトレイルを移設してリベジテーション(植生の回復)をさせるのですが、この区間のトレイルではできる限りトレイルを拡 げないという策を取られていると聞きます。登山靴などのハードブーツではなく、いわゆるテニスシューズ(トレランシューズ)を使うウルトラライトハイキン グが”Walk Gently(そっと歩く)”を助けるものとして評価されたのも頷けます。
(アラスカの原野などは、縦列になって歩くと轍ができるので、縦に並ばずに横にならんで歩くように言われますね。)

自然保護の点から言えば、シエラネヴァダやアラスカの国立公園は「できる限り歩く人を減らしたい」というのが第一で、アメリカ東部や日本のように「多くの 人が自然に触れることを通して環境保護の芽を育てたい」といったナイーブさはありません。ハイカーが増えても環境にはよいことはないのですものね。

ヨセミテ~トゥオルミーまでの区間は交通の便も良いのでシエラネヴァダの景観を短時間で味わうにはよいですが、スルーハイカーのように時間に都合がつくの でしたら、さらに美しい景観が広がるドナヒューパス以南のトレイル、ないしはJMT以外のトレイルを歩いてもらいたい、と公園局が思うのは無理もありませ ん。

全トレイルを歩くという目標を達成することに意味を持たしがちですが、オーバーユースとトレイルの浸食という課題がある以上は、代替ルートやJMT以外のルートを歩くことをお勧めしたいです。(ワークショップでもこのあたりのお話はします)

ハイカーが一人歩くだけでも負荷が掛かるものですが、できる限り負担のかからない形で自然に触れたいものです。

勝俣隆

書き手勝俣 隆

1972年、東京生まれ
ULハイキングと文学、写真を愛するハイカー。トレイルネームは「Loon(ルーン)」
アパラチアン・トレイルスルーハイクののちハイカーズデポ スタッフへ。前職での長い北中米勤務時代にULハイキング黎明期の胎動を本場アメリカで体験していた日本のULハイカー第一世代の中心人物。ハイキングだけでなく、その文化的歴史的背景にも造詣が深い。ジョン・ミューアとソローの研究をライフワークとし、現在は山の麓でソローのように思索を生活の中心に据えた日々を過ごしている。2016年以降、毎夏をシエラネバダのトレイルで過ごし、日本人で最も彼の地の情報に精通しているハイカーと言っても過言ではない。著書に『Planning Guide to the John Muir Trail』(Highland Designs)がある。

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