バイクパッキング

THE GREAT DIVIDE BIKEPACKING [Vol.1]

2016/12/21
二宮勇太郎
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【Bikepacking カルチャーに触れる旅】
生活道具の全てを自転車に積み、自然のなかを旅するBikepacking。これまでの自転車旅と何が違いどんな人達がそこにいるのか。3000kmの道のりを通して見えてくるBikepackingの魅力とは。

THE GREAT DIVIDE BIKEPACKING

[Vol.1]
Bikepackingカルチャーに触れる旅

記事:二宮勇太郎

 

「アメリカの大地を自転車で旅してみたい」こんな想いが初めて生まれたのは2012年、アメリカの Pacific Crest National Scenic Trail(略称 PCT)を歩いたときでした。

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5ヶ月間のPCTスルーハイキングで経験した自由な感覚は今でも強く印象に残っています。その感覚は途方も無い距離を徒歩で移動するからこそ感じられたものなのかもしれません。ロングディスタンスハイキングの持つ魅力は、歩くというシンプルな行為がもたらす独特の時間経過をたのしむことでもあります。

一方で徒歩は、その広大な土地を移動する手段としては非効率な方法でもあります。最も原始的な移動方法で一日に移動できる距離は数十キロが限度でしょう。ましてや水、食料や生活道具一式を担いでいては体への負担も少なくありません。そういった制約のなかで旅をプランニングしていくことは「もっと遠くまで行きたい」「もっと色んなものを見てみたい」気持ちをどこかで諦める必要を生じさせます。実際のところPCTスルーハイキングではその制約のせいで諦めた“寄り道”がたくさんありました。

そんななかで出てきた想いが「自転車でトレイルを旅してみたい」ということでした。自転車だったらもっと遠くまで速く楽に行ける。その分もっと色んな寄り道もできる。そして帰国後アメリカではすでにこのような遊びをしている人達が多くいることを知りました。彼らは「Bikepaking 」という新しい手法を用いて自転車旅を楽しんでいたのです。こうして色々と調べていくうちに、漠然とした想いが具体的な目標へと変わっていきました。

そしてPCTスルーハイキングから4年後。2016年6月、アメリカのみならず世界においても屈指の Bikepacking ルートである『Great Divide Mountain Bike Route』へ行くこととなったのです。

 

What's Bikepacking

ここ数年、日本でも耳にする機会の多くなったBikepackingという言葉。これは自転車旅の新たな方法として広まりつつあるアメリカ発祥のムーブメントです。

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北米の広大な原野をフィールドとし、衣食住全てをマウンテンバイクで運びながら旅をするスタイルは、これまで舗装路をメインとしてきた自転車ツーリングとは異なるものとして、使用する道具に独自の発展を促しました。
オフロード走行に有利とされる軽量でコンパクトなツーリングバッグは、固定用のラックを必要としないシンプルな取り付け方法や、その新鮮な見た目も相まって自転車ツーリングの新しいスタイルとして注目されています。今回の旅でもこの手法は長いダートロードを走るうえでおおいに役立ちました。

 

Premier Long-Distance Mountain Bike Route

『Great Divide Mountain Bike Route』。カナダのアルバータ州 Banffからアメリカのモンタナ州、アイダホ州、ワイオミング州、コロラド州、ニューメキシコ州 Antelope Wells または Columbus まで、南北に繋がる Great Divide Mountain Bike Route (GDMBR) は総延長 4455.3kmの自転車ダートツーリングルートとして、1997年にアメリカの Adventure Cycling Association という団体によって開発されました。

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アメリカの中部に位置するルートは中央分水嶺と並行し、北部ではロッキー山脈を間近に感じながら、グランドティートン国立公園やグレートディバイドベイスン、ルート上の最高地点インディアナパス(標高3630m)を過ぎ、南部ではギラウィルダネスなど山岳エリアから砂漠まで変化に富んだ景色を味わいながらひたすらダートロードを走ります。

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その景観の素晴らしさから"Premier Long-Distance Mountain Bike Route" と称される GDMBR には、山岳エリアで雪の影響を受けない6月から10月の間、全米あるいは世界各地から多くのサイクリスト達が集まり賑わうほか、"Tour Divide" というセルフサポートの自転車レースが行われるなど Bikepacking のムーブメントの中心地であり憧れの地として認知されています。

僕は El paso Airport と GDMBR のアクセスを考え、Columbus, NM を6月に下旬にスタートし Banff, Canada を目指す予定でしたが、スタート直後あまりの暑さで熱中症となり、北米内陸南部の過酷な熱さを無理して進むことを諦め、全行程の走破は断念しました。結果として走破距離はコロラド州中部のSilverthorneからカナダの Banff まで3000km弱の行程となりました。

 

自転車旅の新しいスタイル

その斬新なルックスから道具に注目が集まりがちな Bikepacking(バイクパッキング) ですが、本当の魅力は“バイクパッキングをする行為”そのものにあります。
バイクパッキングとはオフロードツーリングの方法の一つです。ソフトバッグに代表される装備の軽量化で得た高い機動力によって、これまでのツーリング自転車では行くことが困難だった場所へのアプローチが容易になりました。舗装路からジープロード、さらにはトレイルまでをカバーできるバイクパッキングは、より自然をダイレクトに感じながらの自転車旅を実現します。それは自転車乗りにとって、フィールドの可能性を拡げるきっかけとなりました。

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さらにバイクパッキングはロングディスタンスハイキングを経験したハイカー、憧れるハイカー達にも新しい旅の可能性を提示しています。(ハイキングや旅に人生を捧げれば別ですが)人生においてそう何度も数ヶ月以上をかけてハイキングや旅をするのは容易ではありません。
トレイルやジープロードなどロングディスタンストレイルのフィールドを共有するハイカー達にとって、より速く楽に移動できるバイクパッキングのスタイルは、時間、距離、体力などのハードルを下げる力になります。
これまで仕事など時間の都合や体力の不安で諦めていた長い旅が、バイクパッキングなら可能になるのです。

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親子三代でのバイクパッキング。ハイキングならこうは簡単にいかないだろう。

 

 

このようにサイクリストだけでなくロングディスタンスハイカーにとっても大きな魅力となる Bikepacking は、自然の中を長期で旅する方法として広がりつつあります。事実、旅のなかで出会った Bikepacker のなかにはロングディスタンストレイルのスルーハイキング経験者で、僕と同じ2012年にPCTを歩いたハイカーもいました。

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とあるキャンプグラウンドで2012年PCTスルーハイカーとまさかの再会

 

GDMBRは、1997年の完成から19年*1という時を経て、旅を愛する様々な人たちを受け入れるフィールドとなり、それ以外にもたくさんの人を巻き込んで文化を形成し続けています。(*1 2016年時点)

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日本でバイクパッキング が語られるとき、僕のなかに必ず浮かぶ疑問がありました。「それって自転車ツーリングとなにが違うの?」もともと長く旅をするサイクリスト達は荷物が多くありません。テントも持っていました。そうして長く様々な土地を旅してきたのです。今日本で言われているバイクパッキングは、従来の自転車旅をバイクパッキングの道具に置き換えたものでしかないと思うのです。

今回GDMBRで体験したものは、これまで日本で紹介されていたバイクパッキングとは大きく異なるものです。
それは4,000km以上のトレイルを徒歩で旅した人間にとっても十分な魅力を持っていました。日々変化する路面状況をダイレクトに感じながら自転車で旅をする。
“オフロードに特化した自転車ツーリング=Bikepacking ”
この新しい手法が生まれてきたからこそ実現できる旅のかたちがそこにはあったのです。それを僕は身をもって、見て、聞いて、話して、肌で感じてきました。

これまで長距離を旅する方法として紹介されることのなかった Bikepacking について、これからもHiker's Noteで少しずつ紹介していきたいと思います。

二宮勇太郎

書き手二宮 勇太郎

1982年、広島生まれ
故郷広島のMTB & BMXローカルコミニティ出身のハンモックマニア。トレイルネームは「Nino(ニノ)」
パシフィック・クレスト・トレイルスルーハイクののちハイカーズデポ スタッフへ。ハイキング&バイクパッキング両方でアメリカの人力縦断を経験。その貴重なノウハウを活かしてハイカーズデポの店頭業務を切り盛りしている。広島時代から旅の道具としてハンモックを活用。ウェブマガジンTRAILSとの共催イベント「Hammock for Hikers」をはじめ、雑誌・WEBなどの各種媒体でハイキングにおけるハンモックの有効性を伝えている。2019年には南アルプス北部縦走をハンモック泊でおこなうなどその可能性の追求に余念が無い。

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