バイクパッキング

THE GREAT DIVIDE BIKEPACKING [Vol.2]

2017/03/10
二宮勇太郎
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【Long Touringのフィールド GDMBR】
Bikepackingを語るうえで欠かせないフィールドの魅力。多くのBikepackerが集まるGDMBRとはどんなところなのでしょうか。第2回目は全行程の約4,500kmに渡るGDMBRをエリアごとに分けてご紹介します。

THE GREAT DIVIDE BIKEPACKING

[Vol.2]
Long Off Road Touringのフィールド

記事:二宮勇太郎

Bikepackingのフィールド

今回 Bikepacking(バイクパッキング)というオフロードツーリングの方法を用いて GDMBR (グレイトディバイドマウンテンバイクルート)を旅した理由は、それが「自然の中を長い距離、長い時間をかけてたのしむ自転車旅のフィールド」だったからに他なりません。仮に GDMBR が舗装路をメインとしたルートであったとしたら、魅力を感じなかったでしょう。
ハイキングを好む人たちにとって重要なのはできるだけ長い時間を自然の中に身を置くことであって、ずっと街の中をウォーキングすることではないはずです。ハイキングとウォーキングの魅力がその環境によって異なるように、自転車ツーリングにおいてもどんな環境を走るかでその魅力に違いがあるのは当然です。
バイクパッキングが語られる上で、このオフロードを主体とすることは重要なのです。

 

・なぜ日本にはバイクパッキングが生まれなかったのか

これまで日本の長距離自転車ツーリングといえば日本一周に代表される舗装路を前提にしたものがほとんどです。北海道の林道ツーリングのように未舗装を選んでツーリングしたところで、何百キロと未舗装路を繋ぐことは難しいでしょう。それは日本の地理的な要因によって仕方のないことで、良い悪いの問題ではありません。日本の自転車旅愛好家から長距離のオフロードツーリングという発想が生まれてこなかったのは当然といえます。

それ以外にも日本で長距離オフロードツーリングが生まれにくい理由があります。日本で未舗装の道といえば山道あるいは林道です。山道には登山道として利用されているところも多く、そういった場所では過去に登山者と自転車乗りの間でトラブルが発生することがありました。特にオフロードツーリングを広めた90年代のマウンテンバイクブームは、負の遺産として日本各地に自転車の乗り入れ禁止区域を残したのです。
もちろん日本にもパスハントや山サイクリング(山サイ)など古くから山道で自転車をたのしむ文化はありますが、これらはローカルショップやローカルクラブ、一部の愛好家がルールを遵守しながら大切に守ってきたものです。山道での自転車の走行について規制が曖昧な日本では、たのしみ方が個人のモラルに委ねられます。
今後バイクパッキングが広く受け入れられていくには、まず道を共有する人達との関係を意識しながらきちんとルールを作り、守っていくことが重要でしょう。

 

・マウンテンバイキングのルール

一方バイクパッキングの盛んなアメリカには広大な国土があり、無数の未舗装路が存在します。日本に比べてオフロードツーリングに有利な環境であることは間違いがありません。しかしアメリカにおいてもオフロードツーリング愛好家がハイカーやホースバックライド(乗馬)をする人達によってトレイル(未舗装路の一種、小道)から締め出しをくらった過去があります。トレイルを自転車が荒らしているというのが理由でした。
そこで熱心なオフロードツーリング愛好家たちは団結して組織を結成します。IMBA (International Mountain Bicycling Association)に代表されるそれらの団体は、自らのフィールドを獲得するためにまずライダー達にルールの徹底を促し、トレイルの維持、管理に乗り出します。こういった努力が認められ、現在アメリカでは明確に自転車走行が認められたトレイルがいくつも存在します。Pacific Crest Trail など自転車走行が認められていないトレイルも多くありますが、それを明確にすることでハイカーにとってもライダーにとっても過ごしやすい環境になっているのです。
バイクパッキングはこうして時間をかけて作られたルールと道をフィールドとして広まった遊びのスタイルで、それを長い年月かけて繋ぎ完成したのが GDMBR なのです。

残念ながら現在の日本ではアメリカのように開かれた環境で、自由なバイクパッキングをたのしむのは困難です。それと同様にバイクパッキングを正しく理解するのが難しい環境といえます。だからこそバイクパッキングの本当の魅力を知るためには実際にそれが盛んな場所へ出向き、体験することが大切なのです。

ここからはバイクパッキングのフィールドとして古くから知られる GDMBRの環境について、オフロードツーリングの魅力を交えながら紹介していきたいと思います。

 

Great Divide Mountain Bike Route 詳細

GDMBR はトレイルやジープロード(自動車が通行できる幅の広い未舗装路)など、自転車走行が認められた未舗装路を、部分的に舗装路で繋いでできたバイクパッキングルートです。

GDMBR

北端はカナダのBanffから南端のアメリカ New Mexico州 Antelope Wellsまでロッキー山脈(中央分水嶺)に沿って伸びるルートは Canada Section が約400km、そこからMontana州、Wyoming州、Idaho州、Colorado州、New Mexico州とアメリカを縦断するかたちで連なります。これはアメリカの3大縦断ハイキングトレイルの一つであるCDT (Continental Divide Trail) と並行していますが、CDTが積極的に分水嶺を縦走するのに対してGDMBRは山裾を走るといったように、ほぼ道は並行するもののその環境には大きな差があります。

全行程の環境を大まかに区別するとカナダとMontana州はノーザンロッキーの山岳エリアでアップダウンが多く、Wyoming州とIdaho州は標高の高い砂漠エリアで比較的フラットです。Colorado州ではColorad Rockiesといわれる険しい山岳地帯で大きなパス越えを繰り返し、New Mexico州では広大な砂漠を走ります。エリアごとに気候も異なり、気温や乾燥、風や雨などの天候が変化するだけでなく、地質の変化もルートの路面状況に反映されるので注意しなければいけません。GDMBRを通しで走り切る場合、一般的には1~2ヶ月の時間を要しますが、それを計画するには情報が必要です。

Adventure Cycling Association が発行する GDMBR の公式マップでは、総延長4455,3kmを7つのセクションに区切ってマッピングしています。起点のカナダBanffから、終点のニューメキシコ州Antelope Wellsまで400km~800kmごとに、カナダセクション以外にアメリカをセクション1から6までに区切って構成されます。
セクションごとの環境やルートの距離または標高の変化、それ以外にもキャンプ地や街の情報までを網羅したこのマップはGDMBRを走るBikepackerのほとんどが頼りにしている情報源です。
またマップとは別に発行されるガイドブックでは、全行程を70日で走る具体的な旅のプランが紹介されています。一日の平均移動距離が約64kmと無理のない行程は健脚のライダーにとっては物足りないものですが、キャンプ地の選定や補給の参考として大いに役立つガイドブックです。
僕が実際に走ったのは南から北へ向かってですが、それとは逆に今回はこの公式マップの区分やガイドが示す日程に沿ってセクションごとの環境や特徴をお伝えします。

GDMBR

 


[CANADA SECTION]
Banff, AB to Roosville, MT / 410.6km / 8 Days

カナダ・アルバータ州(略AB) Banff(バンフ)からアメリカ・モンタナ州との国境の町 Roosville(ルーズヴィル)までは、カナディアンロッキーの壮大な景色を味わえるセクションです。北部の Spray Lake や Kananaskis Lake など大きな湖のほとりを通過するルートからは、間近にダイナミックな山並みが見られます。
僕が通過したのは、8月上旬のころです。

GDMBR

 

ルートはセクション中で最も標高が高い Elk Pass でも2000m未満ですが、冬の積雪量が多いこのエリアでは6月上旬までは雪が残る可能性が高く、GDMBRを北からスタートするサウスバンドライダーは6月下旬以降を推奨されています。また例年は9月下旬には降雪が始まるため、通しで北上するノースバウンドライダーも注意が必要です。しかし雪が残りやすいポイントには迂回路も用意されているので、状況に応じてルートを選択できます。
木々に覆われたダートロードがメインのこのセクションには野生動物が多く生息していて、特に南部の Flathead River や Wigwam River 周辺のルートは Grizzly Bear Highwayと呼ばれるエリアです。このエリアではグリズリーこそ見られませんでしたが、ブラックベアは頻繁に目にしました。

GDMBR

僕は用心としてベアスプレーを携帯していましたが、出会った GDMBRライダーもほとんどが同じくベアスプレーを持っていました。グリズリーの多い山域では、精神衛生上ベアスプレーがあったほうが健全です。

GDMBR

 

そして僕が今回走ったルートの中で道が最も荒れていたのがこのカナダセクションです。通過した時期は8月初旬でしょうか。ルートの一部にあるシングルトラック(*自転車一台分くらいの道のこと)では空身で歩くのさえ困難な急斜面もありました。傾斜だけでなく草木が茂っているせいで自転屋を担ぎ下ろすのがやっとです。そのすぐ先には道が倒木で完全に塞がっているところがあり、ここも自転車を担いでクリアしました。こういうときにこそ荷物の軽量化が活きてきます。

GDMBRGDMBR

また道が荒れて川のようになっている上り坂もあります。ぱっと見では道なのか判別ができず、何度もGPSを確認して走りました。

GDMBR

天候が変わりやすく夏場でも気温の高くならないエリアで、朝晩寒く冷たい雨にさらされることもありますが、その分日中は過ごしやすく暑さに悩まされることもありません。水場が豊富なので、飲み水の確保も容易です。樹林帯の中をルートが走るおかげで強風にもさらされることもなく、ジープロードが主体のGDMBRの中でもシングルトラックが多いので、より刺激的なサイクリングがたのしめるのが特徴です。

GDMBR

 


[SECTION 1]
Roosville, MT to Polaris, MT / 867.7km / 16 days

ここからはいよいよアメリカ、最初の州はMontana(モンタナ)です。
モンタナ州は北部では Glacier National Park(グレイシャー国立公園)の西側をかすめながら穏やかなダートを走りますが、南部では急なアップダウンが多くそれが一日に何度も繰り返されることもあります。ラテン語で「山」を意味するMontanaの名前に恥じないタフなセクションです。ルートは整ったジープロードがメインですが、部分的に荒れたところやシングルトラックもあり、飽きることがありません。

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北上ルートの僕がここを通過したのは7月末くらいで、夏でも昼間の気温は25度くらいまでしか上がらないため快適ですが、夜は一気に冷え込みます。南部の標高が高いところでは季節外れの雪に見舞われることもありました。

GDMBR

モンタナ州北部にはロケーションの良いキャンプサイトが多く、充実したキャンプを楽しめます。

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そしてこのセクションは全体に市街地が多いです。セクション中部ではルート上で街が連続することがあり、間隔が20kmに満たないこともあります。結果的にこのエリアでは舗装路を走る機会が増えるのは仕方がありません。
途中に通過する Helena と Butte という街は19世紀後半に金や銅の採掘で栄えた場所で、GDMBRのなかでも規模は大きく古い街並みが残ります。GDMBRは自然の中を走る目的で作られたルートですが、ライダーが食糧補給や突然のトラブルに対処できるよう考慮し、このような街を通過するようつくられています。大きな街には自転車のプロショップもあり、自転車の整備にも対応してくれます。

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GDMBRのガイドブックにはルート周辺の街や施設についての歴史も書かれているので、その場所の歴史的背景を知りながら街の観光も含めて旅を楽しめます。このセクションは山だけでなく、古い街並みも楽しめるGDMBRでは異色のセクションです。

 


[SECTION 2]
Polaris, MT to South Pass City, WY / 816.6 km / 12 days

このセクションはモンタナ州からわずかにIdaho(アイダホ)州を通過してWyoming(ワイオミング)州へと続きます。
北からルートは Yellowstone National Park(イエローストーン国立公園)をかすめ、そこからGrand Teton National Park(グランドティートン国立公園内)を通過し、Wind River Range(ウィンドリバーレンジ)の麓へと進みます。ここを僕が通過したのは7月の中旬頃でした。標高の変化は少ないものの、強い風と雨に悩まされました。

GDMBR

セクション中部はアップダウンの多い北部の樹林帯から環境がガラッと変わり、広大な丘陵地帯になります。Red Rock River 周辺の丘陵地帯では、立っているのがやっとな位の強風が常に吹いています。強い向かい風ではいくらフラットな路面でも軽いギアでなければとても前に進めません。それどころか下り坂でも漕がなければ前に進めずストレスが溜まる一方です。逆に追い風では勝手にスピードがどんどん増していきますが、そう長くは続きません。丘陵地帯では一日じゅう強風と戦わされる羽目になりました。

GDMBR

 

またこのエリアでは毎日のように強い夕立がやってきます。午前中にいくら晴れていようと必ずやってくる激しい風と雨のなか、だだっ広い草原では逃げる場所もなく、ただひたすら止むのを待つしかありません。そして1~2時間で止む雨の後には大きな水たまりと泥道だけが残されます。雨が止んでもなお続く泥道は、夕方の疲れ切った体には特に辛く感じます。

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体力的、精神的そのどちらにとってもタフなエリアですが、それでも漕いで進めば環境は変わるもの。GDMBR が通過するグランドティートン国立公園では、圧倒的な景色が待っています。

GDMBR

 

グランドティートン国立公園内の Colter Bay Village には大型のキャンプサイトがあり、そのほとんどはオートキャンパーのためのサイトですが、一部の区画をハイカーとサイクリストのために解放しています。このような大規模なキャンプグラウンドには施設が充実しており、品揃えの豊富な売店からレストラン、シャワーからコインランドリーに至るまでツーリストにとって必要なものがほぼ完璧に揃っています。GDMBRライダーはこういったキャンプグラウンドの施設も利用しながらを旅を続けます。

GDMBR GDMBR

 

セクションの南部では遠くにウィンドリバーレンジを望みながらゆったりとしたルートを進みます。このセクションは比較的フラットなジープロードや舗装路を進むにも関わらず、風や雨の影響でなかなか思うようなペースでは進めません。地図を見ただけでは判断できないBikepackingの難しさを実感できるセクションです。

GDMBR GDMBR

 


[SECTION3]
South Pass City, WY to Silverthorne, CO / 646.2 km / 8 days

セクション3は北半分がWyoming(ワイオミング)州、南半分はColorado(コロラド)州になります。
ワイオミングでは高地砂漠の Great Divide Basinを走り、コロラドに入ってからは GDMBR の核心部である Colorado Rockies に向けて徐々に標高を上げていきます。

GDMBR

セクション北部にあるGreat Divide Basinは分水嶺でありながらも広大なデザートエリア(荒涼とした大地、砂漠)で、ここは特に水の少ないエリアとしてガイドマップでも注意書きがされています。200km 近く水場のない区間は GDMBR でもここと New Mexico だけです。Sweet Water River から Rawlins という街までの約200kmは水場が全くありません。僕がこの辺りを走ったのは7月上旬で日中の気温は30度くらい。日差しが強く暑いので水を消費してしまいがちです。なるべく無駄に水を消費しないよう、昼の暑い時間帯は日陰を探して休憩しながら走りました。

GDMBR GDMBR

 

この辺りでは細かいアップダウンのあるジープロードが続き、体力を消耗します。そしてそれ以上にこのエリアで苦労するのは特殊な路面の状態です。一見フラットに見えるダートロードの路面には、よく見ると洗濯板のような細かい連続した凹凸が見られることがあります。この風化によってできた Washboard Road(ウォッシュボードロード)と言われる状態は乾燥したエリアで頻繁に出現し、厄介なことに自転車を一定のリズムで振動させ続けます。まるで階段を自転車で駆け下りるような振動が延々と続くのです。こういった特殊な状態はライダーでけでなく自転車にもストレスになります。それを避けるためには、少しでもフラットな路面を探して道全体を蛇行しながら走らなければいけません。このエリアで特にウォッシュボードロードに苦しみましたが、これはGDMBR全体でしばしば見られる光景です。そして僕が通過した7月前半の季節、夕立は毎日のようにやってきました。

GDMBR GDMBR

そんな乾燥地帯を南に進めばいよいよコロラドです。
コロラド州に入ると砂漠から一変、高山植物に囲まれたルートになり、標高が3,000m近い峠(パス)越えも出てきます。少しずつアップダウンの規模を大きくしながら本格的な山岳エリアへと向かいます。

GDMBR

 


[SECTION 4]
Silverthorne, CO to Polatoro, CO / 506.4km / 9 days

南部を暑さでスキップしたので、僕が自走できたのは Silverthorne から Banff までとなります。ここからは僕が実際に走ってはいませんが、ガイドブックと車での移動時に感じたことををもとに南端までルートを紹介していきます。

セクション4は GDMBR の最高地点 Indiana Pass (3630 m)や Boreas Pass (3499 m)を通過します。その後も大きなパス越えは続き、40km登ってはまた同じ距離を降るような地形で肉体的にも精神的にも試練のセクションといえるでしょう。全体的に標高の高いこのエリアでは、雪によって閉ざされる期間が長いのも特徴です。自転車というスピードがあるのでハイキングと比べ時間や期間の制限が少ないバイクパッキングですが、ここだけはハイキング同様自然の力の前には従うしかないのです。残雪は5月ごろまで残り降雪は9月下旬には始まるので、6月から9月の期間中に通過しなければいけません。標高が高くスケールの大きなパス越えを体験できるこのエリアは、悔しさの残る、いつかトライしてみたいセクションです。

 


[SECTION 5]
Polatoro, CO to Pie Town, NM / 689.4km / 10 days

本格的な砂漠エリアとなるこのセクションは、奇岩を眺めながら細かく急なアップダウンを繰り返します。広大な砂漠は気温が高く、水に乏しいこのエリアでは飲み水の確保が課題です。Cubaという街からGrantsという街まで約190kmの区間では、途中で水を確保できる場所がありません。自転車で快走しても1日以上かかるこの区間では、持てる限り水を自転車に積んで走ります。僕が現地で出会ったライダーは、この区間6リットルの水を積んで走ったそうです。

そしてなによりNew Mexicoで最も重要な問題は7月から8月にかけての雨季です。乾燥地帯の雨であれば問題がないように感じますが、このエリアは土質が火山性の粘土質で、土が水を含むとタイヤにまとわりついて走行が困難になるだけでなく、靴にもまとわりついて団子状になり歩くのさえ厳しい状況になってしまうと言われます。運悪く季節外れの雨に遭ってしまったライダーのために大規模なオルタネイトルートも用意されていますが、基本ダートロードが延々と続くGDMBRでは、雨期を避けて走るのが賢明です。
実は僕が北上ルートを選んだのも、休みの取れた期間で南下ルートを取るとこの雨季に当たるからで、それを避けるためでもありました。しかし結果として雨季は避けられたものの、暑さに阻まれる形となりました。

 


[SECTION6]
Pie Town, NM to Antelope Wells, NM / 492.5 km / 7 days

最南端の Antelope Wells(アンテロープウェルズ) を含むこのセクションは北部では多少アップダウンがありますが、かなりの部分をフラットな舗装路が占めるため1日の移動距離は伸びます。環境はセクション5 同様で暑さと飲み水の確保が課題です。僕がスタートでトライした6月下旬のニューメキシコ州は日中の気温が40度を上回り、日中に日陰の全くない砂漠で過ごすのは危険を伴います。このセクションを通過する時期や方法については慎重な計画が必要でしょう。

北部にあるPie Townは街ではなくカフェとバー、小さな宿泊施設があるだけの集落ですが、名前の通りパイで有名な場所で、カフェにはGDMBRライダーだけでなく CDT (Continental Divide Trail) ハイカーも集うオアシスです。このカフェは GDMBRライダーや CDTハイカーを支える存在として認められ、2007年に Adventure Cycling Association から Curry Trail Angel Award という賞が与えられています。
アンテロープウェルズはアメリカとメキシコの国境地点で GDMBR の最南端ポイントであると同時に CDT の最南端ポイントでもあります。しかしここには宿泊施設や商店がありません。スタートあるいはゴール地点としても大きな都市からのアクセスが非常に悪いため、よりアクセスし易いアンテロープウェルズから北西約150kmにあるColumbus(コロンバス)という小さな町もGDMBRの南端として認められています。
時期によっては過酷な暑さで厳しいサイクリングを強いられるセクションですが、GDMBRを影で支える Pie Town はいつか行ってみたい場所のひとつです。

 


 

GDMBRの魅力とは何か

改めて、僕にとって GDMBRの何が魅力的だったのかと言えば、主に未舗装のオフロードを走りながら、長い距離、長い時間、旅を続けられるということでした。
もともと自転車が好きな僕にとってはハイキングはある意味冒険であり、自転車旅という方が身近な存在でした。そんな僕がロングディスタンスハイキングで知った長くトレイルを歩いて旅をする楽しさと自転車でオフロードを長く旅をするバイクパッキングを繋げて考えることは、むしろ自然だったのかも知れません。

距離が長いということは、それだけ多く環境の変化を感じられます。GDMBR でアメリカを縦断する間には、高山あり砂漠ありと日本では感じることの難しいメリハリがはっきりした刺激的な変化を体験できます。この変化を求める思いが旅への好奇心を誘い、それを満たしてくれる距離が GDMBR にはありました。合わせて自転車を使っての旅は、徒歩旅行よりも短い時間で、体への負担が少ない、長距離の旅を可能にしてくれたのです。

舗装されていない道は、自転車での移動そのものを刺激的なものにしてくれます。アスファルトで均一化された道は快適な反面で変化に乏しく、移動する実感や楽しさが一定化してしまいます。それに対し、その土地が持つ特徴を表す未舗装路を走ることで、地質の違いや天候による路面状況の変化を知り、自分がその場所に居る感覚を色濃くし、移動していることをはっきりと実感させてくれます。

自然と旅を愛好するツーリストたちが長い年月をかけて作り上げた GDMBR というフィールドには、長距離のオフロードを自転車で旅する楽しみが凝縮されていると思うのです。だからこそ、これに共鳴する沢山のサイクリストやロングディスタンスハイカーを強く惹きつけているのでしょう。

 

次回はそんなオフロードロングツーリングのサイクリストたちの「生活のこと」「道具のこと」を紹介していきたいと思います。

二宮勇太郎

書き手二宮 勇太郎

1982年、広島生まれ
故郷広島のMTB & BMXローカルコミニティ出身のハンモックマニア。トレイルネームは「Nino(ニノ)」
パシフィック・クレスト・トレイルスルーハイクののちハイカーズデポ スタッフへ。ハイキング&バイクパッキング両方でアメリカの人力縦断を経験。その貴重なノウハウを活かしてハイカーズデポの店頭業務を切り盛りしている。広島時代から旅の道具としてハンモックを活用。ウェブマガジンTRAILSとの共催イベント「Hammock for Hikers」をはじめ、雑誌・WEBなどの各種媒体でハイキングにおけるハンモックの有効性を伝えている。2019年には南アルプス北部縦走をハンモック泊でおこなうなどその可能性の追求に余念が無い。

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