バイクパッキング

THE GREAT DIVIDE BIKEPACKING [Vol.3]

2017/04/27
二宮勇太郎
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【Bikepacker's Life】
GDMBRを旅するBikepacker達はアメリカの広大な大地を、街での生活のように時間や情報に縛られことなく、必要なものだけを自転車に載せ、食べ、眠り、走る生活を続けます。今回はそこでの生活がどんなものなのか僕のGDMBRでの経験をもとに紹介していきます。

THE GREAT DIVIDE BIKEPACKING

[Vol.3]
Bikepacker's Life

記事:二宮勇太郎

GDMBRの毎日

GDMBRで過ごした1ヶ月あまりの間、僕は朝起きてから眠るまでの時間のほとんどを自転車に乗って過ごしました。この先にはどんな景色が待っていて、今日はどんな寝床を見つけられるか。明日着く街にはどんなレストランがあるんだろう。そんなことばかりを考えていたようにおもいます。『Eat, Sleep, Ride, Great Divide』に象徴されるGDMBRの毎日を少し詳しく紹介していきます。


EAT ~食べることについて~

・GDMBRの食料補給事情

4,000km以上の距離からなるGDMBRはそのほとんどが人里離れたダートロードです。道以外にはほとんど人工物のないダートロードを走る間に必要な食糧は、ルートの途中で通過する街や集落で補給します。GDMBRでは食糧補給できる間隔が250km近く離れるところもありますが、ほとんどの場合100~150km間隔で食糧補給ができます。
しかしその区間で必要な食糧のボリュームはそれぞれの走るペースで異なります。一日で60km走る人と毎日100km以上をコンスタントに走る人では次の補給地点までにかかる時間に差があるからです。まず自分に必要な食糧の量を計算するには、自分がどれくらいの距離を一日で移動できるのかも把握できないといけません。とはいっても初めてのオフロードツーリングで最初から自分のペースが正確に把握できるはずもなく、僕も旅の始めには過剰な量の食糧を持って移動していました。

 

・どこで買えるか

GDMBRが通過する大きな街やアウトドア用品の充実したキャンプグラウンドの売店などではアウトドア用に作られたドライフードが手に入れられます。しかし大抵そういった食品は値段が高く、どこでも売っているわけではないので、ほとんどは一般商店で手に入れられる食品に頼ることになります。
アメリカのGrocery Store(またはGrocery、食料品を扱う雑貨店)では生鮮食品から乾燥食品まで想像できるほとんどの食料品が手に入ります。ただし大型のグロサリーはある程度大きな規模の街にしかなく、ルート上にも限られた数しかありません。その代わりアメリカにある大抵のガソリンスタンドは日本でいうコンビニ並みの品揃えのグロサリーやGeneral Storeを併設しているので、小さな集落でもガソリンスタンドさえあればある程度の食糧を補給できます。ときには大型のグロサリーを利用しながら、小規模店をうまく組み合わせて自分に合った食糧を確保します。

GDMBR Vol3
ガソリンスタンドの売店前で休憩中。日本のコンビニ以上に品揃えが豊富なところもあります。

 

・なにを食べるか

僕の場合、ルート上での食事といえばインスタントラーメンやマッシュポテト(湯や水で戻すだけの粉末状になったジャガイモ)にパウチのツナを加えたものを夕飯用に、それ以外の日中はプロテインバーやスナック、キャンディーなど適当なもので済ませていました。持ち運ぶのに軽量で安価なこれらの食品は、アメリカの大型グロサリーではたくさんの種類から選べます。小規模なグロサリー、ガソリンスタンドや小さな集落のジェネラルストアでは限られた種類となるものの、基本的にはどこの町でも手に入れられるものばかりです。

GDMBR Vol3
粉末のマッシュポテトやラーメンが主食。あとは適当に食べられるスナック類と粉ジュースなど。

とにかく一日中自転車で移動するのに必要なエネルギーやたんぱく質を補うためになるべく高カロリーで高たんぱくなものを選びます。どれもとびきり美味しいものではありませんし、健康的とはいえません。しかし調理が簡単で、どこでも安定して入手できる安価な食べ物の味に慣れることも、アメリカを長期で旅するときには必要です。
ちなみに僕がGDMBRで食べていたものは、2012年にPCTで食べていたものとほとんど変わりません。アメリカでのハイキング経験をそのまま活かせたので、食料計画で困ることは全くありませんでした。

GDMBR Vol3
キャンプサイトの夕食。この日はツナ入りラーメン。

 

もちろんGBMBRでの食事はスナックや乾燥食品ばかりではありません。ルートが町や集落を通過すれば当然レストランもあります。日頃は粗末な食事をしている分、レストランではここぞとばかりによく食べました。一日中自転車を漕いで消費したカロリーを補うべく高カロリーな“ドライではない”ものを選びます。

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腹ペコで入ったピザ屋で注文したのがこれ。ベーコンとペパロニ、謎肉が全面を覆った、その名も「ミートラバーピッツァ」。これを一人で完食した。

GDMBRは、エリアによって補給できる間隔にかなりの差があります。Montana州では50kmに満たない間隔で街や集落をいくつも通過することがありました。その他にも山奥に突然リゾート地が現れて食事ができたりと、食環境は豊か過ぎるほどです。例えば朝キャンプ地を出発して数キロ先のレストランで朝食をとり、またしばらく走って昼過ぎには街に着いてファーストフードを食べて一休み。ついでに街で夕食とビールを買って山奥のキャンプ地を目指して走るというような一日を過ごしたこともありました。もちろんいつもがそうではありませんが、それでも3日以上を手持ちの食糧で過ごすことはありませんでした。
GDMBRではPCTを歩くよりも食料の補給が容易です。PCTを歩いたときに感じたような空腹感を味わう機会はほとんどありませんでした。

 

・水について

GDMBRのガイドブックやマップには水場の情報がほとんどありません。これまで自分の見てきたハイキングマップでは水場の情報がメインといっても良いくらい水の確保が重視されていただけに、水に関する情報の少なさに旅の当初はかなり困惑しました。特に南部の砂漠地帯では暑さから水の消費量が増えるにも関わらず、次に水を確保できる場所が把握できないのは死活問題です。実際これがNew Mexicoのセクションを断念した大きな理由になりました。ちなみにこの砂漠地帯では200km近く水の確保できないエリアがあり、ガイドブックでは10リットル近くの水を持ち運ぶよう注意書きがされています。

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砂漠のど真ん中にある池。近くで見ると茶色く濁っている。

しかしコロラド州の山岳エリアやモンタナ州からカナダにかけて標高の高いエリアでは、ルートが川と交差することが多く、水場は豊富にあります。しかし北米の川や湖の水には寄生虫のリスクがあり、飲料水として利用する場合は浄水器や浄水剤が必須です。それでも浄水さえできれば飲み水に困らない環境はありがたいもので、運ぶ水の量は最小限で済みます。こういった水の豊富なエリアでは、1~2リットル位の水しか持ち運びませんでした。
アメリカの北から南まで、走るエリアによって水の確保しやすさにかなりの開きがあるGDMBRでは、水の運搬量の変化に対応するための準備が必要といえます。

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ルート北部では川に頻繁に出くわす。水の補給がてらちょっと休憩。

 

 


 Sleep ~癒しを得て寝る~

・GDMBRのキャンプグランド事情 

GDMBRのガイドマップには、街の情報以外にBikepackerが泊まることのできるキャンプグラウンドが記載されていて、GDMBRを走るBikepacker達の多くは、この情報をもとにキャンプしながら旅を続けます。ガイドマップに記載されているキャンプグラウンドは大きく2つに分かれます。公営私営の有料キャンプグラウンド、あるいは簡易的な無料キャンプグラウンドです。

公営または私営キャンプグラウンドの宿泊料は一泊5ドルから15ドルくらい、設備はピンキリですがトイレやシャワー、なかにはWi-Fiまで完備されているところまであります。日本でいうオートキャンプ場といった雰囲気でしょうか。行楽シーズンは利用客が特に多く、サイトが埋まっていて泊まれないところもありました。場所によっては家族連れやグループでの利用者が多く、騒がしいこともしばしばです。ですから大自然を満喫しながらの静かなキャンプとは言い難いかもしれません。それでもお金を払って使用が認められている安心感は大きく、土地勘のないBikepacker達にとっては過ごしやすい場所です。今回の旅ではこういったキャンプグラウンドを頻繁に利用しました。

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オートキャンプ場での一コマ。車なしで泊まる客はほとんどいない。

 

一方、簡易的な無料キャンプグラウンドはトイレもないただのフラットな広場だったりします。これが自然に囲まれて人目のつかないところなら最高ですが、一応宿泊が認められた場所とはいえ、人目につくところでは、オートキャンプグラウンドのように人が多くないため、かえって目立ってしまってあまり落ち着いて過ごせませんでした。

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無料のキャンプサイトにて。人目につかないところなら安心して眠れる。

 

GDMBRでは、自立、非自立に関わらず軽量テントを使うBikapacker が多かったようにおもいます。いくら軽量とはいえ、タープや開放タイプの軽量シェルターを使うBikepackerは稀でした。GDMBRではキャンプグラウンドを利用する機会が多いため、プライベートな空間がつくりやすく、悪天候にも対応しやすいことがテントの支持に繋がっているのでしょう。
僕はというと幕営装備はタープがメインで、状況に応じてハンモックも組み合わせました。PCTを歩いたときも基本はタープで過ごしていましたし、今回の旅でも機能的な不満を感じることは全くありませんでした。自然のなかで開放感を味わいながら過ごせるタープは、僕にとってはテントよりも快適な道具です。
ところがGDMBRでは必ずしもタープが快適とはいえませんでした。それはアメリカでもタープだけで眠ることが一般的ではないからでしょう。オートキャンパーで賑わうキャンプサイトにタープとグラウンドシートだけで眠っている姿は一般の人にとって珍妙に映るのも無理はありませんし、気温が0度くらいまで下がった日のキャンプサイトにタープとハンモックで寝ていると、心配して声をかけてくれる人も居たくらいです。
今回の誤算は予想よりも一般のキャンパー達とキャンプ地を共有する機会が多かったことです。GDMBRでのキャンプでは自然との調和以外にも人との調和を意識せざるを得ません。その意味ではキャンプグラウンドでも目立たないテントが欲しいと思ったことも事実でした。

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ハンモックから見た見慣れた景色。

 

 

・Unofficial キャンプグラウンド

GDMBRでガイドマップに記載されている場所以外でのキャンプとなると、基本的には身を隠して他人に気付かれないように過ごすステルスキャンプをすることになります。誰もいない自然のなかで一人夜を明かすのは、自然を身近に感じられる過ごし方といえます。北部のエリアでは樹林帯が多く、森のなかで人目につかないキャンプ適地を探すのは難しくありません。僕もルート北部の森では何度かステルスキャンプをしました。

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ルートを少し逸れて森の中でキャンプ。この辺りは熊の多いエリアで少し心配しながら。

 

しかしルート中部や南部は木の全くない丘陵地帯や砂漠で、身を隠せる場所がありません。そういった何キロ先までも見渡せる状況では安心してテントを張って過ごすことは困難です。またルート周辺が私有地(主に牧草地)になっていることも少なくないので、うかつにルートを外れて泊まるのは危険です。地権者にとってはただの侵入者でしかない僕達にいつ引き金が引かれるかわかりません。銃社会のアメリカだからこそ、その辺は十分な注意が必要です。

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身を隠すところなんて思いつかない。

 

 

・焚き火

アメリカ人は焚き火が大好きです。オフィシャルなキャンプグラウンドには必ずといっていいほどファイヤーピット(備え付けの焚き火台)が設置してあるので、オフィシャルキャンプグラウンドを繋いで泊まれば毎日のように焚き火ができます。アメリカでもバックカントリーでの焚き火については森林火災や環境負荷の観点から最近は自粛を促す傾向にあるので、気兼ねなく焚き火をたのしみたい人にとってはファイヤーピットのあるキャンプグラウンドの方が安心です。

かくいう僕も焚き火が大好きなので、機会をうかがっては積極的に焚き火を楽しみました。特に目的はなくとも一日の終わりに火を眺めて過ごす時間は疲れた体を癒してくれます。

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一人でも焚き火はたのしい。

 

 

・クマ対策

GDMBRの北部一帯はグリズリーベアの生息地です。グリズリーといえばヒグマと同様雑食ですから人間を襲う可能性もあります。人間とグリズリーの双方を守るために、グリズリーの生息地ではキャンプ地での食糧の保管方法についてかなり厳重に管理されています。公営のキャンプサイトにはほとんどの場所でベアーボックスという鉄製の箱があり、その中に食糧や臭いの出るもの(リップクリームや化粧品など)を保管しなければいけません。慣れるまでは面倒に感じますが、対策がきちんとされたキャンプサイトには安心して泊まれます。こういうキャンプサイトにはお金を払ってでも泊まる価値があります。

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キャンプサイトに設置してあるベアボックス。食糧以外にも大体の荷物は入れておいた。

 

 

・宿に泊まる

ときには宿に泊まって疲れを癒すこともあります。アメリカでは不思議と小さな街にもモーテルがあるので、GDMBRでは宿に困ることはありませんでした。宿泊料の安いモーテルなら一人一泊50ドルくらいです。ユースホステルやB&B(ベッドアンドブレイクファースト)を利用すればもう少し宿代を抑えられますが、モーテルほど施設の数は多くありません。
僕にとってGDMBRの旅はアメリカのマイナーな街に泊まることも楽しみのひとつだったので、3~4日に一回はこういった街の宿を利用して体を休めました。街ではなるべく早い時間にチェックインを済ませて汚れきった体をシャワーで洗い、ランドリーで洗濯もします。ルート上では難しい日本への連絡も宿のWi-fiを使って済ませたり、食糧の買い出しにも出かけます。宿に帰ってからは自転車の整備もしなければならなかったりと休むつもりで街に降りてもなにかとバタバタしてしまいます。

そんなわけで街に降りて休むつもりが逆に疲れてしまうこともあります。しっかり疲れをとりたいときや街の雰囲気が気に入ったときはおもいきって連泊し完全な休息日をとることもありました。せっかくの旅ならば自然だけではなく、訪れた街の観光も楽しみたいものです。

 

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安定のモーテル6。アメリカでよく見かけるチェーンのモーテル。

 

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宿のコインランドリーで衣類をまとめて洗濯。

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街のお祭りにも遊びに行ってみた。


Ride ~走ることについて~

・ガイドブックのプラン

GDMBRのガイドブックでは全行程の4,455kmを70日、つまり1日あたり約64km移動するプランが紹介されています。この距離は舗装道路を自転車で1日に移動できる距離と比べると短く感じます。しかし、ルートのほとんどが未舗装路であることを考えると、体力に自信のない人にとっても無理のない距離です。
舗装路を走る自転車旅でも登りや下り、風の状況によって移動速度が変わりますが、自転車を押して歩くようなことはそうそうありません。未舗装路がほとんどを占めるGDMBRでは泥道やガレ場、砂地や極端な傾斜の坂道では自転車を押して歩かないといけないこともあります。
そういった路面状況の変化は、地図を見ただけではわかりません。僕自身、GDMBRに行くまでは実際に自分が一日でどれくらいの距離を走れるのかが全く想像できず、ネットでGDMBRの情報を片っ端から探りましたが、結局その場に行ってみるまで結論は出ませんでした。ガイドブックはあくまで目安にしかならないのは誰にとっても同じです。

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かなりざっくりした内容のガイドマップ。旅の間中お世話になった。

 

 

・行動できる時間

僕がGDMBRを走った時期(6月下旬から8月上旬)のアメリカは日照時間が日本に比べて長く、朝は6時頃に日が昇り夜は9時頃まで明るいので、その気になれば1日の行動時間を15時間近く取ることができます。GDMBRでは長い日照時間を活かし、環境に合わせて行動パターンをアレンジするのが快適に旅を続ける秘訣です。
例えば日中の気温が高い南部では昼間の暑い時間の行動を控え、早朝や夕方など涼しい時間帯を狙って走る方が無駄な体力の消耗も減ります。逆に北部の気温が低いエリアでは朝夕の行動を控えて寒さを凌ぎました。
また行動時間にゆとりがあるおかげで気持ちにも余裕がうまれます。景色の良いスポットを見つけたらのんびり休んでみたり、ときには小一時間昼寝することもありました。

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砂漠地帯の昼には数少ない日陰を見つけて休憩。

 

 

・移動した距離

今回GDMBR全ルートのうち、アメリカColorado州のSilver Thorneという街からカナダのBanffという街までの2,756kmを38日間で走りました。38日間のうち7日は自転車に全く乗らないゼロデイ(休息日)だったので、2,756km÷31=88,9kmつまり一日あたり平均約89km走ったことになります。2012年に5ヶ月かけて4,300kmを歩いたPCTでは、一日平均が約32kmだったことを考えると一日に三倍近く進んだことになります。ただし平均が89kmといっても、毎日コンスタントに89km走っていたわけではありません。砂や泥に手こずって50km位しか走れない日もあれば、快走路を走って150km以上走れる日もありました。標高差や路面状況、風の影響でおもうように進めないことはたくさんありますが、正直なところ旅の途中でそんなに細かいペース配分を考えたことはほとんどありません。それよりも今日のキャンプ地や次の水場、食糧補給地点までの距離などざっくりとした目標だけをみて毎日自転車を漕いでいたようにおもいます。そして終わってみれば1ヶ月の間に2,700kmもの距離を旅していました。

自転車旅で難しいのは、むしろペースを抑えて走る方かもしれません。大きなアップダウンの多いMontana州では長い登りで走るペースが落ちますが、そのあとの長い下りではあっという間に何十kmと進んでしまいます。下り切った後にまた長い登りが待っていても『せっかくだからもう一個超えてしまおう』と体力の続く限り進んでしまって、気づいたら100km近く進んでいたこともあったくらいです。歩きに比べて登り下りのスピードに差がある自転車旅は、そのエリアの地形によって進む距離に大きな開きが出るのも特徴で、おかげで予定よりも進み過ぎてしまうことがたくさんありました。

長旅ではいくら細かな計画を立てても、それ通りに事が進むかはわかりません。むしろそうでないことの方が多いくらいです。たとえ計画通りにいかなくとも豊かな旅はできるということです。僕の場合は旅の初っぱなからハプニングだらけで、行程自体が当初の予定より大幅に短くなってしまいました。でもその分残された行程をじっくり時間に追われることなく満喫できたようにおもいます。旅の後半には、たまたまロケーションの良いキャンプサイトを見つけて30kmくらいしか走っていないのに、その日の移動を切り上げ、のんびりキャンプを楽しむこともありました。大切なのはスタートやゴールではなく、旅をする間に経験する様々なことです。予定にこだわり過ぎるあまり、目の前の大切なことを見過ごさないように、豊かな旅を楽しみたいものです。

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天気が良いとペースも伸びる。

・Un-Happy Road

実際にGDMBRを走ってみて意外だったのが、シングルトラックが想像より楽しく感じられなかったことでした。道幅が狭くテクニカルなシングルトラックは刺激的でマウンテンバイクで走るのには最高のフィールドのはずです。僕も日本でマウンテンバイクをたのしむときはシングルトラックを好んで走っていました。ではなぜGDMBRでシングルトラックが楽しめなかったのか。

まずひとつはGDMBRがロングツーリングだったからかもしれません。刺激的なシングルトラックは少しの区間であれば純粋にたのしめますが、ある一定以上の距離や時間を過ぎると精神的、肉体的に負担が大きくなり、それを苦痛に感じてしまうことがあります。そして転倒による重大なケガやメカトラブルは旅の終わりを意味します。毎日数十km以上のダートロードを連続して走り続けるGDMBRライダーにとっては、本来刺激的で楽しいはずのシングルトラックを苦痛やリスクと感じてしまったのです。

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小一時間程度ならたのしいシングルトラック。

 

そしてもうひとつの理由は荷物の重さです。Bikepackingに使用するラックを使わないバッグ類や軽量装備は、これまでの自転車旅の装備に比べて軽量かもしれませんが、シングルトラックを日帰りで楽しむ時ほど軽快とは言えません。
空身ならもっと自由に走り回れるはずのテクニカルなトレイルで荷物の重さに不自由を感じながら『ここを走るんだったら日帰りで来たいな』と何度おもったことか。必要最低限の装備で挑んだつもりのBikepackingでしたが、結果的に限界を思い知らされることになりました。

それ以外で苦痛に感じた道は丸一日走っても全く景色の変わらないフラットなダートロードや、街へアクセスするまでの交通量の多い舗装路ですが、アメリカのような広大な土地を繋いで旅をするのですから仕方のないことと諦めるほかありません。

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舗装路で車を避けながら走るのはやっぱりつまらない。

 

 

・Happy Road

これも実際にGDMBRを走ってみて意外だったのが、道幅の広いダートロードを走っているときが旅を通していちばん楽しかったことです。それまで広いダートロードといえば単純に舗装のされていない自動車のための道といった印象しかなく、単調で退屈なものだと思っていました。しかし道幅の広いダートロードは、自動車の通行を前提につくられている分、極端な傾斜が少なく、よほど廃れた道でない限りは自転車を押して歩いたり担いだりする必要はありません。そしてシングルトラックほど自転車の操作に神経質にならなくて済むので、リラックスしてサイクリングを楽しめます。広いダートロードは自転車にとって快適なスピードを維持しやすい環境といえます。
それにもかかわらず、アスファルト舗装がされていないダートロードの路面は、泥道や砂利道、砂で柔らかい道から土が固く締まった道まで変化に富んでいて、そのどれも違う表情を持っています。おかげでロードツーリングほど道を単調に感じることはないので退屈することもありません。僕にとって広いダートロードは山道でも舗装路でもない、自転車にとって良いとこ取りな道です。オフロードを長い距離・時間を移動するGDMBRでは、シングルトラックの強い刺激よりも、広いダートロードをリラックスした状態で走り、路面や景色の変化に意識を向けられる方が楽しく感じられました。

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途中で出会った数少ない北上ライダーと一緒に走った。これくらいのダートロードは気持ちいい。

 


Life ~旅のetc.~

・体へのダメージ

悪路の上を長時間自転車に乗って過ごすGDMBRでは当然のように手やお尻、肩などに痛みが出てきます。僕もこの辺の痛みには旅の間ずっと悩まされました。もちろんそれぞれの痛みを解消するためのより良いポジションやギアまたはウェアもあるでしょう。ただ全ての痛みが解消されることはまずないだろうと僕は考えます。そもそも一日何時間も自転車で走り続けること自体に無理があるからです。
それよりはちゃんと一定の間隔で休憩したり、簡単に調整のできるハンドルやサドルの位置を変えてみたりと、ルート上でも自分で簡単にできる気分転換をしながら、旅が続けられるよう努力することが一番大事だと思います。全てを機材のせいにしてしまっていては、いつまでたっても旅が自分のものになりません。そうやって旅をしながら色々と試していくうちに旅の相棒である自転車との付き合い方もわかってくると思うのです。

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長く走るには休憩が大切。

 

・自転車のメカトラブル

今回の旅では自転車に予想を超えたトラブルは起きませんでした。予想の範囲内でパンクや変速機のトラブルが多少あったくらいです。パンクは全行程中に2回でそのどちらもダートロード上ではなく、街へアクセスする舗装路上で起きました。道路の路側帯には自動車のガラス片や金属片などが散乱しています。目で確認できるものなら避けられますが、車の往来が多いところでは車にも注意を払わなければならず、見過ごしてしまいがちです。舗装路上でパンクに注意が必要なのは日本と同じです。
変速機のトラブルはダートロードで転倒したときに起こったものですが、スペアのパーツを持っていたので問題なく修理できました。むしろ転倒時のダメージは自転車よりも僕自身の方が大きかったと思います。

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キャンプサイトで見つけた作業台。山の中での整備は場所選びに苦労する。

 

それ以外にトラブルではありませんが、砂埃のせいでチェーンの潤滑油の消費が激しいのには驚きました。特に夕立の多いエリアでは砂埃と水ですぐに潤滑油が切れてしまうので、毎日のようにチェーンを掃除して注油しなければいけません。ここまでチェーンの潤滑油を消費するのは初めての経験でした。
毎日砂や土の道路を走るGDMBRでは、想像以上に自転車が汚れます。快適にツーリングを続けるには、毎日の掃除や注油は欠かせません。僕の場合、キャンプ場にホースがあれば自転車を水洗いして、モーテルに泊まった時は部屋で自転車の整備をしていました。そうした日々のメンテナンスはトラブルを防いでくれるだけでなく、楽しく旅を続けるために不可欠です。

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タイヤがこんなことになるのもダートツーリングならでは。

 

・バイクパッキングで得たもの・失ったもの

今回のGDMBRで感じたこと。それは、やっぱり自転車は速いなということです。歩きなら3日かかる距離も自転車だったら下手すると1日で行けてしまいます。おかげでPCTを歩いたときよりも持つべき食糧は減ったし、シャワーも頻繁に浴びて清潔でいられました。移動方法が歩き(ハイキング)から自転車(バイクパッキング)に変わって劇的に移動速度が速くなった分、1日の行動範囲は驚くほど広がり、旅の生活はガラリと変わりました。PCTを歩いたときに感じていた不自由はほとんどなくなったといっても良いくらいです。
しかしそれだけ早く移動できるようになったことに、どこかで物足りなさを感じたのも確かです。同じ山奥にいても、効率的に街と野山を行き来できるようになることが、街から離れて過ごしている感覚を希薄にしてしまうのです。一つ一つの景色はスピードとともに流れて行きます。また、自転車が旅の道具として加わることで、歩きでは身軽に行けた場所、例えば急峻な山の頂きや荒れた登山道には入りにくくなってしまうのも確かです。要するに、ある意味では移動が広範囲になったけれども、その反面で行きづらくなってしまった場所ももあるということです。

Bikepackingには自転車が不可欠です。自転車に乗って自然を楽しみながら旅をすることが目的です。確かに自転車という道具を手にいれたことでできなくなったこと、失ったこともありました。ですが得たものはそれ以上に大きく、広いアメリカという大地を、ハイキングよりもストレスが少なく、自由自在に旅ができるようになりました。長い距離をハイキングと比べて短期間で移動できます。期間に余裕さえあれば寄り道を付け加えることもできるのです。過度に水や食料に不安を感じる必要はありません。より安全性の高いキャンプグラウンドを選びながら旅を続けることも可能です。その分心に余裕が生まれます。アメリカが初めてじゃないということもあるかもしれませんが、ハイキングの時には見えづらかったものが見えるようにもなりました。「食=Eat」料計画や「寝=Sleep」ること、ルートやトレイルといった「道=Ride」への捉え方が、Bikepackingには今までの旅とはどれもちょっと違いがあるから面白い。僕がGDMBRで1ヶ月間過ごして最後に感じたのはそんなところです。

GDMBR Vol3

 

次回はそんな生活を支えてくれた道具のことについて紹介します。

 

二宮勇太郎

書き手二宮 勇太郎

1982年、広島生まれ
故郷広島のMTB & BMXローカルコミニティ出身のハンモックマニア。トレイルネームは「Nino(ニノ)」
パシフィック・クレスト・トレイルスルーハイクののちハイカーズデポ スタッフへ。ハイキング&バイクパッキング両方でアメリカの人力縦断を経験。その貴重なノウハウを活かしてハイカーズデポの店頭業務を切り盛りしている。広島時代から旅の道具としてハンモックを活用。ウェブマガジンTRAILSとの共催イベント「Hammock for Hikers」をはじめ、雑誌・WEBなどの各種媒体でハイキングにおけるハンモックの有効性を伝えている。2019年には南アルプス北部縦走をハンモック泊でおこなうなどその可能性の追求に余念が無い。

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