ハイキングエッセイ

T's Stove "new ww side B" アルコールストーブについて思うこと

2018/11/10
勝俣隆
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 ある機能に特化した道具も美しいとは思う一方で、片意地のはらない、融通の効く道具には、そこはかとない魅力がある

「はじめてのUL」の片付けをしていて、わたしのサイドBを眺めてみたら、ずいぶんと年季が入っていてびっくりする。新しい道具に目移りしてしまう浮気症な性分なのに、ふと気がつくとサイドBを持ち出してしまう。もう4年以上使っている。たぶん、300回くらいお湯を沸かしてくれているはず。

内室で圧力が掛からない単壁のバーナーは、火力も少しばかり弱め。20ccのアルコールで、400ccのお湯を沸かすのに5分くらいかかる。お湯が沸くあいだ、のんびりとストーブを眺めていてもいいし、飲み物や食べ物の準備もできる。ガスではあっという間に沸きすぎてこうはいかない。

単壁はシンプルだから壊れにくい。もとはアルミのボトルだもの。重さだって、五徳込みで18グラム。これより軽いものはあるけれど、ここで数グラムを削ってもわたしのハイキングにはなんの影響もない。それよりも、五徳だけを使ってエスビット用の五徳として使えるほうがありがたい。


ある機能に特化した道具も美しいとは思う一方で、片意地のはらない、融通の効く道具には、そこはかとない魅力がある。タープとかBOTとか、そういうの。
そして長く使えるもの−−−それは耐久力だけではなく、飽きずに、嫌いにならずに使える道具−−−に出会えたら、それはラッキーだ。想いがあるばかりに使い続けてしまい、寿命を早めてしまうことだってあるのだから。

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アルコールストーブに再着目したのは、アパラチアン・トレイル・ハイカーだった。20年くらい前の映像でもハイカーが空き缶で作ったアルコールストーブを使っている。日本ではガス缶が主流だったから、その映像を見て少し意外な気がした。
実際に2014年に歩いてみると、アルコールストーブを使うハイカーも多くいたが、やはりガス缶の入手には苦労していた。トレイルタウンの多くはガス缶こそなかったが、金物屋ではアルコールは買えた。なかには、ハイカーには無料でアルコールを提供してくれる親切な金物屋さんもあったほどだ。

むかしはJMTでも使っていた。いまではシエラネバダでは、山火事が多くて、アルコールストーブは影を潜めてしまった。10年前には、まだ規制もなくて、ホイットニー山頂でアルコールストーブを使ってお湯を沸かして、葛湯を作ったことを思い出す。アメリカ本土で一番高い4400メートルでアルコールストーブを使ってお湯を沸かし、葛湯を沸かして飲んだ人は多くないはず。今考えると、うん、お汁粉にしておけばよかったな。
そういえば、雪のシャスタでも沸かした。当時は「高所ではアルコールストーブは使えない」「雪山では使えない」と言われたものだ。「使えない」ではなくて「使ったことがない」だった。使ってみると、もちろん低地で使うよりは沸くのに時間は掛かるけれど、目くじらを立てるほどでもない。

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「はじめてのUL」の参加した方が、帰りにアルコール・ストーブを買っていった。何を買ったのか聞いてみると、色々な種類があるなか、彼女が選んだのはサイドBだったようだ。選ばれたストーブが、これから長く使われて、わたしのストーブのように茶色くなる頃には、色々な山行を経験してくれるのだろう。

わたしのサイドBに火をつけて、お湯をわかす。ただ、お湯を沸かすためだけの儀式。出来上がった白湯を飲む。(これから寒くなると、お世話になるだろうな。何を飲もうか)そんなことを考えながら、ストーブを眺めていた。ずいぶんと日暮れが早くやって来るようになっていた。

Text by Loon

勝俣隆

書き手勝俣 隆

1972年、東京生まれ
ULハイキングと文学、写真を愛するハイカー。トレイルネームは「Loon(ルーン)」
アパラチアン・トレイルスルーハイクののちハイカーズデポ スタッフへ。前職での長い北中米勤務時代にULハイキング黎明期の胎動を本場アメリカで体験していた日本のULハイカー第一世代の中心人物。ハイキングだけでなく、その文化的歴史的背景にも造詣が深い。ジョン・ミューアとソローの研究をライフワークとし、現在は山の麓でソローのように思索を生活の中心に据えた日々を過ごしている。2016年以降、毎夏をシエラネバダのトレイルで過ごし、日本人で最も彼の地の情報に精通しているハイカーと言っても過言ではない。著書に『Plannning Guide to the John Muir Trail』(Highland Designs)がある。

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