
Fly Creek HV UL1
Weight
936g
2009年の発表以来、ウルトラライトテントの中心的モデルであり、最も実績の長い「フライクリークULシリーズ」が、より軽く快適性を重視したマイナーチェンジをともない、新たなテントになりました。
変更点は、新素材フレームにより強度は変わらずに60gも軽量化しました(260g→200g)。コード類は全て1mmほどの極細へ変更。コード ループにいたっては極力余分な長さを出さないような作りになりました。ただでさえ軽いテントをもっと軽くするために、小さいところを少しずつ詰めていった 結果の軽量化です。強度や耐風性などは今までと変わらずにここまでの軽量化ができたのにはメーカーの努力がとても伺えます。
また、今まで入り口全面がメッシュだったのを下半分はナイロン生地へ変更し頭辺りの風の侵入を防ぐことで、同じ3シーズンでもより広い季節で使しやすいように変わりました。
500g以下のフロアレスシェルターやツェルトでもなく、1,300g台の軽量山岳テントでもなく、その中間に位置する橋渡し的モデルとして、フライクリークの登場以来、数多くの800~900g台のシェルターやテントが各メーカーより発表されています。
フロアレスシェルターに何を加えるのか
軽量山岳テントから何を省略するのか
各メーカー毎のコンセプトが非常に明確にでてくるのが、このカテゴリーの特徴かもしれません。
Big Agnes/ビッグアグネス は、スリーピングバッグの背面にスリーピングパッドを入れるスリーブを作り組み合わせて使うスタイルが特徴的なシステムを作ったり、オリジナリティのある 形状のスリーピングパッドの開発、撥水ダウンをいち早く取り入れるなど、独特の視点と発想でモノ作りをすすめている、アメリカ/コロラド州のメーカーで す。フライクリークULシリーズは名前のとおり同社の「ウルトラライト」テントのラインナップ。日本はもちろん、本国アメリカでもライトウェイト志向のハ イカーの間で高評価を得ているモデルです。しかし、独創的にも関わらず決して奇をてらわない、あらゆるハイカー&キャンパーに訴求する製品をデザインしています。フライクリークにもそうした精神があらわれていると思います。
①自立式
世界最軽量のダブルウォールテントとしてはTERRA NOVA レーサーシリーズ(2014年当時)がありますが、そこに「自立式」と付け加えた場合はこのフライクリークUL1が候補のひとつにあがるのではないでしょ うか。1,000g以下のシェルターやテントは様々な構造が入り乱れているため、比較が難しいという一面もありますが、マスプロダクトメーカーの中では自 立式でパッケージウェイトで1000gを切り、Trail Weight(必要なもののみ)実測757gというのは図抜けた数字です。
②ダブルウォール
ダブルウォール構造は広さに関わらず「前室」が確保でき、「結露」をフライに留めることで本体への影響(注1)を少なくします。現在、テントとして当たり前だと思われている機能の多くはこのダブルウォール構造だからこそ提供できているといえます。
③落ち着いたカラーリング
冬季は外部からの目視しやすさを最優先にすることから、エマージェンシーカラーが採用されることの多いカラーリングですが、なんだか落ち着かない、という意見のかたも多いはず。無雪期、三季用ならば、内部でくつろげる落ち着いたカラーリングというのもひとつの魅力です。本体はライトグレー。バスタブ(底部分)はオレンジ。フライシートは以前よりもややメタリック感のあるグレーです。
突出したストロングポイントは無いものの、他社のどのモデルよりもバランスがとれています。ソロ用テントを検討する際、特徴が強いモデルは「ここは好きなんだけど、あそこが。。。」と考えさせることがあります。それがまた魅力でもあるのですが、同時にハードルを上げているともいえるのです。
フライクリークUL1はどんなハイカーが使用してもフィットする、ユーティリティー性が高いモデルです。軽量テント選びに困ったら思い出したい最有力モデルのひとつではないでしょうか。
④軽くなったことについて
ただむやみに軽くなった訳ではありません。細かいところを少しずつ見直した結果と言えるでしょう。
まずは、交換ができないもしくは代替え品の無いもののみの重さであるTrail Weight で旧モデルと比較してみます。
旧モデル 866g(本体、フライ、フレームのみ)
現行モデル 757g(本体、フライ、フレームのみ)
約110gの違いがあります。ではどこがそれほどの違いになっているのか見てみます。
旧モデル 本体 293g、フライシート 308g、フレーム 265g
現行モデル 本体 292g、フライシート 265g、フレーム 200g
こう見てみると本体にはほとんど違いがありません。しかし、メッシュだった部分を減らしてナイロン生地に変更したことで本来は重量増になっているはずです。おそらくコード類やパーツの一つ一つを再検討した結果、重量を変更せずにできたのだと思います。
フライシートは40gほどの差があります。これもおそらくは一つ一つ細部の見直しなのでしょう。コードの重さもこれほどの違いを生むとは考えにくいです。努力の賜物と言えます。
フレームには60g以上の違いがあります。これは大きい差です。従来のフレーム径よりも細くしても強度を変えずに済むようになったからこその軽量化と言えるでしょう。
こうして見ると、とても大きい減量をしている訳ではないのが分かります。むしろ細部にわたる見直しがあってこその軽量化と言えるでしょう。それは今までに無いループの付け方であったりと、新たな技術やアイデアを生み出しているとも言えます。
⑤ウィークポイントの変更
以前は付属するラインロック(自在)が「調整がしにくい」「折れやすい」 「ガイラインが摩耗しやすい」というようなお声があり、交換を勧めていました。しかし、現行モデルは全てクラムクリートミニラインロックの蓄光タイプに変 更され、壊れることも無くなり、スライドもしやすくなりました。フライクリークシリーズの弱点が一つ確実に減ったということでしょう。
⑥耐風性や剛性感について
ハブ構造のY字ポールが三カ所をおさえるのみの構造ですので、他のテントと比べ、決して高いフレーム剛性を誇るモデルではありません。しかし、半自立式とも言える構造だからこその強さがあります。フライクリークはフレームで大体の形状を作りますが、最終的に「テント両サイド下部中央」「テント・フライシート後部両端」「フライシート両サイド中央(サイドリフター部)」をしっかりとペグダウンなどして固定しなければテント内部が広がらず、居住性が落ちてしまいます。ところが、ペグダウンをしっかりしなければならないからこそ、そうすることでテント全体を押さえつけることにつながり、安定性がうまれます。また、風がでてきた場合は確実に前方2ヶ所のガイラインを引いて固定することでより高い安定性を確保できます。フライシートの形状も極力風を受け流すようになっているため、この形のテントにしては、風でのトラブルは多く無いように思います。
*テント内を広げるためのポイント*
<フライと本体とを接続することで、居住スペースを確保>
なお、テント両サイド中央部は写真のようにフライと本体とを接続してください。そのうえでここをガイラインで外に引っ張り出せば、テント内部の空間が非常に広くなります。
<注意点>
本体天井部がメッシュ構造のため、場合によってはフライシートの結露が本体内側に入る可能性もあります。その際、雨漏りと勘違いしやすいのでご注意下さい。