
CROSSOVER DOME
Weight
674g
【ツェルトと自立式ツェルト〜日本発のULシェルター〜】
2000年代前半、1kg以下のシェルターというのはスタイルを問わずまさに稀有な存在でした。だからこそ当時のULハイキングコミニティーではタープがまだまだ主流だったのです。ULの根幹をなすRay-Wayがタープを採用していただけでなく、現実的な問題としてタープを選択せざるをえなかった時代でもあったのです。既に一部マスプロメーカーがフロアレスシェルターを発表してはいましたが、それらの重量も1kg近くありました。そのため1,300g台の日本製山岳ドームテントから切り替える決定打にいたらなかったのです。当時ULハイカーが選択できるフロア付シェルターはTERRA NOVA レーザーフォトンくらいだったのです。
そんな時代背景のなか、日本のULハイキングシーンで注目を集されはじめたのが「自立式ツェルト」というカテゴリーでした。当時既に日本式ULシェルターである「ツェルト」の有効性はULハイカーにも理解されていましたが、更に熱望されたのが日本の狭い幕営地で有効な自立ドーム型というスタイルだったのです。これらはダブルウォールでもなく、防水透湿素材のシングルウォールでもありませんが、ツェルトでも必要最低限の雨対策ができることがハイカーに周知されはじめると、こうした自立式ツェルトが再注目されたのです。アライテントの「ライズ1」は30年以上のロングセラーを誇るこのカテゴリーのパイオニアモデル。またアウトドアショップODBOXがmont-bellと共同開発した「ULドームシェルター」が2005年に発売されるなど日本独自のシェルターとして活気づくのです。
その後も後発メーカーでありながら素材開発の強みを活かしたモノづくりをするFinetrackがハイカーズデポと一緒に積極利用に適したサイズ感の「ツェルト2ロング」を発表したり、軽快登山を提唱する信州トレイルマウンテンがHERITAGEと開発した「ストックシェルター」が山岳レース愛好家の間で爆発的に支持されるなど、日本における超軽量シェルターの本流として確実に定着してきました。
こうしたツェルトと自立式ツェルトの文脈において、2016年の注目モデルがHERITAGEクロスオーバードームです。
【クロスオーバードーム最大の特徴〜素材の選択〜】
クロスオーバードーム最大の特徴は自立ドーム式とは思えないその軽さ。本体だけならツェルトと遜色ない400gアンダーを実現しています。素材は透湿防水コーティングを施した15デニールナイロンを採用しています。主要縫製ラインについてもシーム処理がほどされているにも関わらず、なぜこれほど軽いのか。その秘密は「フロア生地の選択」にあります。フロアがあるシェルラーにおいて底部からの水の浸入を防ぐため、しっかりと防水処理が施されたバスタブフロアを採用することは安心の空間を生み出すうえでも重要なものでした。しかし2010年以降、欧米の各メーカーがシェルターの軽量化を推し進める中でどんどん薄くされたのはフロアの生地でした。シェルターほどの面積になると生地重量というのは想像以上のウェイトをしめます。2016年現在、これで大丈夫かと心配になるような極薄フロアのシェルターも発表されていますが、クロスオーバードームも大局的にはまさにこの流れをくんでいるといえるでしょう。
クロスオーバードームはフロア部分にも本体と同じ生地を採用しています。これはまさにツェルトと同じです。ツェルトは壁面からフロアまでが一連の生地で構成されています。フロアだからといって特別な生地あつらえをしているわけではありません。クロスオーバードームはこのようにツェルトと同じ構造が採用されているから、ツェルト並みの軽量化が実現できているのです。
なお、主要な縫製ラインはシームシーリングされています。また素材は本体とおなじですが、フロアの構造はバスタブ式ですので漏水に対する必要最低限の対策はしっかりとなされています。
【ディテール】
入口は逆L字型に配置された2本のファスナーで構成されています。縦のファスナーは上からも開くダブルスライダーになっていてて、入り口上部を開くことで換気効率のアップが図れます。他社の自立式ツェルトが短辺側に入口を配置しているのに対して、ヘリテージではエマージェンシードームでも、このクロスオーバードームでも長辺側に入口を配置しているのは大きな特徴といえるでしょう。
ベンチレーターは前後パネル上部に二箇所配置しています。縁には特殊芯を内蔵しているので換気口が潰れたりしにくくなっています。
自立式ツェルトはクロスポールで自立することにその大きな特徴があります。ポールスリーブ周辺のつくりは設営時の剛性などにも関わる部分なので、エスパースで培った老舗のノウハウが活かされている部分です。写真にあるようにポールのセット完了後に手元でテントの張り具合を調整できるストラップはヘリテージならではの機構だといえます。
【文字通りの自立式ツェルトとして】
メーカーホームページでも注意書きがなされていますが、この製品は日本市場でいういわゆる「テント」とは異なるコンセプトで企画製作されています。生地耐水圧は1,000mmですので、フロアに圧力がかかれば浸水の可能性は否定できません。設営後にペグで固定し、適切にテンションをかけなければ生地からの漏水もあるかもしれません。それ以上に結露は避けようのない事実としてユーザーを悩ませるかもしれません。しかし「自立式としては圧倒的に軽い」のです。これはまぎれもない事実であり、他の不安要素を一掃できるほどのストロングポイントです。自立式だからといって甘く見ていると火傷をします。これは決して自立型のドームテントだと思ってはいけないのです。まさに文字通り「自立型ツェルト」として捉えていただけるとその性格と特徴がはっきりとするはずです。