
Yo(h)i-yami
Weight
351g
Yo(h)i-yami / ヨヒヤミ
宵闇:夜の始まりで昼の終わり。日暮れと夜の間。その時刻の薄暗さを指す。
重量 350g/JPN Lサイズ
価格 29,000円
色(順に) 墨色(スミイロ)、濃藍(コイアイ)、濃色(コイロ)
AXESQUIN の Yo(h)i-yami(ヨヒヤミ)は、ステッチが少なくすっきりしたプルオーバーで、イギリスっぽいトラッドな雰囲気と着丈の長さや肩周りのゆとりなど、アクシーズクインの“凌 sinogi”センスが合わさった独特なデザインをしています。
ウールと化繊を混成したハイブリッド綿「Thermo Wool」を使用し、60g/m2という薄さでありながら、従来の化繊綿よりもかさ高(ロフトまたは膨らみ)があります。そしてウールが入っていることで、化繊100%ではできなかった吸湿、放湿といった機能が付加されているのが大きな特徴です。
生地には、通気性(Max 1cc)を持つ「Pertex Quantum 12d*12d リップストップナイロン」を使用。光沢が抑えられたマットな風合いで、化繊の抜けを防ぎつつも体からの熱を溜め込み、放湿機能も活かしてくれます。
このロフトと吸湿性能、生地、そしてそれを活かせるように考え抜かれたデザインにより、高い保温性を発揮します。
近年見られがちな過剰なミニマルデザインによる軽量化ではないなかで、JPN Sサイズで306g、Lサイズで351gは非常に軽いと言えます。それは間違いなく全体にシンプルでまとめられたデザインによるものでしょう。
フロントの長いジッパーは着用しやすくなるのはもちろんのこと、上下から開くダブルスライダーなので襟元を閉めたまま下だけ開けて空気を取り入れたりと体温調節に役立ちます。また、下に着ている服のポケットへのアクセスもできますし、アメノヒ2.5同様に下から履くように着ることもできます。
腹部のポケットは、単純でありがちなパッチポケットではありません。両側に入口があり内部が貫通しているトンネルポケットは、ハンドウォーマーとしての機能や冬に増える嵩張るもの、大きなグローブ、スキーシールなど大きなものも簡単に収納できます。ポケットの外側は中綿が入り保温を、内側にはメッシュが付いているので、換気以外にも少し濡れたものであれば乾かすのにも役立ちます。また、同社製品「フユゾラ」のベンチレーションと同じように、バックパックのウェストベルトをポケットに通してしまい、換気をしながら行動することも可能です。
それ以外にもワンハンド、ワンプルで調節できるフード、重ね着にもゆったり対応する肩幅など、冬の防寒着として欲しい機能がたっぷり詰まっています。
ハイブリッド中綿素材「Thermo Wool」
ヨヒヤミの特徴は数あれど、その中で一番に注目したいのはハイブリッドな中綿素材です。Thermo Wool/サーモウールは化繊の良さと天然繊維の良さを兼ね備えています。。しかし中綿素材といえば羽毛か化繊綿。なのにウールとのハイブリッドとは?実はこの組み合わせに大きな意味があるのです。それを説明するためには、羽毛と化繊綿のことをおさらいする必要があります。
1- 羽毛について
防寒着の中綿素材としては収納性、保温性、軽さとどの点から見ても最高だと考えられている羽毛。吸湿によるロフト低下や水濡れの弱さに対しては、近年見られる撥水加工をすることにより、かなり万能感が出たのですが、実は潜在的なデメリットがあるのです。
○ メリット
- 圧縮性が非常に高い→小さく収納できる
- 対容積比でのかさ高が高い→少量でも抜群な保温性。軽くて温かい
- 繊維が細かい→保温、断熱性に優れる
- 吸湿性、発散性に優れる→体表面が湿らず、温かい
- 天然素材→現在はまだ循環可能な素材である
- 素材としての安定性→ある一定からは何十年経ってもへたらない
▲ デメリット
- 湿気を含みやすい→ロフト低下。重量変化が起きやすい
- 水を吸いすぎてしまう→完全に濡れると保温ができない
- 高密度な生地が必要→羽抜けを防ぐ為だが、吸湿発散を妨げる
- 偏りを防ぐために区切ることが不可欠→熱が効率よく行き渡りにくい。コールドスポットができてしまう。
- 羽毛量が少ないほど区切りが多い→軽いがステッチが増えコールドスポット量は増える
- 羽毛量が多いほど区切りが少ない→質が上がれば価格上昇。量が増えれば重量増。
- 不安定な羽毛の供給→羽毛をとりまく環境の変化により減少の一途。大きな価格高騰。
- さらに高価になっていく傾向→FPの高さ競争。シームレスといった過剰な技術による価格高騰
- 少量だと反発力が弱い→ロフトの復元が遅く良い状態をすぐに発揮出来ない
- ロフトの復元力は質か量による→どちらにしても価格上昇の原因
- “決まりごと”が多い→素材状の問題で画一的なデザインになりやすい
2- 化繊綿について
一般的にはポリエステル繊維からなる化学繊維の中綿。コットンのように綿を打つものもありますが、現在アウトドア衣料用でもっとも流通が多いのはシート状になっているものです。ここではシート状のものを基本として見ていきます。
○ メリット
- 圧縮性に優れる→小さく収納しやすい
- 対重量比での保温性に優れる→コットン、ウールと比べて軽い
- 繊維が細く断熱性がある→保温効果がある
- 速乾性、発散性に優れる→重量変化が少ない
- 疎水性が高い→水を吸わない。溜めない。
- 偏りが起きにくい→ステッチが少なくて良い。縫い止めは片側だけでも良い。
- 均一な厚み→部位による偏りがなく、平均したパフォーマンスが出しやすい
- ステッチが少ない→重量減。熱が行き渡りやすい。コールドスポットが少ない。
- コールドスポットが少ない→シームレスなどの特殊な技術が不要
- 特殊な技術が不要→価格上昇を抑えられる
- 安定した供給→価格が安定する
- ロフトの復元速度が速く、平均したパフォーマンスが出しやすい
- “決まりごと”が少ない→比較的自由なデザインが作りやすい
▲ デメリット
- 透湿はしても吸湿性がほとんどない→湿気が滞留し、汗が溜まりやすい
- 高密度な生地が必要→繊維抜けを防ぐためだが、透湿発散を妨げる
- 化学製品である→現在は主に石油製品であり、限りある資源という問題
- 経年劣化→使用頻度によるが5~10年程度。可能性はゼロにならない
- ロフトが低い→保温力を発揮しにくい
- シート状にするには不織布が必要→常に余分な生地が入ってしまうので保温、透湿発散を妨げる
3- 羽毛と化繊綿の比較まとめ
*ここに全てを書き出した訳ではありません。実はこの話はとても奥深いので、もっと突っ込んだ詳細についてはいつか“Hiker’s Note”でコラムとして書けたらと考えています。
さて、正直なところ羽毛に関してはメリットがデメリットを補って余りある性能を持っているのですが、実は製品にする段階でのデメリットの多い羽毛製品。このデメリットは羽毛であるから出てくる問題点であり、それは現状どんな技術を持ってしても解消することができません。
化繊綿はといえば、思っている以上にデメリットは少なくメリットが多いのです。確かに、保温性、軽さや圧縮性が大きく羽毛に劣ることは事実です。水濡れに強いというのもキャッチーなフレーズです。そのせいか、羽毛と化繊綿を比べた話の大抵はこの点ばかりが注目されます。ところがそれ以外については羽毛製品の潜在する問題点のほとんどを補える能力があるというのは特筆すべき点なはずです。しかし、デメリットの与える影響が想像以上に大きいから化繊綿はよくないのです。それが吸湿性の無さとロフトの低さにあると言えます。体温が高いうちは保温力があると言えますが、吸湿性が無いせいで体温の低下とともに保湿(保温)ができなくなるのです。吸われない湿気は滞留して体を湿らせ冷えの原因になります。ロフトの無さはイコール空気のなさです。断熱性の高い空気を閉じ込める場所が少ないので保温力はどうしても高くなりません。
まとめると
「羽毛は湿気をたくさん吸うが放湿性に乏しく、撥水加工は価格上昇に繋がるのでメリットだけではない。区切りは羽毛量が少ないほど多く、羽毛量が多いほど区切りが少ないがどちらにしても重量増や価格増につながってしまう。
化繊は平均して高い能力や疎水性を持ち、薄くても均一な厚みを保てるので、様々な加工や工夫ができる。羽毛の潜在的デメリットを概ねカバーできるが、吸湿性の無さとロフトの低さはとても大きなデメリットとなっている。」
と言うことができると思います。
4- ウールが加わることで万能性をもった素材「Thermo Wool」
ウールには非常に高い吸湿と繊維の形状保持能力に優れています。その弱点がウールが加わることで大幅に改善します。そうであれば、羽毛のデメリットも化繊綿のデメリットも補えるということになります。
ウールには天然繊維の持つ高機能性があることは広まりつつあります。天然の防臭抗菌性、紫外線防止など。しかしここで言いたいのは別にあります。
- 非常に高い吸湿性、発散性
綿の2倍、アクリルの約8倍、ポリエステルの約40倍と繊維の中でも段違いの吸湿性の高さなのです。湿気を帯やすいのは羽毛ですが、実は羽毛よりも高い吸湿性と高い発散性があります。まさに“呼吸する”繊維と言われる所以です。化繊綿になく、繊維としてはもっとも高い吸湿性と高い放湿性があることがウールの強みなのです。 - 繊維の形状保持力
繊維に伸縮性と弾性があります。簡単に言えばシワになりにくいということなのですが、このおかげでロフトの低下も防げるだけでなく、ロフトの高さが出るのに役立っています。 - 軽さと吸湿性の絶妙な混成率
ウールをもっとたくさん入れたら。しかしそうすれば今度は重量増につながります。ポリエステルが多ければ軽くなるけど、ウールの機能が目立たなくなります。最初は少ないかな?と感じましたが、ポリエステル65%・ウール35%は吸湿性やロフトを出しつつ軽さも考えた絶妙な混成率だと思います。
ヨヒヤミの“軽さ”が広げる選択
ヨヒヤミは化繊を主としたハイブリッド綿を使ったものとしてはとても軽量と言えます。重ね着をするのに十分なゆとりがありますからアウターとして十分に使えます。またインナーとしての着用も滑りの良い生地のおかげで簡単でしょう。
ある程度の保温力を持った化繊綿を使ったクロージング中で最軽量クラスと言えばArc'teryx のNuclei JKT。メインボディをCoreloft 80g/m2と十分な厚みでありながら、US Mサイズで300g程度とヨヒヤミよりも軽いです。しかし目的通りとはいえ軽さに特化したデザインなので、サイズ感はほぼジャストですし、着丈も決して長いとは言えません。アウターとして着ることを考えたらサイズアップ検討も範疇になります。そうするとヨヒヤミに対して重さに違いが見えてこなくなります。
まずはこの軽さというのが大きい選択ポイントになると思います。実際問題、化繊綿やハイブリッド綿を使ったものを最終的に躊躇してしまうのは重いからなのです。かといって軽いものを選べばサイズ感が小さかったり、ポケットが小さい、もしくは無かったりして冬には不便です。
しかし、ヨヒヤミはポケットも大きいです。作りにゆとりがあります。どうしても重ね着が必要になる冬には大事なゆとりです。それなのに重量は最大でも約350g。
確かにハイランドデザイン/スーパーライトUDDジャケットと比べてしまえば、軽さも保温力も収納も敵いませんが、フードや着丈の長さなどのデザインや各機能を考えれば十分選択肢に入るヨヒヤミの良さがあります。
ヨヒヤミの“機能”が広げる範囲
冬の本当に寒い朝。防寒着を着たまま行動したいけれど、たとえ撥水加工がしてあってもダウンジャケットを着たまま行動するのは気が引けます。理由は汗とロフト低下です。当然ですがバックパックを背負ってしまうと背中の羽毛は潰れます。それからどんなに寒くたって多少なりとも汗をかきます。いつしか湿気または汗でダウンが湿りロフトが大きく低下します。結局それが気になるからまだ体が温まりきる前に脱いでしまいます。
ですが、そんな状況でもハイブリッド綿のヨヒヤミなら気にせずに着続けられます。しかも暑くなりすぎないようにウールが吸湿発散をしてくれます。
それ以外にも、通常は服を押さえつけてしまうウェストベルトのせいでこもりがちな衣服内の熱も、トンネルポケットにウェストベルトを通して使うことで大きく換気をしながら着続けられます。長めのフロントジッパーを上から開けたり下から開けたり。細かいことですが、ほとんど重量の変化もない仕様の違いで多機能性を付加しているところはアクシーズクインの心配りと言えるでしょう。この換気性能を持っていれば、行動着としても考えられるようになります。
従来であれば中綿の量を少なくしたり、脇をフリースにしたり。近年だと綿抜けが無い中綿を使い高通気生地と合わせる方法も流行ですが、すでに中綿としての防寒性は無く、どちらかといえば行動着としてのフリースの延長のようなアイテムになっています。
ヨヒヤミは、主に素材や生地だけに頼った形では無く、ユニークなアイデアと細かいこだわりが合わさった結果、防寒着としての保温性も捨てていないというところが強みだと言えます。
化繊綿で60g/m2と考えれば、冬用として決して厚みが十分とは言えません。たしかにThermo Woolはロフトが高く、吸湿(保湿)効果により通常以上の保温力があると考えられますが、それ以外にも中綿の保温力を補う工夫があるのです。
最近はアウトドア衣料全般に軽量化という流れがあってか、防寒着も着丈が短いものが多いです。裾を絞っていなければギリギリ良いのですが、絞ると腰にジャストの高さになるのがほとんどです。しかしヨヒヤミには十分な長さがあります。後ろ側にも十分な長さがありお尻の大部分が隠れます。なので裾を絞った状態で動いても簡単には腰が出ないゆとりがあるのです。このおかげ体の広い部分をしっかり覆い、熱を効率よく共有しあえるので、中綿の厚み以上に暖かくすることが可能となります。
背中には最低限の二本のステッチ。あえて表側にしているのは通気を多少でも促すためかもしれません。内側にはステッチがない仕様になっています。これにより冷気はダイレクトに体に当たらないようになっています。
フロントの長いジッパーを締め切ると口まで隠れます。そのとき襟からフードの周りに続いて付いているストレッチ性のあるパイピングがちょうど良く首回り全体を覆い熱の放出を防ぎます。大きめなフードは圧迫感が少ないので長時間被っていてもストレスになりにくいのです。
袖から肩にかけての独特なデザインは、突っ張ってロフトを潰しがちな肩周りにゆとりをもたせてくれています。
ワンポイントで入った首裏のリフレクター
おそらく近年の流行りに合わせてデザインしていれば、ヨヒヤミはもっと軽く作れたのかもしれません。しかし、それではどんなに軽くとも魅力は半減でしょう。かといって、さすがにこれが380gや400gとなってしまえば選択肢にも入れなかったかもしれません。冬の寒さを凌ぐために本当は必要な機能を選び、しかし細部までをとことん詰めてシンプルにまとめていった努力の結果が、機能に見合った本当の軽さ、を導き出したと言えるのではないでしょうか。そして、最大の決め手であるThermo Wool。弾力があり、吸湿性を持つ中綿を使用したことで、ヨヒヤミは今までにない機能と魅力を持った防寒着になったと言えるのです。
“凌(しのぎ)”をコンセプトに日本の山のためにデザインをする AXESQUIN
〜 凌ぐとは、足りることを知ること。〜
雨を凌ぐ 風を凌ぐ 寒さを凌ぐ 汗を凌ぐ 難所を凌ぐ 煩わしさを凌ぐ
日本の気候風土にあった日本の衣服と海外の登山文化を融合したアイテムを発信し続ける日本メーカー「AXESQUIN(アクシーズクイン)」。今までも僕達を驚かせるアイテムを数多く出しています。そして、2016年からコンセプトが加わります。今までも根底にあったものですが、明確に打ち出しました。それが“凌(しのぎ)”です。防ぐのではなく拒否するのではなく、受け入れて知り凌ぐ。受け入れることで自然との深い交わりがあります。凌ぐのに過剰な道具は要りません。最低限の道具と人の知恵があれば凌ぐのは難しくありません。知恵を使い道具を使いこなすことは喜びや楽しみです。そんな“凌”の思いを込めてアクシーズクインはデザインしています。
ハイランドデザインのオリジナルアイテムも影響を受けています。中でもカラーセンスとパターンは特徴的です。日本の伝統色をいち早く取り入れながらも、日本過ぎない、絶妙な色合いを出すのです。また細部のデザインパターンは日本の衣服をモチーフにしています。
日本で“凌ぐ”アイテムは日本だけのものでしょうか。そんなことはありません。日本と海外の登山文化が融合したアイテムの代表格はツェルトでしょう。ヨーロッパのトラディショナルテントが日本のハイキング文化と融合することで生まれた、日本の気候風土で活きる超軽量テントです。しかし、日本の気候風土に合うからと言って国内だけでしか使えないのでは無く、日本の気候は世界的に見ても複雑で、日本の山野で使えるものは世界的に見ると非常に使用範囲の広いアイテムになるのです。