
ATOM
Weight
518g
SPECIFICATIONS
- 重量
- 518g / Men's EUR40 1/2(実測値)
- アッパー
- Synthetic Leather & Polyester mesh
- ミッドソール
- Compression Molded EVA
- アウトソール
- Vibram Genesis Lite w/ MEGA GRIP
- ラスト
- TRM
- ドロップ
- 4mm
- カラー・サイズ
- <Men's>
Blue Navy
EUR 40、40 1/2、41、41 1/2、42、42 1/2
*US 7.5〜9.5相当
<Women's>
Lagoon
EUR 37、37 1/2、38、38 1/2
*US 6〜7.5相当

SCARPA アルパインランニングカテゴリーのフラッグシップモデル
ジョー・グラントを中心にすすめられているスカルパのアルパインランニングカテゴリーにおいて、「軸」となるフラッグシップモデル。
- 柔らかな足入れ感
- 軽快さを約束する軽さ
- クイックな反応と足裏感覚を提供する薄手のミッドソール
- グリップ力を向上させるVibram®︎メガグリップと深めのラグパターン
- 日本人にも違和感が少ない幅広対応の足型
ベアフットシューズからマックスクッションへという近年のシューズトレンドを経たうえでたどり着いた一足として定着するか。トレイルランニングシューズの新しいスタンダードへスカルパが挑戦する一足です。
*左:Men's BLUE NAVY、 右:Wemen's LAGOON
老舗メーカーにして、新興勢力 〜SCARPA〜
欧米では2016年から、日本では2017年から展開される SCARPA アトムは、トレイルランニングシューズにおける新たなトレンドになりうるモデルです。トレイルランニングがメジャーに育ちはじめた2000年代中頃以降、シューズのトレンドは motrail やVASQUE、BROOKSといったアメリカメーカーが中心に牽引してきました。それはトレイルランニングが北米からうまれたムーブメントであることと無関係ではありません。そして2000年代後半からはコンペシーンの拡大とヨーロッパ独自のトレイルランニングシーンが醸成されたこととシンクロしてSalomonやLa Sportivaがめざましく台頭してきます。こうした大きな流れの中で、SCARPAがトレイルランニングシューズへのチャレンジを再開したと位置づけられます。 近年のコンペシーンではヨーロッパ選手の活躍が目立ちます。各メーカーは彼らコンペティティブな選手のフィードバックを基にシューズ開発を積極的にすすめています。ヨーロッパの山岳レースでは、北米のように比較的なだらかなトレイルではなく、勾配が急峻なエリアでコース設定されることが多くあります。「Vertical (縦方向)」といわれる登りのタイムを競うレースがあるなど、コースの特性に合わせてレースカテゴリーが細分発達しているのもヨーロッパのトレイルランニングレースの特徴です。こうした発達はヨーロッパの地形ゆえのことでしょう。そのためヨーロッパメーカーは、急峻な山岳環境や細分化されたレースカテゴリーを意識したシューズ開発が特徴です。こうした背景の中、 SCARPA がランナーのジョー・グラントらとともにつくりあげたのが、この アトム です。彼はアラスカで開催されるような極限に近いアドベンチャー環境でのレースで活躍するランナーなので、その指向性はアルピニズムやクライミングのような厳しい条件下でのアクティヴィティに重きを置いてきた SCARPA の指向性と良いマッチングをみせているようです。過去に何度かトレイルランニングシューズをリリースしているSCARPAですが、コンセプトがしっかり見えてこなかった過去のモデルとの大きな違いがここにあります。SCARPAという社風とも、現代のトレイルランニングシーンともしっかり合致したシューズづくりがはじまったのではないでしょうか。イタリア語で「靴」を表す「SCARPA」。マウンテニアリングブーツ、クライミングシューズの世界で定評ある丁寧な靴作りの老舗メーカーが、新興勢力としてどんなトレイルランニングシューズをつくってくれるのか、非常に楽しみでもあります。
− 以下、2016年夏よりアトムを使用した経験もふまえての紹介となります。
*Vertical Raceを念頭に「登り」を強く意識したスカルパの旗艦モデル。今後はこのATOMをベースに様々なバリエーションが登場予定
VERTICAL:「登り」を意識したディテール
1. ダブルデンシティミッドソール
*右の指示線はEVAミッドソール、左の指示線はミッドソールの薄さをカバーする固いのプレート
ATOM 最大の特徴は、ミッドソールの素材密度を踵から拇指球までの後足部と拇指球からつま先までの前足部とで大きく変えていることです。このダブルデンシティ(二重密度)といわれる方法で、後足部は固い、前足部は柔らかくというミッドソールにしています。これにより指先の接地感を高め、動きを自由にし、地面をつかむような感覚を提供しているのです。ソール全体を同じ硬度にすると、靴全体の剛性が高くなります。その場合、ランニングのように瞬間瞬間で接地していく動きでは、登りでふんばったときに、ソールの剛性がつま先の屈曲を邪魔してしまい、きちんと踏み込めず弾かれるような感覚を味わうことがあります。硬いソールで感じられる一点に体重をのせられるメリットは岩場や雪上のような場所ではしっかりとしたグリップにつながりますが、スピーディに動く場合はカツンと弾かれてしまう結果も引き起こします。クライマーなら、エッジングの得意な硬いシューズとスメアリングが得意なしっかりと踏み込める、抑え込める柔らかいシューズとの特性の違いだといえばイメージしやすいかと思います。したがってトレイルランニングシューズはどれも拇指球部分を曲げての歩行&走行がしやすいようにミッドソールに屈曲部を設けることでソールの柔らかさをだしているのです。それがトレッキングシューズ、マウンテンブーツなどとの大きな違いだといえるでしょう。アトムの場合はそれをさらに一歩進めて、拇指球よりも前のミッドソールの硬度そのものを大幅に柔らかく、ソールも薄くしているのです。これで踏み込み時に屈曲しやすいだけでなく、ソールが薄いことでの接地感、いわゆる指先感覚も実現しているのです。指先で地面を掴むようにグイグイ登るイメージといえばいいでしょう。ただし、柔らかく薄いだけでは力を加えた後の復元力が弱くなるため、薄く固いプレートを前足部に入れることでバネのような動きも加えているのです。(上掲写真カットモデル参照。)
2. ヒールテンション&コンテインメントバンド
*「SCARPA」の文字がプリントされたコンテインメントバンドと踵を覆うヒールテンション
クライミングシューズメーカーとしての技術が活かされているのが、踵を中心とした後足部のアッパーのつくりです。後足部のミッドソールの固さについては既にのべましたが、ここで注目したいのは踵側から包み込むように配置されているコンテインメントバンドとヒールテンションです。踵の上下動に追従しサポートするように意図されているのです。登りの際に前足部でふみこむと踵がうえにあがります。そのときにシューズがしっかりとかかとに付いてきて、動きをサポートするためのパーツです。踵側からミッドソールにつながるように配置されているヒールテンションはクライミングシューズのラバーバンドほどではありませんが、それと同じような働きも意識しています。つま先側に力を集約させる機能です。踵側からつま先側にぐっとヒールテンションで押し付けるような働きをイメージしてください。しっかりと前足部で地面をとらえ踏み込んでいくためのシューズといえるでしょう。縦方向の移動が続くヨーロッパのバーティカルレースを意識したモデルとしての真価がここにあります。
3. Vibram®︎メガグリップと4mmラグパターン
発表以来グリップ力の高さから岩場での強さを評価されるVibramメガグリップ。レースシーンでは下りの際にブレーキがかかりタイムロスがあることなども指摘されていますが、いわゆる「登り」の強さは折り紙つき。「登り」を意図したシューズコンセプトからすれば、間違いのないセレクトといえるでしょう。ラグは4mmの高さをもたせてシューズ全面に配置。前足部は推力、踵は停止力を発揮するようなラグパターンが採用されています。スパイクのような高さのあるラグはグリップ力の高さから起伏あるヨーロッパのクロスカントリーで好まれるパターンなのかもしれません。2000年代前半にmontailがヨーロッパからのリクエストで製作したハイランダーというモデルがありました。これはヨーロッパで盛んなクロスカントリーレースやオリエンテーリングでの使用を想定したものだったようです。そしてそのハイランダーのラグパターンにアトムは非常に似ているのです。ラバーそのもののグリップ力、ラグパターンによるグリップ力、しっかりと踏み込むことさえできれば岩場でも土でも十分なグリップ性能を発揮してくれそうです。
4. ウェルディングを活用したアッパー製法
*つま先のランド周りやサイドの補強にシームとウェルディングとを交えて採用
地下足袋的な山用シューズとして
バーティカルレース用として、ある意味ではフィジカルエリート向けに意図されたこのシューズをなぜ日本で、そしてなぜランナーだけでなくハイカーにも提案するのか。そもそもこうした登りの動きは、レースのみならず登山一般にも共通している動きであることは明白です。特に日本の山岳地は急峻で登山道は基本的に頂上を経由するようにルートどりされています。昔からジョギングシューズで山を歩いていたクライマーも少なくありませんでしたが、今は昔以上にトレイルランニングシューズで無雪期の山登りを楽しむ方が増えました。そうした背景もふまえると、登りを意識し、前足部へ力を集約させるような構造をもつこのシューズのメリットが発揮される場面も多いと考えるからです。「踏む」という感覚を養うためにもこうしたシューズを試してみる価値はあるはずです。フォアフットの感覚を養うためにALTRAのようなゼロドロップシューズを試すのと似ているかもしれません。ちなみに前足部で踏みこむことを前提としているこうしたシューズは下りでもメリットがあります。下りの時は腰が後ろにひけ、踵側に重心がきた時にスリップしやすくなります。できるかぎり前足部に体重をのせることが下りで安定して歩くコツでもあるのです。前足部に体重をのせたことがわかりやすいこのシューズは結果、登りだけでなく、下りでも大きなメリットがあるのです。
実際に履いてみると、やはり足裏感覚の強さ、特に指先周辺の接地感が強く実感できます。トレランシューズのようにソールのやわらかい靴は、トレッキングシューズやマウンテンブーツと違い、接地時にどうしても力が分散される傾向にあります。ですので、「踏む」という意識を持たないまま漫然と足を置くと、滑ってしまうことがあります。一方ソールの硬いトレッキングシューズやマウンテンブーツは力を一点に集約しやすいので意識しなくてもグリップしてくれます。トレイルランニングシューズに替えたら滑りやすくなったという方のほとんどはその意識の切り替えができていないからでしょう。言い換えれば、トレイルランニングシューズの場合は、足裏から得られる情報をもとに、自分が今どこをふんでいて、どの部分に力を込めればいいのかを判断しながら動けば、高い自由度とグリップ力を両立できるのです。それを端的にカタチにしているのが山仕事でも古くから使われている地下足袋でしょう。足裏感覚の強いこのシューズは日本人のフィーリングとマッチしやすいのではないでしょうか。なお、ラストの幅も広めにとられています。SCARPAのトレイルランニングシューズラインナップの中では最も広くなっています。日本人の足型にも対応しやすいはずです。
ジョー・グラントの個性をふまえて靴のコンセプトが明確になったSCARPAのアルパインランニングカテゴリー。その志向は山遊びに登りがつきものの日本で求められるシューズの要件とも合致しています。メーカーとしての靴作りの姿勢はトレイルランナーやULハイカーだけでなく、むしろクライマーや登山の方々にも理解していただきやすいものだと思います。メインシューズとしてはもちろん、アプローチシューズとして、デイハイクなどで使うサブシューズとして、ローカットシューズを検討している多くの方に意識していただきたいシューズとなっています。さらに アトム は SCARPA のアルパインランニングカテゴリーの中心に位置づけられるモデルのようです。すでにアイスグリップとアウトドライによる防水機能を持つゲイター付きの冬季モデルアトム-S が2016年冬に日本でも発売開始されれています。こうしたバリエーションモデルは引き続き発売される予定ですので、今後の展開を追う上でも、基本モデルかつ旗艦モデルとなる ATOMに注目することをおすすめします。