
参考商品:Sub-S Quilt(生産終了)
Weight
350g
当初は限定販売されていた「Sub-S Quilt」が通常ラインナップになりました。軽くて暖かく十分な広さもありながらミニマルなスリーピングバッグです。軽量化を目指すハイカーにとっては、サマーキルトとして軽さ重視の単体使用はもちろん、スリーピングバッグカバーと合わせての3シーズン使用や、寒冷期に手持ちの寝袋のインナーブースターとして幅広く活躍します。
“本当に作りたかったダウンキルトってこれなのかも”
Sub-S(サブエス)の意味はSub-Standard であり、Sub-Summer、Sub-Season 、ひっくり返してSuper-Subでも良いかもしれませんが、いくつかの意味を持っています。主人公よりも人気がでてしまう脇役となりえる可能性を持ちつつもメインにはならない、そんなスリーピングバッグです。
しかし、寒暖差の大きい夏の標高の高い山域や緯度の高い山域での使用を考えるハイカー。寒冷期のコンペティションに軽量化したいレーサー。ギリギリの保温性で良いから春や秋でも軽量化をしたいULハイカーにとっては待望といえるかもしれない超撥水ダウンを使用したキルトスタイルのスリーピングバッグ『Sub-S Quilt』。


*表示するモニターによって色合いが変わりますのでご注意ください。
Sub-S Quilt の仕様
軽量化を考慮したキルトスタイルにシングルキルト構造を採用。ダウンにはハイランドデザイン特注の810FP UDD。ダウンの偏り、コールドスポットを避けるためにサイズに対しては多めの200gを封入しました。生地は軽さと強度のバランスを考えた15dのシレ加工リップストップナイロン。カラーはトップキルトよりもダークトーンで落ち着いた色合いのレッド。身長180cmくらいまではギリギリ使える全長170cmの長さ。保温着を着ても膨らみを潰しすぎず、サイドスリープ(横向きになって寝ること)が可能な幅60cm。重量は350g(実測値。誤差±5%)とダウン量に対してはかなり軽くなっています。対応温度はキルトスタイルのため使用者に委ねられますが、限界でおおよそ5℃だと考えられます。比較としてダウン量260g、ボックス構造のダウンバッグで保温着を着用していなくても5℃くらいまでは寒がりでない人なら寝られるでしょう。キルトスタイル、シングルキルト構造であることを考慮しても、ダウンバッグよりはかなり小さい容積の中にダウンの偏りがほとんど起きないように200gを封入し、膨らみだけでなく密度でも保温性を確保しています。カスタマーテストではゴールデンウィークの北アルプスで使用し十分な保温力があったと報告を受けています。


Sub-S QuiltはどうしてSubなのか
幅広い季節をカバーし汎用性に優れたダウンバッグUDDを中心に、サマーシーズンに使いやすくダウンバッグUDDや3シーズン用の寝袋のブースターとしても使用できるトップキルトがあり、最小のダウンで最大の保温性を得られるように作られた冬季向けのウィンターダウンバッグ、着て掛けてハンモックのアンダーキルトにもなるフラップラップ2、ハンモック専用のチューブキルト(HP未掲載商品)と特徴を持ったハイランドデザインのスリーピングバッグコレクションにあって、シンプルなダウンキルトはULハイキングの象徴ではあるものの、ハイランドデザインのスタンダードからは外れています。しかし、ある特定のシーズンや特定の目的に沿った場合には少し過剰であったり、少し足りなかったりしていたことも事実です。
そのなかで、カスタマーの声に応えて作られたのが、Trans Japan Alps Race (TJAR)での使用を念頭に作られたミニモキルトです。ぎりぎりのサイズ、出来る限り軽量に。2017年現在ではミニモキルトよりも軽量なスリーピングバッグもあります。まだまだ僕らの努力が足りていないのですが、ハイランドデザインとしてできる現状の中では最軽量のものになっています。そのミニモキルトはたくさんのサンプルを作成し、いくつものハードルを超えた先にあるものでした。そのミニモキルトを作っていく過程の最初のサンプルがこのキルトの原型になりました。
プリマロフトを使用したトップキルト。これを細くして、プリマロフトをダウンに変更したのがミニモキルトの1st(ファースト) サンプルでした。実はこの「1st」がかなり僕らの心を捉えていたのです。トップキルトはブースターとして上掛けすることも用途に含まれているので余裕を持ったサイジングになっています。ところが単体で使うのであればもう少し細くても問題ないのです。またダウンにすることで十分な軽さも確保できました。そしてトップキルトよりも温かい。
実は前々からトップキルトでは対応しきれない季節でもダウンバッグUDDではなくキルトと使いたいという思いはありました。事実何度か作ろうと企画したのですが、結局頓挫していたのです。なぜならば、ダウンバッグUDDと比べ汎用性が高いというほどではなく、通年使用するのであればダウンバッグUDDの方が優れており、キルトとしても使え、寝袋を一つ選ぶならダウンバッグUDDには敵いません。
またトップキルトと比較しても、トップキルトは化繊を使っているのでダウンよりは対応温度も低く重量もありますが、サマーシーズンでは十分な保温力があり、冬季には上掛けとして使え、ダウンよりも価格が安定しているのでトップキルトの代わりにもならないのです。
それから盛夏に行われるTJARでの使用やレーサーのリクエストにも応えらる、ミニモキルトのような軽さでもなかったのです。なので、好感触を持っていたのですが、そのままハイランドデザインのサンプルとして眠ることになりました。
それから数年。それこそダウンバッグやトップキルトが作られた頃には想像できないほど日本のアウトドアカルチャーは広がりを見せています。JMTに毎年多くの人が歩きに行っています。毎年数人の人がアパラチアントレイル(AT)やパシフィッククレストトレイル(PCT)に歩きに行っています。日本でもロングディスタンスハイキングを実践する人も増えています。それ以外にもトレイルランニングだけでなく、特色のあるコンペティションも開催されるようになりました。2年に一度夏に開催されるTJARもその一つです。そして毎年開催されるOMMレース、分水嶺トレイルなどです。
TJARやOMM、分水嶺トレイルは泊まりを伴うレースのため、軽量にすることが求められます。その中でも寒冷期に行われるOMMは参加者を悩ませるものでした。それ以外にも2人1組での参加や一つのテントでの参加など細かいレギュレーションの対応も求められます。そしてOMMの参加者の中には、軽量化のために夏季使用に作られたミニモキルトで参加する人も見られました。その中から「もう少し温かくて、でもなるべく軽い寝袋が欲しい」そういう声が出てきたのです。
また、ダウンバッグUDDは季節を越えて歩いたり、標高の高いところ、低いところなど条件が異なる幅広い温度域に対応することが求めらるロングディスタンスハイキングや、日本の蒸し暑い夏のシーズンを避けるハイカーにとっても頼りになる汎用性、保温力と軽さです。事実多くのロングディスタンスハイカーがその有用性を感じています。ですが、夏をメインに歩くハイカーや、JMTや標高の高い山域、北海道などの緯度の高い山域などのある程度条件が限定されるULハイカーにとっては、やや過剰であることも声として聞くことが増えてきました。そしてふとあの時の“1st”が思い出され、それを元にSub-S quilt を作りました。
しかし、どこまでいっても“隙間”なスリーピングバッグであるのです。レギュラーラインナップから少し外れた Sub-Standard であり、夏向きではあるものの夏用とまでは言い切れないSub-Summer であり、どのシーズンにも属さないSub-Season。ですが、あるハイカーやレーサーにとってはどれでも埋められない隙間を埋めるものになる可能性を持っているのが、Sub-S quilt と言えるのだと思っています。
仕様の詳細
1、軽量化のためのデザイン
・キルトスタイルのわけ
ハイランドデザインの寝袋の定番キルト(ここではお布団の意味)スタイル。ただ不要なものを排除しているわけではありません。それで十分だからです。フードはありませんが、家の布団にはフードもついていないし被ることもないです。袋状にもなっていません。寝袋が袋なのはスリーピングマットが無かった時代の名残。もちろん季節によっては意味がないとは言いません。ですが今では敷き布団の代わりにマットがあると考えてもらえれば良いのです。
フードがなくても、代わりに起きている時でも使えるニット帽や、使っていない衣類を頭や首に巻くなどすれば、フードの代わりに保温することは十分に可能です。たしかにフードがあると暖かいことは間違いありません。しかし冬の間、家の室内も暖房を消せば10℃前後まで下がりますし、一桁台に下がることもあるでしょう。けれども家でフードを被って寝ることも帽子をかぶって寝ることもほとんど無いと思います。もし頭が寒かったとしても、寝る時まで使うことが出来ずに余計な重さとなっている寝袋のフードに対し、ニットキャップや保温性のある帽子の場合は起きている時にもかぶることができます。就寝前、休憩時など一つの道具で様々な状況に対応できます。
オープンが気になる背中側ですが、あったとしても寝ている時にはほとんど潰れています。つぶれにくくするために敷き布団にはコシや張り、厚みがある掛け布団とは別の素材を使っているわけです。ですので少なくとも3シーズンに限って言えば、背中側は敷き布団と同様のスリーピングバッグマットで十分な保温性を確保することができます。
キルトスタイルは軽くするために何かを削ったのではなく、必要なものだけにした結果シンプルな布団的スタイルに“戻った”といえます。また一つの道具で機能を補い合うという思考手順こそが軽量化のためにもっとも役に立つというハイランドデザインの考え方とキルトスタイルはマッチするのです。

・実は十分?シングルキルト構造
シングルキルトとはつぶし縫いのこと。ボックスキルトとは箱縫いのことです。ボックスキルトにするとコールドスポットが理論上なくなるので保温力は一気に高くなります。ですが、箱状にするために生地が増えて重くなります。ですので、ダウン量や使用する目的、目標とする季節と温度帯などを考え適切に選ぶことが必要です。
Sub-Sキルトの場合は、シングルキルトが適していると考えました。構造がシンプルになり軽量化が可能です。コールドスポットはできますが、例えばビビィシートやスリーピングバッグカバーなどを併用すれ弱点を補えます。例えばレースによってはビビィなどがレギュレーションになっていることもあります。その場合せっかく持っているのならば使わないのは勿体無いです。そうした組み合わせを考えることで想定の温度域を広げることも可能です。ここにも“一つの道具で機能を補い合うという思考手順”が関わってくるのです。
2、設定の季節、温度域について
Sub-Sキルトの由来の一つでもあるので、設定している温度域も季節もない、自由に使って欲しいと言いたいところではあるのですが、実際のところOMMレースに出場しているお客様からの声がきっかけになったことは先述した通りです。温度域としては霜の降りる0℃くらいの気温で、熟睡できるほど温かくはないけれど、寒すぎずなんとか寝られるくらいを想定しました。。そのお客様はミニモキルトで一晩を越すことができたというので、十分な保温力だと考えています。
810FPの超撥水ダウン(UDD)を200g封入しています。これは寝袋の容積に対してはやや多めといえますが、しっかりとした膨らみでダウンの偏りを防ぎコールドスポットの発生を抑えました。また密度をあげることで保温力アップと膨らみの復元性も狙った結果です。
今までのハイランドデザインのスリーピングバッグはダウンの膨らみを最大限に活かすことを重視していたので、生地が膨らみきらない程度に抑えることが多かったです。その点を考えてもやはりSub-standardなのです。
このくらいの保温性ならサマーシーズン狙いで軽量化するのにはちょうど良いと思います。しかしどっちつかずといえばどっちつかずな保温力なので、寒がりの女性には盛夏でも標高や緯度が高い場所だと物足りない保温性に感じることでしょう。しかし軽量化を図りながらも秋のハイキングを楽しみたいULハイカーにとってはちょうど良いかもしれません。奥多摩奥秩父の10月はそれなりに冷え込みますのでおすすめはダウンバッグUDDですが、大きく軽量化したい場合は多少寝心地は悪くなっても、保温力としては十分だと思います。10月の北アルプス稜線付近や北海道ではきっと寒いはずです。いつ冬のように雪が降ってもおかしくないはずですから。ですが我慢強ければいけるはずです。
機密性の高いSOLヒートシートエマージェンシーブランケットやビビィ、スリーピングバッグカバーなどを使えばコールドスポットを軽減できてもっと使用温度域は広がるでしょう。ですが、スリーピングバッグカバーではどんなに軽くても200g程度。ビビィの中でもスリーピングバッグカバー寄りのものでSOLエスケープライトビビィで150gほど。寝袋をせっかく軽くしたはずなのに残念な結果にならないように注意が必要です。
3、サイズとシェイプ
ハイランドデザイン/ダウンバッグは顔まで覆えるようにゆったりレギュラーで180cmの長さにしていますが、ミニモキルト同様サブエスキルトは170cmとやや短めとなっています。しかし、テストで180cmくらいの男性に使用してもらいましたが、長さ的な不満は1泊程度ではないとの報告でした。実際ミニモキルトよりはやや長さにもゆとりを感じるのは横幅があるからです。スリーピングバッグの上掛け用途にも使えるトップキルトがデザインのベースですが、やや細めに仕上がっています。ですがミニモキルトのように横向きに寝ると隙間ができてしまうことのないように少しゆとりの感じる幅60cm(端から端で120cm)にしています。シェイプはギリギリではなく緩くもない、トップキルトとミニモキルトの中間だと思ってください。
4、当社比較
トップキルト、サブエス、ミニモキルトを重ねてみました(写真下)。写真の歪みも多少あるかもしれませんが、よく見ると少しずつ細くなっているのがわかります。トップキルトは上掛けとしての十分なサイズで長さも8cmほど長いです。サブエスは膨らみが強いので見た目よりは窮屈感を感じないと思います。ミニモキルトは実物を比べるとだいぶ細いです。
Sub-Sキルト重量は本体350g(実測値。誤差±5%)。対応限界温度は約5℃。
旧ミニモキルトは270g/10℃、トップキルトは430g/12℃、ダウンバッグは580g/0℃。ざっとこのように並びます。そうするとサブエスキルトは、ミニモキルトとトップキルトの間の重量で、ミニモキルトとダウンバッグの間の保温性となります。しかし、ダウンバッグは対応温度が広いため、実際にはサブエスキルトをカバーします。またサマーシーズンだけ考えればミニモキルトには敵うところはなく、トップキルトのような用途の広さや安定した価格にも敵いません。やはりハイランドデザインのラインナップの中ではサブ扱いになってしまうのです。
5、組み合わせて使う
単体での使用はもちろんですが組み合わせて使うことを考えても良いでしょう。これまでに述べてきた通り、トップキルトのような余裕はないので上掛けとしては使えません。しかしインナーとしてはどうでしょう。
トップキルト(430g)と組み合わせて、780gで冬の超軽量セット
この場合、晩秋や初冬ならダウンバッグUDDがあれば足りてしまうし、その方が軽く済みます。ですが、この組み合わせで冬季はどうでしょう。ダウン量だけで言えばダウンバッグUDDとは60gものダウン量の差があります。しかし、密度はサブエスキルトの方が高いので、同じとまでは言わないものの保温性はそこそこあります。その上にトップキルトを重ねることでシングルキルト構造の弱点を補え、ダウン量相当の保温力を引き出すこともできると思います。もちろんたくさんの人にオススメできる方法ではありませんし、かなりの個人差はあるはずですが、間違いなくダウンバッグUDD単体よりは温かいでしょうし、ウィンターダウンバッグ(890g)よりも100g以上軽くてコンパクトに収納できるとなれば、一考の価値ありだと思います。
最初の一本ではないはずです。最初の一本は汎用性を求めたい。かといって2本目のスリーピングバッグにもならないでしょう。2本目は冬用なのか冬にプラスできるものなのか夏用なのか。では3本目?いや4本目?
しかし、そのピンポイントなところが欲しいハイカーは少なくないはずです。トップキルトより軽くミニモキルトより温かい。対応温度域は狭くても、ダウンバッグUDDを使うシーズンに被せて使える保温力に加え、かなりの軽量化が可能になるのです。そう考えると、やっぱり使い勝手が良さそうで、どう使うか悩んでしまいます。
夏以外のSub-Summer 。合間の微妙な季節のSub-Season。Sub-Standardではあるけれどもしかしたら、いろいろ使って経験した結果、いざとなればこのサブがSuper-Subとして活躍して、これこそがメインになってしまう、そんな可能性すらも感じてしまうのは、ぼくだけなのでしょうか。
8月のシエラネバダでスタッフによるテストの際の写真です。
2017年のシエラネバダ(標高2000m〜3000mくらいのトレイル)の気温が低めだったため、ダウンジャケットも併用。幕にはタープを使用したため、完全に風を遮れる状況にはなかった。外気温と同じ中で、スリーピングバッグカバーやビビィ無しでも、どうにか耐えられた。感覚では気温11℃を下回ると辛く感じたそう。とはいえ、明け方の気温5℃の中でもいつの間にか寝てしまっていた。寝る場所や風、湿度、食べ物、着るものなど、総合的に対処すれば、サブ・アルパインなら使えるとの感想です。最終日前日は20℃/5℃で、水から離れ風を防げる岩陰で寝たようです。
テスターをしてくれた当店スタッフのハイカーLoonことベーさんは体の大きさの割には寒がりで、彼がこの状況で使用できたのなら、ほぼ想定通りの結果だと思います。使いたい状況は温かい時期ではなく寒い時期。温かい場所ではなく寒い場所。冬の前で夏の前。でも軽くしたい。そんなハイカーにちょうど良いということがわかりました。それに彼の場合はジャスト1人用のタープを使っていたので風を完全に遮ることができませんでしたが、ツェルトなどの“床付き非自立テント”やシングルウォールテントのような密閉性の高いものを使えば、外気温5℃でももっと余裕を持って暖かく寝られると推定できます。またはタープでもビビィとの併用で対応することもできます。