
参考商品:Aether Jacket(メーカー廃番・在庫なし)
Weight
225g
3レイヤーの防水透湿性ジャケットで極める軽さ、『Aether Jacket』。
フード、袖口、裾の調整やフルジップ、二つのフロントポケットという装備を備えながらも実測225g(Mサイズ)は驚異的な軽さを実現しています。 素材には透湿性に定評のあるeVentを採用。生地の詳細が明らかにされていませんが、かなりの薄さです。これはギリギリの強度と言って良いレベルでしょ う。サイズ感は特に小さいということも無いので重ね着にも普通に対応ができます。
スタンダードなアイテムの様に誰でも同じように使えるとは言い難いものですが、技量や使い方さえわきまえれば通年に渡って使用することも十分に可能でしょう。
展開は2色。Black/OrangeとBlue/Orange
<フィールドについて>
ヨーロッパを中心に盛り上がりを見せる『Mountain Marathon』。北米のトレイルランニングとは若干様相が異なり、山岳地帯の通過や泊まりながらの長距離のレースも多く開催されています。日本の山岳マラソンという雰囲気に近いでしょう。それによりイギリスのブランドを中心に軽さに特化した商品が生まれて来ています。
その中でウェアカテゴリーを牽引して来たのが『Montane』そして、『The OMM』です。
OMMの正式名称はその名も”The Original Mountain Marathon”。元々はレースの名称ですが、ヨーロッパの変化に富んだの過酷な気候にも対応する、軽く機能的な商品を作っているメーカーです。このブランドを立ち上げたのはあの『Karrimor』の創設者で、バックパックを中心に作って来ましたが、最近ではウェアにも力を入れています。
それらのウェアはマウンテンマラソンランナー向けではありますが、軽量で機能性の高さから国内外のライトウェイト志向のハイカーからも注目を集めていま す。その中でも、湿度が高くかつ気温の低いイギリスや日本といった島国にも対応する透湿性能を持った防水素材eVentを採用しているのが”Aether Jacket”です。
<素材について>
eVentは防水透湿性に優れた素材です。『ePTFE』という素材を延伸加工した防水透湿性のある膜で、この延伸加 工によりePTFE膜 には水分子より小さくでも通気する微細な穴が空きます。そのような膜だから『水は通さず防水、でも通気するので蒸れにくい』ということになるのです。
この膜を使っているのはGore-Texも同じですが、従来型ゴアテックスは片面にウレタン膜を加工しているため湿度の調整や汚れの吸収を減らしてくれ代 わりに 通気性を失っています。eVent は膜に疎水性加工を施すことで、汚れが残りにくくなり、そのまま使うことで通気性を確保しています。
また透湿運動とは、衣服内の温度と湿度、空気中の温度と湿度、この差で行われます。通常の防水透湿素材の場合は蒸れるまで待たなければ透湿が始まらないのですが、eVent は通気があるので蒸れる前に透湿が始まります。これがeVent が蒸れにくく涼しいと言われる理由です。
大陸性気候の場合空気が乾燥しているので温度、湿度の差が少なくても透湿運動が起きやすいのですが、島国などの海洋性気候の場合空気が湿潤なので温度、湿 度の差が大きくないと透湿運動が起きにくいのです。だからこそ、少ない差でも透湿運動が起こりやすいeVentは日本に適していると考えることができるの です。
<ジャケットについて>
以前はいくつか作られていたeVentの軽量ジャケットも今ではほとんどがなくなってしまいました。それは新しい素材へと代わっているのです。軽さを求めているものにはPertex Shield+。通気性や透湿性を求めるものにはPorlatec Neo Shell。
Pertex Shield+はポリウレタン有孔質膜の防水透湿性素材の為、高い次元で防水性と透湿性を実現しています。そしてPertexの特長でもある通気性が高く 丈夫な極薄生地を合わせることで、防水透湿膜本来の性能を邪魔することがありません。しかし、ほとんどのメーカーが2.5レイヤーを採用しているため、ア ンダーレイヤリングによっては透湿性を左右したり、着心地に影響がでてしまいます。
Porlatec Neo Shellは、素材自体にストレッチ性があり今までeVentが苦手としていた柔らかな素材感にも特化しています。ところが軽量な表地との組み合わせが実 現しておらず軽量化には難があります。また通気性透湿性に特化したことで耐水圧が低いので、メーカーによってはソフトシェル素材としての使用にとどめるな ど、レインウェアとしては未だ未知数なのです。
そう考えるとeVentという素材にはまだ有利な点が多いといえます。2013年時点で各素材を採用した軽量なジャケットと下記で比較してみましょう。
MONTANE Air Jacket
素材/eVent
ポケット/胸に大きめポケット1つ
フード、すそ/ドローコード調節あり
そで/面ファスナー調節あり
サイズ/ストレート。重ね着ができる余裕あり。短めの着丈
重量/300g(Mサイズ)
OUTDOOR RESEARCH Helium ll Jacket
素材/Pertex Shield+
ポケット/胸にポケット1つ
フード、すそ/ドローコード調節あり
そで/調節なし
サイズ/ストレート。やや細身だが重ね着可能
重量/166g(Mサイズ)
Rab Myriad Jacket
素材/Porlatec Neo Shell
ポケット/フロントポケット2つ
フード、すそ/ドローコード調節あり
そで/面ファスナー調節あり
サイズ/ストレート。やや細身。重ね着可能
重量/385g(Mサイズ)
The OMM Aether Jacket
素材/eVent
ポケット/フロントポケット2つ
フード、すそ/ドローコード調節あり
そで/面ファスナー調節あり
サイズ/ストレート。重ね着ができる余裕あり。
重量/225g(Mサイズ)
『Air Jacket』はバランスの取れた重さと強度があります。やや丈の短さが気になるところですが、このスペックで300gはさすがモンテインです。
『Helium Jacket』の圧倒的な軽さには敵いません。そのはずで2.5レイヤーはほぼ2層です。生地が一枚多い3レイヤーでは限界があるでしょう。しかし2.5 レイヤーには良し悪しの差が人により大きいと思います。重量の差はありますが、その差59gとかなり迫っています。
『Myriad Jacket』の通気性の高さや素材のしなやかさは魅力ですが、300g後半の重さに難を示す方もいるでしょう。しかしアルパインジャケットとして考えた時には十分な軽さと強度を持っていると思います。
『Aether Jacket』は『Helium』にはやや劣りますが『Air』と同程度の生地強度と思われますし、軽さでは『Myriad』の6割近く。どちらかという と生地の薄さでの差というよりはカッティングパターンやデザインのシンプルさがこの軽さの要因だと思います。やはりフル装備でのこの軽さには大きな魅力が あるのではないでしょうか。
<Aether Jacketの細部について>
左右に付いているポケットはウェストハーネスとスターナムストラップの間にあり、バックパックと干渉しません。外側から手を入れるタイプですが、ハンド ウォーマーにはならないかもしれません。理由は内側にあります。軽くする為にはメッシュでもなく共生地でもなく、極薄のナイロン素材を用いています。おそ らくウィンドジャケットなどに使われるものとほぼ同様と思われます。ただでさえ薄い生地で裏側はさらに薄いので手を温めてはくれないでしょう。
フロントのフルジップは上下から開けられるダブルスライダージッパーになっています。首元や胸元を閉めたままの換気や、ハーネスなどを着けてのロープワークなどにも有効です。
背中や腕の部分は出来る限りシンプルなパターンになっていて、 湿度をうまく逃せるようになっています。またこのジャケットを良く見ると、通常はある脇の下の縫い目がありません。ここは擦れやすい場所ですし、二カ所に 別れることでシームシーリングによる手間や重さ、透湿性の低下、生地のもたつきで動きにまで影響します。 その影響を少なくする為に筒状にしてフロントで合わせるパターンにしています。一見シンプルなので簡単そうですが、細分化した方が縫製は楽なので、非常に 手間のかかる行程にしているのです。それも軽さと透湿性能を活かす為に他なりません。
フードの形状はやや小さめに作られていますが、Cypher の時よりは若干余裕があるように感じます。フードを絞る構造は良くあるこめかみ付近を圧迫するような調節ではなく、後頭部を丸く絞ることで調節します。ま た顔の側面高を調整するドローコードのストッパーにも軽量化へのこだわりが伺えます。とても細いミゾが入っていてドローコードを引っ張ってからそのミゾに 挟み込むようになっています。小さいコードロックと比べて1gも変わらないでしょうが、それ以上に顔周りをスッキリとさせるには効果があるでしょう。つば にはワイヤーが入っているので形状を安定させられます。
サイズは、unisex XS、S、M、L、と4サイズご用意しています。
本来の『シンプルゆえの軽さ』というウルトラライトハイキングの考え方とは違うものの、やはりこの軽さには心躍らされます。決して『軽さと強度のバランス に優れた』などとは言えません。生地の強度は自分なりの使い方次第という所でしょう。しかし良い部分も悪い部分も含めて一歩先の軽さを手に入れててはいか がでしょうか。ULハイカーから長距離ランナー、軽量化を突き詰めたいクライマーまで、注目です。