
Distance Wind Shell - Mens
Weight
103g
高通気性と高耐久撥水
際立った軽さ
スタンダードな機能を
シンプルなデザインに
『Distance Wind Shell』
同じく防風性を持っていてもレインウェアでは代用できないもの。そのように、長距離ハイカーであり冒険家でもあるアンドリュー・スクーカは言っています。ぼくも長距離ハイキングの中で、実際にそう感じているから長い旅の時には必須アイテムとなっているのがウィンドシェルという存在です。レインウェアの様に蒸れることなく、長時間快適性をある程度保持したまま、風の吹くトレイルを歩いたり、寒さをしのいでくれるのに、非常に役立つのです。「あると便利はなくて良い」のが軽量化のセオリーではあるのかもしれませんが、使い慣れるとそれでも持って行きたくなるのが、ウィンドシェルというものではないでしょうか。


Black Diamond はmountain adventure(山の冒険)のためにディスタンスウィンドシェルを作っていると言っています。そこまで言わせるわけは、耐候性を強化した必須の保護レイヤーです。Green Thema Tecnology社の技術『EMPEL™』を採用した、特殊な構造で高い通気性を確保しながらも、通常とは異なる耐久性に優れた高撥水処理を施した、環境に優しいを水不使用・PFC(過フッ素化合物)不使用の素材を採用しているからです。
単に環境負荷が少ないだけでなく、まるでシルナイロンを彷彿とさせるほどの滑り良い表面をポロポロと水滴が弾かれ流れるほどの撥水性を持った生地に驚きます。表面を撥水加工しただけのものでないので、ある程度水で濡らしてこすっても、表面が濡れるようになりにくいのです。だからこそ「耐候性」に優れたウィンドシェルということができます。小雨どころか、ある程度の雨でも短時間であれば体を濡らすことを防いでくれます。生地に口を当てて吹けば空気が抜けるのがわかるくらい通気性は高いです。例えばアークテリクス/スコーミッシュフーディと比較するとやや劣る感はありますが、一般的にこれだけの撥水能力を持っていることから考えれば、十分高い通気性と言えます。
それ以外に、フードや裾のコード調整や、胸ポケットにコンパクトに収納できる機能などを備えているにも関わらず、重量がLサイズで103 gという軽量さがこのシェルの魅力を増しています。
デザインはシンプルで少しオールドスクールです。決して「カッコいい」デザインではないと思いますが、最近よく見られる複雑なカッティングではないこのシンプルさが良いと思う人もいると思います。これは好みの分かれるところではありますが、着丈が長めでお尻まですっぽりと隠れます。これだけの着丈の長さは軽量重視のウィンドシェルにはないと言えます。
強いて良くないところをあげると、結構スリムなデザインなので、アークテリクス/スコーミッシュフーディ(before 2019)のMサイズ相当に着用しようとすると、ディスタンスウィンドシェルはLサイズを選ぶことになります。Mサイズで着る場合は、温暖な時期の薄着の上に着られるくらいで、重ね着は諦めた方が良さそうです。そうすると着丈や袖丈が若干長く感じるかもしれません。もう一つは生地の薄さです。30g/平方m という生地は結構薄い方なので、コーティングによって生地の強さを補強していると認識した方が良いので、使い方が荒い場合には気を付ける必要があるかもしれません。しかしそれについては現行多くのメーカーが出している軽量ウィンドシェルについては同様だと認識して良いでしょう。
機能や特徴について
EMPEL™ 加工について
サラサラ、スルッとして、まるでシルナイロンを思わせるほどの滑りの良さがこのウェアの生地の特徴と言っても良いでしょう。それはこの加工から来ているようです。
Green Thema Tecnology Inc.(GTT)の「EMPEL™」とは端的に言ってしまうと、通常の10倍もの耐久性を持った撥水と、高い通気性を生地自体に持たせることができる加工技術のことです。
どうして撥水性が強く、耐久性に優れるのか。
「従来のウェット撥水加工」(ポリマー(重合体)を水に溶かしたものを生地に浸透させる撥水加工)ではなく、「EMPEL™ Dry Curing」(ベースモノマー(重合の基質)を直接を生地に浸透させた後にポリマー化させる撥水加工)が理由ということのようです。
間違っていたら申し訳ありません。わかりましたか?わかりませんよね。わかった人がいたらすいません。僕はあんまり分かっていません。とりあえず「へ〜」と思っておいてください。
水に溶かしたポリマーを生地に浸透させる撥水加工は、繊維間に浸透しますが繊維自体にはまとわりつきにくく、流れ落ちてしまう部分も大きいのです。そうするとポリマーは不安定なまま維持されるので使った溶剤ほどの撥水性が発揮できないだけでなく、摩耗や擦れに弱く、洗濯することでも弱っていきます。もともと水溶性だということも影響しているようです。
EMPEL™ Dry Curinghはモノマーを生地に浸透させてからポリマー化することで、ポリマーが非常に安定し、撥水性が高く維持されます。その過程で生地の繊維自体にコーティングが為され、摩耗や擦れ、洗濯に対して従来の撥水加工よりも10倍以上の耐久性を備えるのです。GTTでは「When clean fibers are treated with the EMPEL™ finish, the finished polymers will not wash off, rub off or wear off.(きれいな繊維をEMPEL ™仕上げで処理すると、完成したポリマーは洗い流されたり、こすれたり、摩耗したりしません)」と言い切っています。
どうして高い通気性を持っているのか。
それはこの撥水加工は繊維自体にされるために、繊維間は隙間が空いたままになるため、加工を施したあとも生地本来が持つ通気性を妨げないのです。
本来ならばこの加工最大の目的であり魅力は、加工の際に水を使わないことで排水とは無縁で、地球環境に負荷を加えないことなのでしょう。加工そのものが環境負荷が小さいだけでなく、撥水加工自体も高い耐久性を持つことで再加工の回数を減らし、さらに水の使用を減らし、排水を減らすことで、環境負荷を軽減していることになるのです。
GTTまたはEMPEL™の凄さは、この下の動画を見てみると良いでしょう。この撥水加工の強度は一般的な撥水テストよりも厳しいとされるBundesmann test(大粒の水滴と回転、自然のレインシャワーではほぼ無い過酷な状況を想定してのテスト)でされています。
この動画の素材は「Fleece hoodie fabric」で、一般的なフリースは繊維間だけでなく、生地の目が荒くむしろ水を吸いやすいものです。その生地の「Untreated(加工なし)」「C6 treated(一般的な撥水加工)」「GTT treated」の三つを比較しています。驚くのは10分後でも変わらずに撥水を続けているだけでなく、映像ではわかりませんが、繊維自体はドライだったということです。ただしこの撥水力と浸透圧は違いますので、この加工がされているからと言って「防水ではない」ことだけは付け加えておきます。
魅力的な軽さ
シングルスライダーではあるもののフルジップオープン。透け過ぎるほどは薄くなく、それなりに丈夫さも合わせ持った生地。調整可能なフード付き。チェスト(胸)ポケット。調整可能なヘム(裾)。袖はエラスティックのみで調整ができないのが残念なところではありますが、これだけの機能が備わっているにも関わらず、重量がLサイズで103g、Mサイズでは100gを切る98gという軽量さです。
ハイキングに向かうにあたり軽量であることはとてもありがたいです。ハイキングとりわけ長距離ハイキングの場合は、ウルトラライトにまでしないまでも、全体的な重量を考え、持っていく道具は吟味したいものです。そんな時、持って行きたいけど必要ないかもしれない。必要かもしれないけど重いからできれば持って行きたくない。そんな悩ましい時は多くの人が経験していることでしょう。けれどそういう時でも軽かったり、とても小さければ気兼ねなく持っていけます。もちろんそれが本当に不要なものであったり、あまりにも「あると便利」を増やしすぎると結局のところ重たくなるので注意は必要ですが、ウィンドシェルはハイカーにとって大きく有益なものだと思うからこそ、耐候性や耐久性が高いのに軽いということは本当にありがたいことです。
サイズについて
正直なところ普段通りのサイズで着ようと思うと、ハイカーにとっては細過ぎると思います。胸筋や腕の筋肉が発達しているクライマーにとってもジャストサイズでは窮屈なのではと思ってしまいます。ロングTシャツくらいで着るのであればジャストサイズで問題ありませんが、少しでも、例えばフリースやウールシャツなどの重ね着を考えると、ワンサイズ上が良いと思います。
実際にメーカーもフィットを「スリム」と表記しているので、ワンサイズ小さめに作られていると思ったほうが良いでしょう。ですのでブラックダイアモンドのウェアはUSサイズですが、日本サイズ相当だと思って選ぶのが良いのではないでしょうか。
着丈が長いのはディスタンスウィンドシェルの特徴の一つです。写真でもわかるようにお尻まで覆うものとして考えてください。ですが、袖丈が少し気になるかもしれません。しかしこれは特別この服の袖丈が長いわけではありません。アークテリクス/スコーミッシュフーディ Mサイズと比較してもほぼ同じ袖丈です。なのですが、問題は生地の滑りの良さ。最良のポイントでもあるのですが、そのせいでいつもの服のように滑りが止まってくれないので、どうしても袖周りに余った長さが集中しやすいのです。そのせいで袖丈が長く感じてしまいます。どうしても気になる人は「お直し屋」で袖詰めをしてもらうと良いかもしれません。
その他
クライミングヘルメット対応のフードはいかにもBDらしいと言えます。しかしちょっと注目です。フードの調整が一工夫されていて、引っ張るのは横方向のみと非常にシンプルではあるのですが、一般的な後頭部ではなく、首の後ろあたりにあるのです。フィット感も悪くないのですが、これはヘルメットやキャップなど下に被っているものと干渉しにくいという利点があります。
チェスト(胸)ポケットは、両側ジップにより収納になります。またカラビナクリップループを備えているので、バッグ内に入れずに外側にひっかけておくことも可能。これはORのヘリウムIIジャケットにもある機能で、ハーネスにぶら下げておくことも想定しているのでしょう。
裾の右下には1箇所のみで裾の締め具合を調節するドローコードがあります。
袖は少し緩めですが、伸縮性のある素材がついています。
Black Diamond について
言わずもがな。それくらいのメーカーではないでしょうか?Patagoniaの創設者であるイヴォン ・シュイナードが元々作っていたピトンなどのクライミング用品部門が分かれて生まれたクライミングやバックカントリースキー用品を主に作るメーカーです。言わばPatagoniaの兄といったところでしょうか。Blackは鍛冶屋(Blacksmith)から取り、Diamond はChouinard Equipment の「Diamond C」というロゴマークから取った名前です。長く、高品質ながらも手ごろな価格のクライミングギアを作っていましたが、昔からイヴォンや仲間たちが好きだったテレマークスキー用品にも取り組んでいて、最近ではバックカントリー用品の開発やバックカントリーメーカーとの合併も積極的です。そのブラックダイアモンドがウェアに取り組み始めたのは、2010年以降です。いつの間にか総合メーカーへの道を歩み出した感の強いメーカーですが、その根底には「クライミング」と「バックカントリースキー」という信念があることは間違いありません。その中で新たな取り組みなのが、Enduranceです。単にトレイルランニングではなく、Endurance(耐久)であり、Long Distance(長距離)においてということです。なので、Endurance Running や Long Distance Hiking ということを視野に入れていると考えられます。
この分野になぜ取り組んでいるのか定かではありません。しかし、クライミングにせよバックカントリーにせよ流行りはあるものの、いつの時代もいつの間にか廃れてしまうカテゴリーです。ましてや前衛的なアウトドアが盛んなアメリカですら「冒険」という分野がどんどんと縮小していく昨今においては尚更でしょう。そんな、いつの時代においてもアウトローでメジャーになりきれないアウトドアの「冒険」という分野に対して真剣に向き合おうとしているのが、Black Diamond というメーカーなのかもしれません。ちょっと良く言い過ぎたかもしれませんね。話半分に聞いておいていただければと思います。
使用した感想について
上記にある通りなので、あえて補足することもないのですが。GTTのEMPEL™という加工には大きな期待をしたいところです。
小雨の中で実際に使ってみましたがかなり良い感触です。これまでの撥水加工は例え新品であっても、最初こそ水玉がきれいに弾かれていても、時間と共に水玉が広がってきたり、袖周りやジッパー周辺などは最初から水が弾きにくいところがありました。しかし、ディスタンスウィンドシェルは弾く弾く。弾き続けていきます。実際にこれを着てシャワーを浴びてみたり、単純に水をかけてみての感想としては、今までこれと似たような撥水というとシルナイロンくらいだと思います。シルナイロンのように生地自体には水が含まれていかない。シルナイロンは今では環境負荷が大きいことから多くの国で加工自体が禁止されるようになっています。その中でまさかシリコンを使うことはないでしょう。いや、水を使わずにモノマーからポリマーにしてしまうGTTの技術であれば、排水がないので、シリコンだろうがなかろうが、環境負荷がほとんど無いということには変わりないのかもしれません。これでとりあえずの雨具にもなってしまうのであれば、レインパンツと傘があれば、とりあえず用が済んでしまうかもしれないなんて嬉しい限りです。しかし完全防風と蒸れても良いから防水であることの「保温力」には敵わないので、まだ現状はレインシェルとウィンドシェルの両方を持つことになるのかもしれません。ま、季節次第ですかね。温暖な時期であれば、傘があるならこれ一枚で本当に十分でしょう。
アークテリクス/スコーミッシュフーディと比較した時に若干の蒸れを感じました。現行のスコーミッシュはかなり通気性が良いので、劣るのは仕方ないとは思います。アクシーズクイン/ハゴロモはさらに通気性が高いです。その両者と比べてディスタンスウィンドシェルは、スコーミッシュフーディより軽く、ハゴロモよりも多機能ということが言えます。
ハゴロモは今まで僕のメインのウィンドシェルです。本当に高い通気性で蒸れ知らずはハイキングにおいてとても良いのですが、風が強く冷たい時はフードが欲しくなります。そして柔らかく肌触り良く汗をかいてもベタつくことがない生地が良い反面、毛羽立ちやすかったり、摩擦への弱さ、そして撥水の弱さというところが弱点です。
スコーミッシュは格好良いし、トータルでの機能も十分です。通気性と防風性のバランスはとても良いのですが、少々重い。マイナーチェンジで以前よりも軽くなったものの、全体に細くなってしまったのは、普段着としては悪くないのかもしれませんが、マウンテンウェアとしてはマイナスポイントになりました。袖も以前ならベルクロ調整できたのをやめてしまったので、なおさら重量差があってもメリットだったところを失ってしまいました。
そういうことからすると、ディスタンスウィンドシェルは、この3つの比較で言うと防風性が一番高く、蒸れ感はあまり感じないものの比較としての通気性はやや弱いといったところでしょうか。そして「野暮ったい」です。切り替えが少なくラグランスリーブなところも、立体の切り替えがあるものの妙に細長い身頃にテーパーが弱めで腕が太めだったり、正直カッコいいデザインだけでいうと、いまいち、だと思います。しかし、ハイキングで使うにはこの方が良いです。動きやすく邪魔しない。難しいところです、別に野暮ったいって言ってもカッコ悪いわけではないので、これでも十分とも言えます。ですが、もっと写真写り良くありたいとも思うかもしれません。さらにはっきり言ってしまうと、現行では無く、昔のパタゴニア/フーディニフルジップへのオマージュであると思います。残念ながら今のフーディニフルジップにはほぼ通気性はありません。通気性があった頃のフーディニフルジップみたいなものが欲しい。それにプラスして、当時にはなかった技術を盛り込んだものなのかもしれません。だから、僕はなんとなく好きなのだと思います。軽いし。
デザインにおいては何かのオマージュであるのかもしれません。しかし、このシェルはどこかにあるようで、今までにないものに仕上がっていると思います。従来は「高通気の雨具」というアプローチでウィンドシェルとレインシェルを兼ねられないかということを考えてきましたが、GTTの技術は「高耐水のウィンドシェル」をレインウェア代わりにできないかという逆からのアプローチを考えることができるのです。ウィンドシェルなのにこの着丈の長さといい、使うのが楽しみになるウェアです。
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