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yamada packs & MIYAGEN 展示受注会

2024/01/08
土屋 智哉
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2000年代以降、北米のウルトラライトハイキングシーンで支持され、ハイキングスタイルをリードしてきたバックパックメーカーたち。彼らに共通しているのはロングディスタンスハイカーが自らの経験を糧としてバックパックをうみだしてきた点にあります。2022年、日本でもPCTスルーハイカーによるコテージギアメーカーがたちあがりました。yamada packs & MIYAGEN 2ブランドによる合同展示受注会。

 

yamada packs バックパック40(800g)

 

MIYAGEN クレスト40(900g)

 

長距離ハイキングにおけるバックパックの潮流

ロングハイクから産みおとされたULバックパック

1992年、レイ・ジャーディンが著した『PCT Hiker Handbook』により「ウルトラライトバックパック」はハイカーの前に姿を現しました。レイ・ウェイと呼ばれるそのシンプルかつ完成されたデザインはあらゆるULバックパックの原点です。この必要な要素以外を徹底的に省いたバックパックはPCT(パシフィック・クレスト・トレイル)などの長距離トレイルをスルーハイクするために生み出されました。長期間長距離にわたるハイキングで体への負担を極力少なくするためにバックパックはもちろん、その中身に至るまで必要な要素のみに絞りこんだシンプルな方法論(ウルトラライトハイキング)を基にしています。

こうして産声をあげたULバックパックは1998年創業のGOLITEによりマスプロモデルとして市場流通するようになりましたが、当時のアウトドアシーンの中心に躍り出ることはありませんでした。Granite Gearがヴァーガ、ヴェイパートレイルというULバックパックを発表し、AT(アパラチアントレイル)のTrail Daysでスルーハイカー向けのバックパック無償修理をおこなうなどロングディスタンスハイキングというカルチャーに向き合う動きはありましたが、ニッチなカルチャーであることは変わらず、そのシーンを支え、ハイカーから支持されていたのは小規模なコテージギアメーカーでした。その後ロングハイクシーンから産み落とされ、小規模コテージギアメーカーがつくるULバックパックは2000年代中頃においてその軽量化を先鋭化させます。使用シーンもロングハイクからウィークエンドの1、2泊というショートレンジのハイキングに移っていきました。

 

ロングハイクで必要とされた腰荷重モデル

この時期のロングハイクシーンにおいてハイカーは軽量化を意識しつつも、レイ・ウェイのような典型的なULバックパックを使いこなせるハイカーは決して多くはありませんでした。長距離ハイカーの数が圧倒的に少なかったこともその理由です。2000年代後半、軽量志向の長距離ハイカーに支持されたのはGranite Gear ベイパートレイル、ULA サーキット、 Gossamer Gear マリポサといったモデルです。ヴェイパートレイル、サーキットはGREGORYやDANA DESIGNSといった北米トラディショナルな腰荷重を前提とした設計のバックパックです。マリポサはULバックパックメーカーがはじめてアルミステイを搭載させたモデル。腰荷重を前提としてはいないものの、状況によって腰でもしっかりとサポートできるというのが特徴です。その後この流れはマスプロ大手のOspreyに波及します。2010年にエグゾスを発表するとロングハイクシーンを席巻したのです。2020年代の現在に至るまで、これらのモデルもしくはその後継モデルはロングハイクシーンの主流でありつづけています。このように「腰荷重ができる800g〜1kgの軽量バックパック」がPCT、CDT(コンチネンタル・ディバイド・トレイル)、ATといった超長距離トレイルで支持されているのには以下のような事情があります。

  • ベアキャニスターを携帯する必要
  • 山火事などで大きく迂回する可能性
  • 季節をまたぐハイキングによるギアの増加

特に食糧、燃料、水といった消費材関連の重量が増加しているのです。パックウェイトで12kgというのはテント泊装備でのハイキングとして過剰に重たいというわけではありませんが、長期間にわたって背負い続けるにはやはりフレーム入り、腰荷重可能なモデルを必要とするケースが多いのです。現在は北米コテージギアメーカーのバックパックの主流もこうした腰荷重モデルに移行しています。

 

長距離ハイキングにおける2つの潮流

それではレイ・ウェイを原点とするシンプルを突き詰めたULバックパックは絶えてしまったのでしょうか。そんなことはありません。正統は2015年創業のPa'lanteなどのバックパックにしっかりと引き継がれています。彼らのバックパックは股関節の可動域を最大限に確保するため腰荷重を採用しません。そして上半身で長期間背負えるだけの体力や荷物をより軽量化する知恵と技術をハイカーに求めてさえいます。ある種のハードルの高さはレイ・ウェイが登場したときと同じといえるでしょう。
レイ・ジャーディンもPa'lanteの創業者であるアンドリューやジョンZもとにかく歩きます。ひたすら歩き続けるハイキングスタイルです。ULハイキングとロングディスタンスハイキングとの蜜月関係はそうしたスタイルを基盤としています。そして長距離トレイルをそうしたスタイルで歩くハイカーは2020年代の現在、決して少なくはないのです。

現在のロングハイクシーンにおいて多くのハイカーが求めているのは腰荷重可能な軽量バックパックです。2000年代に比べれば格段にハイカーは増えました。当然その経験、体力、知恵、技術にも幅がうまれています。そうした状況もふまえれば、10-12kg程度の重量を安心して支えられる腰荷重モデルへの需要は必然といえるでしょう。しかしその一方でレイ・ジャーディンから続くひたすらに歩く正統ULのスタイルもしっかりと息づいています。アリゾナトレイル、コロラドトレイル、バーモントロングトレイルなど1,000km前後の距離感のトレイルでは2000年代とは比較にならぬほどULに特化したハイカーを見かけることが増えました。2つのバックパックの潮流が存在するその多様性こそ現代ハイキングの魅力のひとつなのです。

そんな現代ハイキングにおけるロングハイクモデルとして注目したいブランドが日本にも誕生しました。PCTスルーハイカーがたちあげた「yamada packs」と「MIYAGEN」。長距離ハイカーのフィードバックがいかされた2ブランドの合同展示会を開催します。

 

yamada packs & MIYAGEN 展示受注会

イベント概要

日時)2024年2月3日(土)&4日(日) 12時〜18時

場所)ハイカーズデポ(東京都三鷹市下連雀4-15-33)

内容)

  • yamada packsのバックパック展示説明および受注
  • MIYAGENのバックパック展示説明および受注

参加費)無料

既に製品販売をおこなっている両ブランドですが、イベント当日の既製品販売については未定となります。今回は両ブランドの旗艦アイテムであるバックパックに盛り込まれたアイデアやその意図について製作者からじっくりと話を聞いてみてください。2024年春からの北米長距離ハイキングでの使用にも間に合うタイミングです。

 

yamada packs

2018年のPCTスルーハイカー「Watermelon」が2022年に立ち上げたハンドメイドバックパックのブランド。彼が作りたいのは「後ろから抱きしめられているかのような背負い心地」「1週間の食料の重さに耐え、しっかりと腰で支えられる構造」のバックパック。北米長距離トレイルの日本人スルーハイカーが立ち上げたバックパックブランドのパイオニアとして、自然豊かな山形県を拠点に渓流に遊び、山を歩き、バックパックの制作にじっくりと向き合っています。
2022、2023年とyamada packsのバックパックが使用されたのは北米、ヨーロッパ、ニュージーランドと多くの海外長距離トレイルにひろがり、そのフィードバッグにより日々進化を遂げています。既に長距離ハイカーからの信頼と実績を積んでいるロングハイクバックパックのコテージギアメーカー。

yamada packs ホームページ

自身のPCTスルーハイクのフィードバックから生まれたフラッグシップ。yamada packsバックパック50(800g)
yamada packs最大の特徴はこのハーネスにあります。

 

MIYAGEN

2022年のPCTスルーハイカー「Teenage Dream」が家業の酒屋に併設して2022年に立ち上げたハイキングギアメーカー。国内大手アウトドアメーカーで製品企画開発に携わっていた経歴を活かし、細部にまでこだわった品質のギアを各種制作販売しています。特にわずか2gの超軽量ホイッスルは3Dプリンターの特性を活かした独自の内部構造が軽さと音量を決定づけた独創的な代表作といえます。バックパックは自身のPCTスルーハイクでプロトタイプをテスト、翌23年にも再び自らがPCTセクションハイクでテストする他、友人ハイカーによるPCTスルーハイクでも使用されています。最新のロングハイクフィードバックからうまれた2024年バージョンがついに登場です。この展示受注会でぜひ体験してください。

MIYAGENホームページ

2024年バージョンとなるMIYAGEN クレスト40(800g)。直近でPCTを歩いているハイカーによるバックパックの最前線。

 

ロングハイクからULハイクが生まれ、またロングハイクに戻っていく。ハイキングシーンにおけるこの循環はアメリカだけの話ではありません。日本でも同じです。山と道の夏目夫妻がJMTを歩き、ウルトラライトハイキングにこだわったバックパックを発表したのは2011年。それからの2010年代、日本では様々なコテージギアメーカーが「ウルトラライト」をキーワードにバックパックを提案してきました。そして2020年代、日本でも増えてきた海外長距離トレイルのスルーハイカーが「ロングディスタンス」をキーワードにしたバックパックを提案するようになったのです。

ULハイク&ロングハイク文脈におけるバックパックの潮流も頭の片隅におきながら、是非この展示受注会を楽しんでください。