Cut Your Own Gear~ハサミだけでできる軽量化術 with G4-20

マルチデイ向け軽量バックパックの代表格でもあるゴッサマーギア「G4-20」。その源流をたどり、ULとは何かを考えながら、想像のG6-20に変化させる。ULハイカーの錯誤、試行錯誤、その源流を訪ねる思索の旅。

ウルトラライトの基本は自分が必要な機能を見極め、その機能に近いものを持ってアウトドアに出ること。市販品で見つかることもあるが、見つからなければ、どんどん改良すればいい。そんな試行錯誤を繰り返していた20年前を思い出し、自分だけのULバックパックをハサミだけでカタチにしてみた。

 

G4の系譜と軽量化

4〜5日の縦走(マルチデイ)向け軽量バックパックを現行品から選ぶとなると、HMGの2400シリーズやゴッサマーギアG4-20くらいがほど良い。G4-20は容量40リットルの上、何でも入るフロントポケットもあり、サイズ感は都合良い。ただし、94グラムの背面パットを含むと700グラムほどあり、ULバックパックというより重量的にはライトウェイトと言われていたカテゴリーに入るもので幾分重い。

G4-20にはオリジナルがある。オリジナル誕生20周年を記念して、「もし現代にG4を作り直すなら?」との問いを経て、最新素材を使用し、デザインしなおし、サイズダウンしたリファインモデルだ。ストレッチメッシュやウェストベルト上のポケット、ショルダーストラップに付いたアクセサリーポートなど、現代のユーザーのニーズに合わせているところが多いのが特長だ。

さて、オリジナルG4について話そう。アメリカのライトウェイトバックパッキング黎明時に軽量バックパックを自作して販売していたGVP gearにまで遡る。

GVP G4

G4が世に出た経緯を辿ると、その出自はガレージブランドの雛形と言うに相応しい。
創始者のグレンがバックパックを作りはじめたのは、ボーイスカウト・キャンプに向かう息子のために作り始めたことに由来する。参考にしたのは、レイ・ジャーディンRay Jardineが1992年に執筆した『ビヨンド・バックパッキングBeyond Backpacking』に記載されているバックパックだった。
彼のバックパックには、名前のGlenの G+番号が振られていた。G4は4つ目にあたるバックパックだ。

G4といえば、その独特なデザインに目が留まる。寝袋をゆったりと収納するための大きな臀部、その上に付けられた大きなメッシュポケット。靴下や予備の衣類を入れてクッションがわりにできるショルダーやウェストストラップ。エンジニアらしい機能美を追求した姿は、今見ても美しく、誰の真似でもない。
4世代目の G4は俄かに、軽量バックパッキング・コミュニティ内で評判となる。

グレンはバックパッキングの自作を促すよう、 G4の型紙を発表する。
当時のULとは、軽いギアを探すことではない。いかに市販品を切るかであり、あとはミシンを買って自作するものであった。当時、グレゴリーのリアリティを分解した500グラムまで減量したものを見たことがある。ULとはそういうものだったのだ。

当時もパターンやキットなどはクエスト・アウトフィッターで購入できた。今でも買えるようだ。

https://www.questoutfitters.com/patterns-packs2-cart.htm

型紙を発表したものの、彼の元には、ミシンが使えないバックパッカーから「自分のも作ってくれ」と依頼が入るようになる。当初は、本業であるエンジニアの傍ら、自宅で製作を開始して応えるが、次第に注文が多くなり近所に住むミシンが使えるご婦人に声を掛けて縫製してもらったと言う。やがてGossamer Gearというブランドへと変遷する。

G4は4400cu.in,(70リットル)と大型である。
1990年代後半は、日本でも縦走といえば70リットル~80リットルと言われていた時代だ。当時のマルチデイ・バックパックに求められる容量が窺える。

https://hikersdepot.jp/items/1765.html/

ゴッサマーギア時代のG4が辿る変遷

GVPは1998年にgossamer gearへと進化を遂げる。 G4もゴッサマーギアに時代に入ると、進化(あるいは環境に適した変化)を辿りはじめる。
G4の後継モデルであり、併売されていた「G5」が2005年に誕生する。

次世代モデルのG5は、生地に通常のナイロン地から、当時の最新素材であり軽量なセイルクロス『スピンネイカー』が使用される。重量は230グラムと飛躍的に軽量化した。
ボディサイズも大型であったG4から46リットルにサイズダウンされた。2000年に入り、様々なギアの軽量化、小型化が進むと、マルチデイ・バックパッキングに求められるサイズが縮小していったのだ。

新素材『スピンネイカー』の導入により、新型バックパックは大幅に軽量化されたが、その素材は長期的な使用には向いていないものだった。元来、セイリング用の布であったスピンネイカーは、擦れや穴あきに対してはほとんど無防備と言えた。 2006年に、4ヶ月のPCT踏破を終えたフランシス・タポン氏の G5は、ダクトテープであちこちを補強され、かろうじてバックパックの体裁を保っているように見えた。
なお、G5の終焉期にあたる2006年ごろには、より耐久性のあるモデルとして G5シルナイロンが併売されていた。重量は300グラムと十分に軽い。

G6 の誕生

スピンネイカーを使用したバックパックとして次に登場したモデルが G6にあたるWhisperウィスパーである。当時のULコミュニティを牽引していたBPL (Backpacking light)のRyan Jordanラインアン・ジョーダンと企画したものであり、『Lightweight Baclpacking and Camping』の表紙を飾るライアンー人差し指でバックパックを持っているー写真はおなじみだろう。

本体容量は33リットルと小ぶりで、週末バックパッキング~マルチデイ・バックパッキングに合わせたモデルとなる。当時のウルトラライトというアクティビティは、ロングディスタンス・バックパッキングとは明確に違うものへと変化していて、多くのバックパッカーが週末から数日のバックパッキングに適したバックパックを求めていた時代である。その他の装備も、ULコミュニティを牽引していたBPL (Backpacking light)によって、軽量ギアが多く(と言っても、今の比ではないけれど)紹介されていたおかげで、33リットルでも西海岸の降雨に対する装備を持たなければ、5日ほどのバックパッキングには十分対応できたものである。

容量と共に、軽量化を図るためにサイドポケットを失う。トップのクロージャーはマジックテープであるが締まりがよくないため、一本締め用のループにラインを通して使う方が良かった。

重量は130グラムとなる。ここがゴッサマーギアにおける軽量化の懸垂曲線の最下部であり、ここからはバックパックの進化は重量化に向かう。

Murmurへと進化

後継モデルのWhisper(ささやき)は、より小さなMurmur(ブツブツ言う)へと変わる。グレンモデルである。実質的には G7であるMurmurには G4や G5のようなGlenナンバーがなくなる。
この時代に入りゴッサマーギアからMariposaマリポサが登場する。当初はブルーマリポサであったが、やがてゴッサマーギアのカラーであるグレーマリポサへと変わり、現代のロービックモデルに引き継がれる。容量、素材、デザイン、すべてが当初のモデルと大きく異なるが、長期のトレイルや山行に適したモデルとして位置づけられている。

さて、Murmurの話に戻ろう。
Whisperからの進化はフロントポケットがメッシュになったことと、サイドポケットが付けられたことである。 機能面で言うとG5のサイズダウンといったモデルだ。

サイドポケットが付いたこと、実は重いメッシュポケットとなったおかげで、重量は220グラムと重くなってしまった。軽さのみにこだわり、不平を言うUL雀(私のことだ)にとっては当時の〈退化〉は至極残念であった。130グラムの次は100グラム以下の夢が見たかったのだ。当時、タープなどで使っている0.8ozの超薄Cuben Fiber(後のDCF)があり、それを使えば実現できた数字であろうに。そう信じていた。

今、冷静になって考えると、安易な軽量化競争に陥らなくて良かった。当時はZpacksのZ1など同様の機能でかつシルナイロンで強化したモデルもなくはなかったが、ハイキング体験が良くなるより、むしろ耐えて使っている気もしないでもない。数字遊びではないのだ。軽くしてバックパッキング体験を損なうようなことがあれば、バックパックとして力不足である。

グレンが来日した時にポケットについて訊いたところ「(重量増に対して、容量が稼げるし、(歩くこと、運ぶことにとって)機能的であるから付けた」と説明してくれた。「これがあったら便利」とは違うアプローチだ。
サイドポケットを2個つけるなら数十グラム程度の追加で、ペットボトルなどの嵩張るアイテムを振り分けることができる。布を付け加えたところで、重量増は10グラム程度に収まる。

私のMurmurはまたしてもシルナイロン版であり、通常モデルより25グラム重い245g。「100グラムの削減に要して良い金額は10000円」と『山より道具』のULGさんの名言に従うと、Whisperから100グラムも重量化しているのに、費用が発生するのはやるせない。むしろ一万円もらいたいくらいだ。

Murmurのシルナイロンへと進化する。重量は293グラムであった。グレーMurmurからショルダーベルトが袋状になっておらず、3Dメッシュになっている。 G4の発売当初からの特徴であった「ショルダーストラップの中に靴下を入れてクッションとする」からはいよいよ離れてしまった。

すでにゴッサマーギアの(そしてマーケットの)中心はULバックパックではなく、長距離トレイルにも使用できるような耐久性や背負い心地にも配慮した(マリポサやゴリラなどの)バックパックが主流の時代となっていた。ULバックパックは市場から徐々に影を潜めていった。

Murmurとクロスフェードするように、 G4-20が突如現れるのであった。

 

G4−20は確かにG4の現代版ではあるけれど

ゴッサマーギア代表のグラントが来日した時に、「G4の最新版は良いとして、G6ウィスパーの最新版は?」と聞くと、「ああ、それならサンプルを特別に作ってあげようか?」と一笑にふされて、その話は、そこまでになってしまった。

北アルプス縦走で毎夏使用しているブルーG4-20を見ていると、2006年にJMTを一緒に歩いたウィスパーの姿が思いだし、目が潤む。ウィスパーのポケットがないところを補うように、まだ〈サコッシュ〉と名前を授かっていなかったポーチをポケットとして使ったものだ。水を飲むたびにフロントポケットからボトルを取るためにバックパックを下ろすのだが、地面に付けると穴が開くので靴の上に下ろすようにしていた。

「そうだ、このバックパックに必要なものは全て含まれていたんだ」

 

さて、UL化してみようか

軽量化において、「持っていかない」、「道具を技術や知識の置き換える」などは基本中の基本だが、ハサミも使いようだ。足るを知る、というように、自分が必要なものを知ることで、メディアやネット情報に踊らされることなく、不必要なものを置いておくことができる。ソーラーランタンなんて、一人でキャンプするおじさんには必要ないのだ。あんなほんわりした光で何を思えと言うのだ、寂しくなるじゃないか。おじさんにはスマホに入れた志ん生の一席ががあれば十分ホンワカンなのだ。

自分がバックパックに必要なものを知ろう。書き出しても良い。本体の袋は必要だ。そして肩ベルトも切り落としては行けない。さてあとは?
必要なものがわかってはじめて、バックパックの不要なパーツを外すことができる。お通しのように、別になくても困らないものがあるはずだ。
「バンジーコードは必要か?」あれを付けてくれるメーカーが多くあるが、私はあのゴムが嫌いだ。引っかかるし、重いし、何かに役立ったことはない。(自分には)百害あって一理なしとは、バックパックのバンジーを指す。さっさと外してしまう。外したバンジーが家に増えていくので、メーカーに送り返したいくらいだ。

何度も言うが、「自分にとって」必要か、必要でないか。そこから、軽量化の錯誤の旅がはじまるのだ。

 

まずはハサミを手にして切ってみよう

・まずはアックスホルダーを切る
さて、発売されてから幾シーズンも使ってきたG4-20には使わない機能が多々あるのに気が付く。アックスホルダーは残雪の多いシエラネバダでは役立つものかもしれない、日本の夏山にはほぼ要らない。一度も使ったことがない。さて、切ろう。

・切り取って秤に乗せると0グラム。
切りだしはそんなものだ。

さあ、どんどんとハサミを使って不要なものを切り落とすのだ。

・ロゴやタグを外し、ショルダーストラップの間にある把手なども切ってみる。乗せると5グラムとなった。

・バンジーコードを止めるであろうナイロンループは10個切り落としても、0グラムという結果。

・ショルダーストラップについている小さなDリングを切り取ると3グラム

こういうのを人は「徒労」と言う

 

機能的な、後戻りができないところに手をつけよう

ロゴやタブ、テープの余りなどを切っても機能面での変化はほとんどない。平和なハサミの使い方だ。ここでもう一歩踏みだしてみる。

・とりあえず左右のストラップとトップストラップを外す。31グラムの削減。大きい。この機能を省けば、大きな躍進だ。

ここでやめておけば、いつでもコンプレッション・ストラップは戻せるが、ストラップを使わないと決めたなら、ストラップをつけているループや留め具も切ってしまおう。いつか使うかも、と言うのは永遠に訪れないもの(か、切ってすぐに発生するかどちらかなのだ)。ちなみに切ってしまうと、3グラムも削減できる。

・背面メッシュは使わなければ、切ってしまえばいい。だって、臭くなるんだもん。
一枚12グラムの二枚で24グラムも削減だ。

さて、秤にここまでの出来高を全て乗せると、70グラムであった。600グラムからだと11%以上の削減である。誤差はあるかもしれないが、納得の数値である。よく「使わないストラップの端を切ろう」と見るが、実は軽量化に大きく寄与しない。もっと勇気を出していこうぜ。
ちなみにチェスト・ハーネスを切る人もいるが、私は肩が凝るので、今回は必要なものとして、切らないで置いておく。

 

さぁ、取り返しのつかないことをしようか

センター上についているポケットは、内部に収納があるため、中に入れるものが限られてしまう。ならば、取ってしまって、ファスナーは内部へのアクセスに使えそうだ。内側の生地を切り進める。削減効果は7グラム。使用されているロービックがいかに軽量で優秀なものか伺える。苦労して生地を切ったところで、大きな軽量化は期待できなかった。

さて、ここまで地道に切り進んできたが、ここからが佳境である。軽量化の本丸に切り込もう。サイドポケットである。生地を切っても軽量化しないといったが、ここからはウィスパーに近づけるという精神的なチャレンジである。サイドポケットなんて登攀用バックパックには付いていない。私がライトウェイトバックパッカーなのか、シンのULバックパッカーなのかの分水嶺である。さぁ、峠の向こうの景色を見ようではないか。

布地は効果が薄いし、サイドポケットを取ると容量も減ってしまう。諸刃の剣というか、むしろこちら側は圧倒的に不利

・左右のポケットを切り取る。リッパーを当てて進めるとあっという間に切れてしまう。両方切ったところで22グラム。さすがのロービックである。昔だったら、50グラムはいっただろうに…。

これまでで、100グラムの削減ができた。

さて、ウェストベルトに付いているポケットは、正直あまり使わないなぁ。昔はコンデジを入れたものだが、置くたびに地面に叩きつけるため、ポーチに入れることにした。
ファスナーポケットを切り取ると22グラム、メッシュポケットは6グラム、合わせて28グラムも削減できる。ファスナーは重いのだ。ファスナーと言うのは全ULの敵と言って過言ではない。

ここまでで128グラムの削減だ。私のG4は472グラムとなった。

 

スムースな見た目になった G4-20

 

ウェストベルト? あんなの飾りです。偉い人にはそれがわからんのですよ

私のG6ことウィスパーはJMTの最中にウェストベルトが抜け落ちてしまい、結局のところ肩ベルトのみで歩いた。そのせいかウィスパー=ベルトなしだと思っていたが、修復してつけ直してもらったのだった。久しぶりに見ると、きちんと(ブラブラと)付いていた。
「ウェストベルトはなくても良い」とは簡単に言えないが、どうにも背面システムを簡略した布モノのULバックパックでは、背面から重量を腰に荷重するシステムが不十分である。
G4のウェストベルトでは腰荷重をしようとしてウェストベルトを腰ではなくウェストに締めることにより、思ったよりも肩から重さが逃げるが、背中とは連動していないため、荷重分散効果はそれほど見込めない。はい、切ってしまいましょうよ。元来、GoliteのBreezeだってウェストベルトがなく、重くて嫌な人はウェストポーチをつけて、その上にバックパックを載せていたものだ。

そもそも、8キロ未満に収めれば、ウェストベルトはなくても困らない。荷重を分散させるバックパックを使って重いものをわざわざ担ぐより、不快な重さから逃げるために、モノを持っていかない決心をする方がどれほど快適な歩きを楽しめることか。不安や甘えはウェストベルトとともに断ち切るのだ。

それに、ロールマットを本体に中に入れてしまうはずで(だって、背面パッドホルダーは切っちゃったもん)、容量が減れば入れるものも減っていく。ロールマットの外付けは日本の登山道に向いていない。横付けなんて言語道断。

ベルトを切り落としたG4−20の重量は、期待を上回り357グラムとなった。
ウィスパーには遠く及ばないが、G5シルナイロンには少しだけ近づいたと思う。トップクロージャーを一本締めに変えたり、フロントポケットのファスナーを外して縫えばさらに数十グラム削減できるだろうが、今回はハサミだけでできる軽量化がテーマなので、また気が向いた時に。

機能とデザインの融合がULパックの美しさである

私だけのULバックパック「G6-20」の誕生である。

G6-20の誕生

ウィスパーを横に並べて記念写真を撮ると、よく似ていることに気が付く。軽量化懸垂曲線の最下部にあるデザインだ。

〈切って見えてくる価値〉

切って初めて、G4-20のコアは350グラムであり、残りの350グラムは快適性や利便性と言った贅沢や甘えの重みなのだと気付かされる。真摯に受け止めよう。

切ってこそ自分の道具になる。ウルトラライトの基本はネット検索でもグッズ比較でもない。ましてやユーチューバーのおすすめギアでもない。理想は己の心の中にしかないのだ。(そこに気がつくまでに、バックパックを買い続ける旅は10年を要した。しかし、いまだにレンズを買うときにはレビューを見て、ユーチューブをみて、しっかり背中を押されてポチッとしているのだ。いったいどういうことなんだ?)

まずは、自分自身を見つめ、必要な機能を見極め、その機能に近いものを求めること。市販品で見つかることもあるが、見つからなければ、どんどん改良していこう。パッキングの目的は自然環境における自己の解放である。右へ倣えでは、誰かの人生をなぞっているに他ならない。量産型の個性に陥るだけで、どこにも辿り着けない。

自然と自分が対峙した時に、ブランドタグなんて全く価値がない。レイ・ジャーディンはレインウエアのブランドを隠すために、当て布をしていた。重量増になるだろうに…。「ブランドの宣伝をするために着ているんじゃない」と言っていた。

まずは切ってしまおう。そこから全てが始まるのだから。