セルフアレスト用ピックを装着することで急傾斜の雪面でピッケルのダガーポジションのような使い方が可能になったカーボントレッキングポール 。「4シーズン&アルパイン」での実用性と汎用性を追求したモデル。
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仕様
重量 - 526g(ペア)
- 全長
- 収納時 63cm
使用時 100〜130cm - 各セクション長
- 上段 50.0cm
中段 45.0cm
下段 52.0cm - 素材
- グリップ コルク、EVA
シャフト カーボンファイバー
石突 カーバイト
春夏秋冬オールシーズン
岩場の多いタフな高山帯での
実用性と汎用性を求めたトレッキングポール
トレッキングポールのカテゴリーと
アルパインカーボンコルクWRの基本特性
登山専用のトレッキングポール(ダブルストック)が日本市場で流通するようになって四半世紀以上が経ちました。わたしの学生時代1990年代前半にはサークルの先輩が北アルプス全山縦走で負荷軽減のためにポールを活用していました。しかしそのときに使用していたのは伸縮しない普通のスキーポール。その姿を印象深く覚えています。1990年代後半からは日本のアウトドアショップでも登山専用のダブルストックが流通しはじめます。現在も主流である伸縮可能な3セクションポールです。そして2000年代中頃には、現在の軽量モデルの主力である折りたたみ式ポールが普及しはじめます。
現在、登山やハイキングで使用されるトレッキングポールは大きく以下の3カテゴリーで理解するとよいでしょう。
1)3シーズン用3セクショントレッキングポール(スタンダードモデル)
2)3シーズン用折りたたみ式トレッキングポール(軽量モデル)
3)4シーズン用3セクショントレッキングポール(オールシーズンモデル)
1)は一般的なトレッキングポール 。カーボンシャフトの採用やシャフト径を細くすることでペア300g前後まで軽量化したULモデルから、耐久性を重視した450g前後のスタンダードモデルまで幅広いバリエーションがあります。最大長についても120〜140cmと様々です。状況に応じて長さを変えられることから、登下行時の各種状況に対応できます。さらにタープやシェルターの設営用ポールとしても多彩なモデル多彩な設営方法に対応できることが特徴です。調整についてはスクリューロックが主流。当店のラインナップではGossamer Gear LT5などがこのカテゴリーに相当します。
2)は2000年代後半からULハイカーや山岳レーサーの間で活用されはじめました。もともとは長さ固定の軽量モデルが中心でしたが、コンパクトな収納が一般登山でも重宝され、耐久性重視や長さ調整機構を搭載したモデルが現在では主流です。しかし軽さを重視するのであれば、カーボンシャフト採用で長さ固定のモデルが良いでしょう。ペア重量は300g前後という軽さです。こうした長さ固定のモデルも持つ位置を変えれば歩行時の各種状況に対応可能です。シェルター設営の汎用性は1)よりもやや劣りますが、ツェルトやタープなどの設営では特に問題ありません。コンパクトな収納を重視するハイカーにとっては第一候補といえます。当店ラインナップではBlack Diamond ディタンスカーボンZがこのカテゴリーに相当します。
3)はバックカントリースノーボードやスノーシューハイキングで使用されてきた耐久性重視のモデルです。Black Diamond エクスペディション3ポールはこのカテゴリーの大定番として長らく信頼されてきました。雪上でポールを使用する場合、不安定になった際に無雪期以上に大きな荷重がポールにかかります。そのため冬季使用に主眼をおいたモデルは軽さではなく耐久性に重きを置いています。またスクリューロックでは内部が凍結した際に固定が効かなくなる、グローブをしたままでは作業がストレスになることから、トラブルの心配が少ないシンプルなレバー固定方式が採用されていることはこのカテゴリーの特徴です。無雪期以上に耐久性と操作の信頼性が求められることからペア500g以上の重量も致し方ありません。無雪期用ポールを積雪期に使うことはなかなか推奨できませんが、バックカントリースノーボーダーが無雪期の登山で冬季用ポールをそのまま使用するように、その逆は何ら問題ありません。厳しい環境でも信頼できる耐久性と操作性はオールシーズン&アルパイン用トレッキングポール の欠かせない条件といええるでしょう。
Black Diamond アルパインカーボンコルクWRはこの3)のカテゴリーに相当するトレッキングポールです 。このカテゴリーの特色はそのままアルパインカーボンコルクWRの基本特性なのです。
最大の特徴 Whippet Ready Grip
アルパインカーボンコルクWRは耐久性と操作性に重きをおいたオールシーズントレッキングポール のひとつですが、他のモデルと差別化される最大の特徴がそのグリップにあります。 WR(Whippet Ready / ウィペットレディ)とよばれる機構です。
この機構によりポールグリップにセルフアレスト用ピックを装着できます。もともとはバックカントリースキーで滑落の危険が高い急斜面や尾根での通過の際に安全性を高めるためのオプション装備です。Black Diamondのスキーポールの一部に搭載されていました。また最初からセルフアレスト用ピックが固定装着されたウィペットというポールも同社には存在します。GRIVELにもコンドルという同種の製品が存在するように、セルフアレスト用ピックは一部のバックカントリースキーヤーにとっては珍しくない道具といえます。
アルパインカーボンコルクWRはこのセルフアレスト用ピックが装着できるトレッキングポール です。これにより急傾斜の雪面でピッケルのダガーポジションのような使い方が可能になります。
ウィペットアタッチメント (149g / ¥10,450)
アルパインウィペット(99g / ¥11,990)
ユニバーサルアダプター(28g / ¥2,420)
ピッケルの使用方法をしっかりと理解し訓練しておくことがこれらのセルフアレストピックを使用する前提になります。またこセルフアレストピックはピッケル操作における一部の機能しか果たせません。また不安定な場所で取り付けをおこなうことはかえって危険を増してしまいます。セルフアレストピックを事前にポールに装着しておくためには、先の状況が予測できるだけの経験や知識も必要となります。
セルフアレストピックはピッケルの替わりではないので過度な期待は禁物ですが、それらを理解したうえで使用できるハイカーにとっては残雪期のハイキングにおける安全性を高めてくれる道具になります。
ハイカーにとってのセルフアレストピック
先にも述べたように、セルフアレストピックはバックカントリースキーヤーのためという性格が濃い道具です。それをトレッキングポールに装着した場合、ハイカーにとってどのような道具になるのでしょう。
写真は2010年のPCT(パシフィッククレストトレイル)スルーハイカー。ノースバウンド(北上)するPCTハイカーは残雪のシエラネバダ山脈を越えていきます。峠はすべて3,000m越えのため、残雪に覆われています。スイッチバックをきる、トレースを先行者がつけているとはいえ、急傾斜での登高、下降を数多く強いられます。そのためこの区間ではピッケルを携行するハイカーも少なくありません。しかし雪も安定しトレースもついてくるとピッケルの必要性 はさほどではなくなります。しかしトレッキングポールだけでは心許ない場合があるかもしれない。そうした微妙な状況での選択肢としてセルフアレストピック付きのスキーポールを使用するハイカーがでてきたのです。写真の彼はエベレストサミッターでもあるので雪上歩行技術に熟達しているという背景はありますが、シャフトを自ら短く切って改造したBlack Diamond ウィペットをPCT全区間でトレッキングポールとして使用していました。
ハイカーがセルフアレストピックを使用するにあたっては、トレースもしっかりついてきた残雪期の山に限定した方が良いでしょう。トレッキングポールで基本的に問題はないけれど斜面の状態によってはピッケルがあると便利、でも持っていくほどではない。そんな時に非常に有効な道具になるはずです。雪山に親しんでおりピッケル操作にも慣れているハイカーにとってはベストな選択肢かもしれません。またトレッキングポール で楽しめる範囲内で雪山を楽んでいるというハイカーにとっても安全性を高めてくれる道具といえます。
非常にニッチな道具ですので誰にでもオススメするわけではありません。雪山においてはピッケルの操作を理解し訓練することがやはり基本であることは間違いありません。しかし登山のはじめ方や歩き方、楽しみ方が多様化している現在においては、このようなニッチな道具をエキスパート向けと限定するだけではなく、どのように活用できるか、様々な角度から考えてみたいのです。ハイカーにとって有効な使い方を見つけ出したいですね。