トータル重量は驚異の実測622g。日本が世界に誇るUltralightドームシェルター。ツェルト同様フロア生地を本体と同じにしたことで本体重量のさらなる軽量化に成功。ツェルトと見紛うコンパクトさと軽さを実現しています。これこそまさに自立式ツェルト。
仕様
- 重量
- 622g
本体 318g
ポール 287g
スタッフバッグ 17g
*ペグ、ガイラインは付属しません - サイズ
- 幅 100cm、奥行 210cm、高さ 105cm
- 素材
- 本体:10Dナイロンリップストップ透湿ポリウレタンコーティング
耐水圧 1,230mm/㎠(JIS L 1092 A)
透湿 367g/㎡/h (JIS L 1099 A-1)
ポール:アルミ合金中空ポール(7001-T6 φ7.5mm)
- 別売オプション
- クロスオーバードーム2G用フロントフライ(¥19,800)
実測622g
最もツェルトに近いドームシェルター
日本独自の進化形
日本の山岳環境に適した軽量テントとして開発された「ツェルト」。長きにわたり日本の岳人に愛されてきたツェルトは信頼と実績の日本独自のULシェルターです。そのツェルトを自立式にできないか、軽量化の過程で誰もが考える「自立式ツェルト」。それを最もツェルトによせたスタイルで製品化したのが2016年発売のHERITAGE クロスオーバードームです。ポール込で600g台の自立式ドームシェルターは世界的にみても破格の軽さです。
そのクロスオーバードームは2020年に本体素材を15デニールから10デニールに変更。施す防水透湿PUコーティングも見直すことで、耐水圧、透湿性、通気性、引裂強度、軽さ、全ての数値が向上しました。これがクロスオーバードームの第二世代モデル、クロスオーバードーム2Gとなります。
2Gで採用された10デニール素材
クロスオーバードーム2Gは本体素材の見直しで8%の軽量化を実現させています。2Gで採用された素材は日本製の10デニール高強度極薄素材です。素材を薄くすることで軽量化ははかれますが、効果はそれだけではありません。防水透湿PUコーティングの見直しにより耐水圧は第一世代モデルの約1.5倍、透湿性は約1.9倍となりました。この素材は織糸に特殊強力糸を使用することで、引裂強度が向上していることにも注目です。またシームテープは20mm幅から15mm幅に変更、このように使用素材を細部にわたって見直すことで上記のように8%の軽量化が実現しているのです。
なおシェルターの構造における変更点としては、入口逆側のベンチレーターの位置と仕様を換気効率向上のために見直しています。
このように透湿性、通気性をあげてはいますが、シングルウォールシェルターはその薄い生地で最低限の耐水圧を維持しなければなりません。こうした生地で狭い密閉空間を作るわけですから、酸欠には最大限の注意を払う必要があります。激しい降雨により生地表面が濡れそぼった状態になると生地の透湿性能が一気に失われます。どんな状況下でもベンチレーターによる換気には注意を払ってください。メーカーが内部での火器使用厳禁としているのはこうした事情によります。
ツェルトと自立式ツェルト
2000年代前半、1kg以下のシェルターというのはスタイルを問わずまだまだ稀有な存在でした。だからこそ当時のULハイキングコミニティーではタープが主流だったのです。ULの根幹をなすRay-Wayがビーク付タープを採用していただけでなく、現実的な問題としてタープを選択せざるをえなかったのです。一部マスプロメーカー(Outdoor Researchなど)からはフロアレスシェルターが発表されていましたが、それらの重量も1kg近くありました。そのため1,300g台という軽さを既に実現していた日本製山岳ドームテントから乗り換える決定打にはいたらなかったのです。当時のULハイカーが選択できる1kg以下のフロア付シェルターはTERRA NOVA レーザーフォトンくらいだったのです。
そんな時代背景のなか、日本のULハイキングシーンで注目を集めはじめたのが「自立式ツェルト」というカテゴリーでした。当時既に日本発のULシェルターである「ツェルト」の有効性はULハイカーにも理解されていましたが、更に熱望されたのが日本の狭い幕営地で有効な自立ドーム型というスタイルだったのです。これらはダブルウォールでもなく、防水透湿素材のシングルウォールでもありませんが、ツェルトでも必要最低限の降雨対策ができることがハイカーに周知されはじめると、こうした自立式ツェルトへの要望が高まったのです。アライテントの「ライズ1」は30年以上のロングセラーを誇るこのカテゴリーのパイオニアモデル。また2005年にはアウトドアショップODBOXとmont-bellとが共同開発した「ULドームシェルター」が発売されるなど日本独自のシェルターとして活況を呈しはじめます。
その後も素材開発の強みを活かしたモノづくりをするFinetrackがハイカーズデポと一緒に積極利用に適したサイズ感の「ツェルト2ロング」を2011年に発表したり、軽快登山を提唱する信州トレイルマウンテンがHERITAGEと開発した「ストックシェルター」が山岳レース愛好家の間で爆発的に支持されるなど、ツェルトとその派生スタイルは日本における超軽量シェルターの本流として定着してきました。こうしたツェルトと自立式ツェルトの文脈において、2016年の発表以来、「軽さ」という点で圧倒的な強みを発揮している自立式ツェルトがHERITAGEのクロスオーバードームシリーズなのです。
その軽さの秘訣
クロスオーバードーム最大の特徴は自立ドーム式とは思えないその軽さ。本体だけならツェルトと遜色ない400gアンダーを実現しています。素材はクロスオーバードーム2Gでは透湿防水コーティングを施した10デニールナイロンを採用しています。主要縫製ラインにはシーム処理がほどされているにも関わらず、なぜこれほど軽いのか。その秘密は「フロア生地の選択」にあります。フロア付シェルターでは底部からの水の浸入を防ぐため、しっかりと防水処理が施された厚手生地でバスタブフロアを構築することが重要とされてきました。しかし2010年代にはいると、欧米の主要メーカーがシェルターの軽量化を推し進める中でフロア生地をどんどん薄くする方向に向かったのです。シェルターのようなサイズ感の道具になると、使用される生地重量というのは想像以上です。これで大丈夫かと心配になるような極薄フロアのシェルターも発表されていますが、クロスオーバードームもシェルターの軽量化という文脈においてはこの流れに位置づけられます。
クロスオーバードームの軽さの秘訣は本体と同じ生地をフロア生地に採用していることにあります。まさにツェルトと同じです。ツェルトは壁面からフロアまでが一連の生地で構成されています。フロアだからといって特別な生地あつらえをしているわけではありません。クロスオーバードームはこのようにツェルトと同じ構造を採用しているから、ツェルト並みの軽量化が実現できているのです。
なお、主要縫製ラインはシーム処理され、フロア構造もバスタブ式です。フロア生地は薄いものの漏水に対する必要最低限の対策はなされています。
使い手自らの工夫が求められるULギア
メーカーホームページでも注意書きがなされていますが、この製品は日本市場でいういわゆる「テント」とは異なるコンセプトで企画製作されています。生地耐水圧は1,000mmですので、フロアに圧力がかかれば浸水の可能性は否定できません。設営後にペグ等でしっかり固定し、適切にテンションをかけなければ生地からの漏水もありえます。また結露は避けようのない事実としてユーザーにつきつけられます。しかし「自立式としては圧倒的に軽い」のです。軽さのためにトレードオフしたものがたくさんあります。これはまぎれもなくULギアの発想です。道具を軽くするために機能を削り、それを使い手自らの工夫で補う。自立式だからといって甘く見ていると火傷をします。これは自立型ドームテントだと思ってはいけないのです。まさに「自立型ツェルト」として捉えていただけるとその性格と特徴がはっきりするのです。