ツェルト再評価の契機となったモデルをHiker's Depot別注としてアレンジ(2011年発売当時)。全長を伸ばし、カラーも日本の伝統色「青朽葉」をイメージ。どんな自然にも溶け込む軽量テントへと進化。2020年からはHiker's Depot別注カラーの「赤朽葉」も新たに加わりました。
仕様
- 重量
- 336g
本体:331g
収納袋:5g - サイズ
- フロア:全長220 x 幅100cm
天井高:95cm
天頂部長さ:170cm - 素材
- 生地:15Dnlリップストップナイロン PU透湿コーティング
耐水圧:1,000mm
透湿性:8,000g/m2
カラー:赤朽葉(Aka-Kuchiba)*HD別注カラー
:青朽葉( Ao-Kuchiba)*現行レギュラーカラーのMoss
非常用具にULが息を吹き込んだ
はぶくものがない
軽量テントの一つの完成形
2016年の春、ツェルト2ロングがアップデートされました。当スタッフ長谷川の経験をフィードバックしアイデアとして取り入れられたサイドリフター位置のおかげで、張り出しに距離がなくてもツェルトにたるみが出にくくなっています。また通気口をカバーするビークのせいで、完全にオープンにならずタープとしての使用に不具合があった部分を、通気口自体を側面部に移す大胆なアイデアで、しっかりと広がるようになりました。その結果、ジッパーが最上部まで開くので、出入りがしやすくなっただけでなく、ダブルスライドジッパーを採用したことで、換気がしやすくなりました。
一段と使い勝手を増し、熟成されていく日本生まれの軽量テント「ツェルト」。今やULハイキングギアの定番であると同時に、どのシェルターにも脅かされない不動の地位を確立しています。
*2012年よりファイントラックのレギュラーラインナップになりました。扱っている商品は現行モデルMossカラーと同じものになりますが、当店では別注をした時と同じ名称とカラー名を使用してご案内しております。
「緊急使用」から「積極使用」へ
2000年代後半。ツェルトの認識に変化がうまれました。
日本登山界独自のデザインとして産みだされ、長きにわたって岳人に愛されてきたツェルト。緊急用としての理解が一般的ですが、冬季登山やスキーツアーで軽量化を志向する場合には雪洞とならぶ宿泊ギアとして位置づけらてきました。またアルパインクライミングにおい てはまさにビバークギアの定番です。軽量化を真摯に突き詰めねばならない状況下だけに、快適性とは相容れにくい部分もありますが、過酷な状況でも「耐え る」ことができるからこその選択です。このように緊急使用以外の歴史がもともとツェルトには備わっているのです。
【ツェルトがなぜ非常用と言われるのか】
テントの元祖と言われているのが『ウィンパー・テント』。テントを学ぶ上で欠かせない名前です。そのテントは 三角柱を横に倒したような形で、今のツェルト に継承されているように、A型や三角テントと呼ばれるものに変化していきました。しかしウィンパー・テントはフレームを入れて立てるため重かったのです。 あまり有名ではありませんが、今のツェルトのようにポールを両側一本ずつ使いテンションをかけることで立てられるようにしたものは『ママリー・テント』で した。形は三角柱を横にした側面を引っ張ることで家型の様な形になっています。またママリー・テントは当時ウィンパー・テントの標準的な重さ約11kgよ り8割以下の重さしかない、1.6kg、という軽さとコンパクトさも実現しました。しかしウィンパー・テントはシンプルな形だけに風を受け流す形で耐風性 も強かったのですが、家型のママリー・テントは風を受けやすい形になってしまいました。
ウィンパー・テントの耐風性のあるシンプルな形に、ママリー・テントの軽量コンパクトさとフレームを使わず前後二本のポールで立てる方式を組み合わせたものがツェルトなのです。ツェルトはこうして非自立式の軽量テントの代名詞になりました。
その軽さとコンパクトさから、荷物の軽量化にも役立つし、軽くコンパクトだからこそ非常用に持っていくことも できると言われていました。しかし自立式テントの台頭により、その『軽くコンパクトだからこそ非常用に持っていくこともできる』の部分だけが残り、いつの 間にか非常用としての認識になっていってしまったのです。
しかし、歴史を振り返り、今以上に過酷で設備のない時代にも使われてきているからこその信頼もできると思います。そして、ツェルトは非常用シェルターではなく、非自立式テントと言うことができるのです。
徐々に高まるツェルトの積極的使用の動きを更に加速させたのが、2000年代のトレイルランニングシーン。日帰りで走るのに飽き足らず、泊まりながら走ることで長く山を旅をしたい。そんな彼らが宿泊ギアとして選んだのがツェルトだったのです。特に2年に一度、富山湾から駿河湾までを踏破するプライベートレース、Trans Japan Alps Race(TJAR)参加者のほとんどはツェルトを選択します(2012時点)。日本アルプスを舞台としたこのレースでの使用は、より多くのトレイルラン ナー&ハイカーのツェルトへの評価を変えさせました。緊急使用だけでなく、積極使用へ。そしてツェルトは日本独自のウルトラライトシェルターとして、ハイカーの間でも定着しつつあります。
ツェルトⅡロングの特色
世界的にも稀な軽量シェルターといえるツェルトですが、製品的には後発メーカーであるFinetrackのツェルトがバックカントリースキーや沢登りのシーンで高い評価を得るようになりました。メーカー自身が「積極使用」をうたっているモデルです。当店HPでもツェルトII(2015年で販売終了)について詳しく述べています。
1. 透湿性の高い生地
最大のストロングポイント。数値データ以上に、多くのユーザーの使用実感が口コミでひろまりました。ただし結露が少ないのであり、決してゼロではない点に注意。
結露を減らす為にできるコツを紹介します。ツェルト内で活動する時間帯は体からの放湿も多くなります。できる限り通気を良くして湿度が抜けるように工夫します。その時に意識するのは高低差と大小差です。空気は暖かい空気と冷たい空気が循環しやすいように上から下へ流すこと。また大きいところから小さいところへと流れやすいので、入り口は大きく開け、反対側の下部を小さく開けます。そうする事で効率よく空気を流し、湿気を出せます。これも両側が開くツェルトIIロングならではです。(ツェルトI は片側のみ)
もう一つはフロアに防水性のシートを敷くことです。透湿性はできる限りない方が良いです。なぜかというと地面は非常に湿気を含んでいます。そこにテントを立てておくとテント内部の温度上昇にともなって地面からの湿気が室内に上がってきます。これが日が落ちて気温が下がると結露の原因の一つになります。ですので地面からの湿気をシャットアウトするためにも防水シートが良いのです。これもツェルトが密閉されているから有効な方法で、極力室内の湿度を抑えることができます。タープは密閉されていないので地面や空気中の水分が結露するのを防ぎきれないのでツェルトよりも結露が起こりやすいです。軽量なものであれば、SOLヒートシートエマージェンシーブランケット(1人用)またはヒートシートサバイバルブランケット(2人用)を使うと良いでしょう。
2. ダイニーマテープ
リッジライン(天井)と入口両側には強度に優れるダイニーマテープが縫い込まれており、設営時のテンションがだしやすくなっています。それがツェルトの「張り」をうみ、生地の撥水性を最大限に活かすこ とにつながるのです。また負荷の多くはダイニーマテープにかかるため、生地そのものへの負担が軽減されるのも大きなポイント。最大限テンションをかける事 でカテナリーカーブで縫われていなくても、自然なカテナリーカーブが生まれ、耐風性も向上します。意識的にやや上方向へも引っ張る事でAラインにもテンションがかかり、より安定性が増します。
3. サイドリフター
本体両側面についているサ イドリフターを使い外側に引っ張ることが可能です。天井高が少し下がりますが、内部を横方向に広がりを出すことができます。積極使用において有効な機能のひとつです。2016年のモデルアップデートから、サイドリフターの位置が中心からやや下になったことで、遠くに張り出さなくても、上下均等にテンションがかけやすくなりました。
引っ張り具合ですが、天井高が下がらない程度に少しだけ引っ張るのがコツです。あえて本体ループとコードの中間に髪ゴムくらいの柔らかく伸縮性のあるゴムを入れると、引っ張りすぎることもなくなりますし、夜露で幕が湿ってたるんだ時にも、サイドの引っ張り具合を適度に調整することができます。
*『オススメしない』サイドリフターの引っ張り過ぎ
下の写真ではあえて意識的に強く引いています。体積は変わらないので、横方向に広がった分、縦方向には大きく沈んでいるのがわかります。実際にはここまで強く引かないほうが良いでしょう。サイドリフターの付け根がツェルト底面のサイドラインを超えない程度に軽く引っ張るくらいで十分だと思います。その場合、テンションが強くないので風で揺れたりしやすいですが、天井が下がり過ぎず、かつ横方向にもゆとりを取る事ができます。
サイドリフターを引くことで横方向に大きく広がり居住性は向上します。しかし以下写真のように、強く引き過ぎた結果、天井高が5センチくらい下がるので縦方向は圧迫感が増します。経験は必要ですが、適当な引っ張り感を自分なりに探してみて下さい。
4. ジッパー
ツェルトⅡロングは前後ともにジッパーを設け、出入りができるように作られています。これは換気の面でも設営方法のバリエーションの面でも効果的です。設営のバリエーションについては別項目にて説明します。
*換気のコツ
ツェルト内で活動する時間帯は体からの放湿も多くなります。できる限り通気を良くして湿度が抜けるように工夫します。その時に意識するのは高低差と大小差です。空気は暖かい空気と冷たい空気が循環しやすいように上から下へ流すこと。また大きいところから小さいところへと流れやすいので、上部入り口は大きく開け、反対側の下部を小さく開けます。そうする事で効率よく空気を流し、湿気を出せます。これも両側が開くツェルトIIロングならではです。(ツェルトI は片側のみ)
5. フロア
ツェルト2はフロア部分に付いている「ヒモと輪」を結ぶ事で「床」を作る事ができます。スタンダードに使う場 合は、このフロアを作っている(結んでいる)状態で立てると簡単かつ綺麗に立てやすいです。また、フロアは結びをほどく事で簡単に「土間」を作る事ができ ます。そうする事で、全室の無いシングルウォールのシェルターでも炊事スペースや玄関を簡単に作り出せます。雨の時は積極的に床を開くことで、出入りの際にテント内部が濡れるのを防ぎます。
更なる積極使用へ ハイカーズデポ別注*(2011〜12年当時)ツェルト2ロング
ドイツ語である”Zelt”。日本では緊急用のシェルターとして認識されていますが、本来の言葉の意味は”テント”です。
更なる積極使用へ、考えていきました。
現時点で十分に高い機能性のツェルトⅡロング。ツェルトは道具としてすでに高い完成度を誇っています。そのため下手に手をいれると全体のバランスやメリットが逆に損なわれてしまいます。旧ツェルトII でもPCT(Pacific Crest Trail)スルーハイク、5ヶ月間の連続使用で、全くトラブルはありませんでした。これも高い信頼の証でしょう。しかしだからこそ気がついた改善点もあるのです。ジャパニーズスタイルのULテントとしてより積極的な使用をするためにはあと少し高い居住性がほしい。それを目指してささやかな変更を加えました。
1. 全長220cmロングサイズ
最大の変更点にして、使い勝手を向上させるポイント。ツェルトの多くは非常用としてデザインされていたため最小寸法で設計されていることが多いようです。全長は200cm前後。これではスリーピングバッグの頭や足がツェルトに大きく接してしまい結露の影響をうけてしまいます。またFinetrackのツェルトは前後の入口が内側に傾斜しているため内部では数値よりも前後の短さを感じてしまうのです。(スタッフ長谷川やお客様がJMTやPCTでツェルトⅡ(旧モデル)を使用した際、アメリカ人ハイカーから様々な質問を受けたそうです。重量、スタイル等には非常に関心をしめすようですが、やはりサイズは非常に小さく感じるようです。シェルターの全長を再考するきっかけとも言えます。横方向の広がりはサイドリフターで解消できますが、前後についてはやはり全長を伸ばすのが積極利用にはベストな選択でしょう。
たかが20cm、されど20cm。初期サンプルは従来カラーで製作したためパッと見ではわかりにくそうに思いましたが、実地テストの際にはテントサイトで一緒になった方から「これ長くないですか?」という質問をうけたほどです。設営&使用してみるとこの20cmの差がいかに大きいか実感できると思います。
今でこそ“ロング”しかなくなってしまいましたが、旧モデルのツェルトIIを使ったことがある人ほど、見るだけでその長さの違いがわかることでしょう。サイドリフターを張らなくても、十分な高さと奥行きがある為、居住性が高いです。
*モデル身長 165cm
2. 日本の自然からうまれた伝統色「青朽葉」
ツェルトのカラーはオレンジやイエロー、鮮やかなグリーンが一般的。緊急用としての用途を考えれば遠目に映えるエマー ジェンシーカラーをその色に選ぶのはもっともです。しかしテントとしての積極使用を考えると他のカラーが欲しいところです。またエマージェンシーカラーの内部にいると明るいのは良いのですが、目が疲れるという意見も耳にします。疲れたことはないですが。
「自然に溶こむようなステルスカラーのツェルトならば使ってみたい」
そう思っているハイカー、実は多いのではないでしょうか。
そこで、日本のULテントということから、日本の伝統色のカラーを選びました。イチョウなどの黄葉が枯れ落ちた色を「朽葉」といいますが、その派生色として青みの残る落ち葉を模した緑色系統の色を「青朽葉」とよびます。その青朽葉に近い色になるよう生地を染めてみました。
緑色でもあり、黄色でもあり、茶色でもある自然の中間色。
実際の仕上がりはやや緑が強めに出てしまいましたが、良い色になっています。実際、陽の当たりかたや角度で色の印象が変わるとのご意見を多くいただいています。見た目が落ち着いているだけでなく、内部にいても落ち着けるのではないでしょうか。
*2011年発売当時ハイカーズデポ別注時代に上記のカラー表記でした。説明文は残させていただいておりますが、現行ではMOSS(モス)というカラー名になっています。青朽葉とモスは同じ色となります。ご了承下さいませ。
*張り綱、ペグ等の付属品はついておりません。別売りにてご用意しております。
より積極的な使用のため、軽さを捨てることなく居住性をあげることを目指した、ハイカーズデポ別注から始まったツェルトIIロング。2012年からはFinetrackのレギュラーラインアップに並びました。
日本の山々を愛するハイカー、世界のトレイルに挑むハイカーにこそ手に取っていただきたい日本のウルトラライトテントです。
張り方のバリエーション
スタンダードな張り方
(1)床面を全て結んで閉じた状態にし、まず床面の四隅をしっかりと引っ張り四辺に張りをかけます
(2)天頂部を立ち上げます。その時に天頂部とAラインに張りがかかるように、やや斜め上を意識します。これで最低限立たせて、室内で寝ることができます
(3)さらに安定させるには、長辺の中央部を固定します。床が浮き上がらなくなり、全体に張りがかかりやすくなります
(4)必要に応じてサイドリフターを使用して下さい
*ツェルトを張る際のチェックポイントを図にしました。以下、画像をクリックしてください。
用途に応じて張り替えられるのがツェルトの面白い所です。以下でバリエーションを紹介します。
1. 小屋がけ
まず、ツェルトポールやトレッキングポールを使わなくても張る方法は立木を利用したものです。”小屋がけ”とも言われ、立木から立木へロープを渡 し、そこに被せるようにツェルトを掛けてから、ステイクもしくは石で固定し張ります。下の写真ではツェルトにあらかじめ付けてある張り綱を利用し木に結び ました。この張り方はポールを利用する際でも用いることができます。タープと同じ張り方で、先に主となる天頂部を張り、その後広げていきます。ですので、 張り始める時に高さに注意をして下さい。後からでも微調整は行えますが、高さが足りない場合はAラインに十分なテンションがかかりにくくなります。長さ調 整が可能なトレッキングポールを使う場合は後から微調整をして張りを出して下さい。
2. タープ(ウィング)
一番イメージしやすいのは床を全部開いた状態で立ててタープとして使う方法です。もちろんそれでも良いのですが、せっかく床を開いたのでそれをスカートに見立てて、こんな張り方もできます。
写真の状態だと通常より15センチ強高さが上がっています。一見大した違いには見えないかもしれませんがこうすることで内部空間が大きく広がり、サ イドリフター無しでも十分なスペースを確保できます。また、タープのように完全に上げないことで、フロアレスシェルターの様な使い方ができます。大きく横に張り出したフロア部分は風を逃がしたり、跳ね上がった雨が入るのを防いでくれます。写真では仮に、木の枝と石だけで固定していますが、風には弱い状態で す。実際にはもっと石を積んだりして固定して下さい。またフロアに付いている、“フロアを閉じるためのヒモと輪”を引いて固定することも可能ですが、他の部位と違い、強い強度がかかることを想定した縫製ではありません。破れることもありますのでご注意下さい。
内部は成人男性二人が十分に横になることができるほどのスペースが確保できます。ツェルトIIロングは軽くて良いけど、二人で使えないと思っていた方も、通常の使い方ではないですが、このようにして楽しむこともできるのです。床面は別途シート等を使用しても良いと思います。
シームシーリングについて
*ツェルトの防水性を担保するためには、シームシーリングが絶対の条件です!
テント全般において縫い目の目止め“シームシーリング”は重要な作業です。最近では多くの自立式テントでシームテープによるシームシーリングがされているものが多いですが、以前はテントのシームシーリングも自分でやるものでした。ダブルウォールの場合はバスタブとフライシートがシームシーリングの対象になり、シングルウォールテントは全体がシームシーリングの対象です。
ツェルトも非自立のシングルウォールということで、全てがシームシーリングの対象にはなりますが、要所を抑えて無駄なく、最低限にした方が手間も減らせるでしょう。ツェルトを使ってきた経験に基づいて重要度順に記載しますが、本当はこの3部分は全部やった方が良いと思います。
1、天頂部(リッジライン)とセンターラインループの付け根周辺
2、サイドリフター周辺
3、入口の部分をまとめておくためのヒモの付け根
1のリッジラインは雨が強いとかなり浸水の可能性が高いです。特にテンションをかけてはりますので、リッジラインに自然なカーブが生まれます。そして雨で濡れた縫い糸を伝って中央部に集まり、雨漏りをします。ですので、センターラインのループの付け根からリッジラインにかけてはしっかりと入念にシームシーリングをした方が良いでしょう。2のサイドリフター周辺も雨漏りしやすい箇所です。折り返しもなく、縫い糸がシンプルに貫通しているからです。万が一漏れても内壁を伝うので気にならない人もいるでしょうが、床にどんどん水が溜まっていくことにもなるので、シームシーリングしたいところです。3は想像しにくいところですが、実際に使うとかなり雨漏りが激しい箇所の一つです。なぜかというとツェルト両側にあるAのリッジラインは角度がきついので、縫い糸を通して一気に下まで流れて行こうとします。なにもなければシームシーリングが不要なのですが、ヒモがあり表裏にしっかりと貫通して縫われています。ですのでそこに水の流れが逃げてしまうわけです。ですが、その付け根周辺を水が染み込まないようにしてあげることで中に水が伝うのを防ぐわけです。
・シームシール剤、シームシーリングする側、塗り方について
ウレタン系のシームシーリング剤「Gear Aid シームグリップ」や類似のシームシール剤「アライテント シームコート」などを使用してシームシーリング処理をします。
メーカーによっては表側からの処理を勧めているところもありますが、それは有機溶剤を使っているからかもしれません。しかし、裏側から塗った方が良いです。それは単に見た目の問題ではありません。たいていのテントの生地は撥水処理をしてあります。いつかは効かなくなってしまう撥水ですが、シームシーリングを塗るタイミングの多くは買って直ぐだと思いますので撥水効果が一番効いているときです。そうすると、しっかりとシームシール剤が乗らなかったり染み込まないのです。実際に僕はツェルトの表に塗ったところ数年で剥がれてきました。ですので、裏側に塗ります。時間はかかりますが、しっかりと乾燥させれば溶剤も揮発します。それにもう簡単には剥がれません。
塗るのは「少しずつ、丁寧に」がポイントです。一気にやってしまいたくなりますが、そうすると大抵綺麗にはできません。特に家庭内でこんなに場所のとる作業をできる人も限られるでしょう。ですので、僕の場合はリッジラインを塗るだけでも二日間かけることもあります。テントをきれいに畳んで、塗りたい部分だけを出して処理をするわけです。面倒に感じますが、一回の時間が少ないので疲れませんし、集中力も続きます。
僕のパターンは、夜のうちにシームシール剤を塗る(30分くらい)。そのまま放置して朝。だいたい乾燥して他には付かなくなるので場所を移動して乾燥を続ける。仕事に行く。帰宅後次の箇所を塗る。それの繰り返しです。確かに日数はかかりますが、1日の作業自体が短くて済むので飽きませんし、辛くなることもありません。また雑な作業にもなりにくいので綺麗に仕上げられます。
待てない人は、上手に広げてやってください。
塗るために必要な道具ですが、Gear Aid シームグリップを買った場合は付属のハケで少しずつ塗って行くのが良いでしょう。裏書の説明書きはあまり鵜呑みにしないことをお勧めします。もしくは市販の接着剤を買うと付いている「ヘラ」を使ってもよいでしょう。こっちの方が僕は使いやすいので、最近ではもっぱらこれを使っています。もし身近になければ、使い捨てのプラスチックのナイフでも良いですし、ステンレス製のバターナイフも良いかもしれません。ポイントは幅があって濡れることと角が尖っている部分があることです。
塗る量ですが、厚塗りは不要です。それよりも薄めにしっかりと伸ばしながら塗るのがよいです。少しシームシール剤をヘラかハケに付けるかシームシーリング箇所に乗せて少しずつ塗って広げていきます。ちょっと足りないと思ったら足します。後からでも足せますがいっぺんにやった方が綺麗に仕上がります。最初はヘラなどの引いた後がありますが、粘性が残っている間にきれいに広がって平らになります。
あとは、案ずるより産むがやすし、でチャレンジあるのみです。
・補足説明
薄め剤はお勧めしません!十分に塗りやすいです。それにこれ以上薄めると乾燥した時にシーム剤が痩せたり、垂れて汚くなる可能性も増えます。
シームテープは数年で劣化が起こり、剥がれたり割れたりします。そのテープを新しく貼ることは非常に難しく、できたとしても同じような防水性は確保できません。本体は問題なくても先にシームテープが劣化してしまうことからも、メーカーによっては今後シームテープを再びやめるところも増えてくるかもしれません。それにシームテープが最初からしてあることはサービスではあるもののテントの価格にしっかりと含まれていることも忘れてはいけません。
それに対してウレタン系のシームシール剤は一度塗れば半永久的に剥がれることはありません(*使用場所・方法や保管状況により異なります)。また多少劣化したり削れることはあるかもしれませんが、上塗りもできますので簡単に補修できます。最初の手間はどうしてもかかりますが、あとあと面倒がなかったり、長旅の途中で劣化したりする不安も少ないので、個人的にはシームシール剤でのシームシーリングの方が安心できます。
シルナイロン製のシェルターの場合は「Gear Aid シルネット」を使用しますが、シームシーリングが必要のない場合もあります。全てに当てはまるわけではありませんが、シリコン含有の生地全体が撥水するため、縫い目を通しても浸水が少ないように思います。ですが、生地をまとめておくヒモの付け根付近は漏れが激しい可能性があるので必要に応じて行ってください。シルネットはシームグリップよりも粘性が高いですが、滑りやすいシルナイロンに固着させるためには必要です。丁寧に引き伸ばして塗ってください。薄め液はお勧めしません。
必要なロープとペグについて
ツェルトを含めたウルトラライトギアの特徴としてシンプルという部分があります。シンプルなものだけに、簡単、便利、とはなかなかいかないもので、十人十色の使い方があります。汎用性の高さは熟達度によって大きく左右されますので、初めから何でもできる組み合わせはありません。また使いやすさは個人の感覚により異なるため、これといった決まった使い方があるわけではありません。ですので、参考までに以下をお読み下さい。これは私達の経験において使用してきたことを前提にご提案させて頂いております。それを踏まえ試行錯誤しながら自分の使いやすい組み合わせを考えて頂ければより楽しみも増すと思います。
【必要な数量について】
1、ロープ(張り綱) 最低限12m~ 自然物を最大限利用15m~
・支柱(ポール&木)とからめて設営するためのセンターのメインロープ(各1本ずつ) 2.5m×2本(5m)
・広い面のサイドリフターを引っ張りだすためのロープ 2m×2本
・床面四隅と床長辺中央を石などで固定するためのロープ(そのまま、もしくはループにして使用)50cm×6本(3m)もしくは 1m×6(6m)
自然物を利用する方がロープの長さを必要とします。だからといって長いままでは使い勝手が悪いので、継ぎ足すなりして工夫することも重要です。紹介したロープの長さは私達の経験においてのものです。あくまで目安としてお考え下さい。
2、ペグ 6~10本
フロア四隅(4本)とセンターガイラインの固定(各1本ずつ)分の6本が最低本数。全て固定する場合は10本。センターロープを前後2股で固定するなら更に2本を追加。ペグは異なるものを2種類か3種類持っていると、様々な状況にも対応しやすくなると思います。もちろんペグを使用せず石等で固定しても設営できるため、この本数は絶対ではありません。ペグを刺して抜いた穴に枝を差し込んでペグ代わりにする方法もあります。
3、ラインロック(自在) 2個
これは必要ではない道具です。しかし、センターロープの長さ調整にはあると便利です。道具を用いると一定の使い方は簡便になりますが、結びで対応できる方がどんな状況にも合わせて使えます。