Lone Peak 7[mens]

北米における現代ハイキングを象徴するシューズ。第七世代にあたる今作では完成度のさらなる追求を推し進めている。踵まわりの安定感を軸に「ハイキングスタンダード」へ革新的な変化を感じるモデル

仕様

重量
528g / 8.5インチ ペア 
アッパー
Quick-Dry Air Mesh
ミッドソール
Altra EGO™ foam
(Cushion: Moderate)
アウトソール
MaxTrac™ Rubber
ソールの高さ/ドロップ差
高さ:25 mm
ドロップ:0mm
カラー
Deep Forest
Taupe

ALTRAのフラッグシップ
いまやハイカーのスタンダード
クッション+ダイレクト+スタビリティ
完成形への大きな一歩

Deep Forest
Taupe

ブランド誕生の地、ユタ州の山から命名されたLone Peak(ローンピーク)は2011年のALTRA(アルトラ)誕生と同時に産まれたモデル。同ブランドのトレイルランニングカテゴリーにおけるスタンダードであると同時にフラッグシップといえるモデルです。inov8 や new balanceといった先行ブランドで謳われてきた低いドロップ差やフォアフットといったスタイルを加速度的にシーンに定着させた立役者が アルトラです。いまや北米のハイカーやトレイルランナーにとってスタンダートとなったローンピークは、2010年代から2020年代にかけてのハイキング&トレイルランニングを象徴するシューズです。

ローンピーク7の概要

進化を続けるローンピーク。そのバージョン7は、評価の高いLone Peak 6から、見た目には小さく、しかし大きな変化を遂げています。本国公式HPの商品説明には、“The legend has evolved. ”と書かれています。日本代理店HPの商品紹介には、“そのローンピークの特性は維持しつつ、耐久性やグリップ力、快適性を向上させています”、とあります。それはどういうことなのか、見ていきましょう。

まず今回の特徴として挙げられるのは、アッパーをできるだけシームレスにしたことです。バージョン4から続く柔らかく通気性の高いメッシュ素材は、この度5年ぶりに変更。見たところこれまでと同じ生地のようですが、格子のリップストップからダイヤモンドリップストップ(X状に交差したもの)に変わりました。従来のものは、第三世代までに指摘されることが多かったアッパー生地の耐久性不足といった問題を一気に解消しただけでなく、ゴミや砂の入りにくさと高い通気性、水抜けや乾燥性の高さを持った優れた素材でした。50kmほどのテストにおいては機能的には同様だと思います。少しリップストップが小さくなっていますので、若干の耐久性向上と言えるでしょう。
広々としたトゥーボックス。前後の反りがおさえられたフラットな履き心地と高いクッション性、地面へのダイレクト感と素早い反応、これらが高いレベルで融合したミッドソール「Altra EGO™ foam」がローンピーク7でも最も魅力的な特徴といえるでしょう。
小さくなったり大きくなったりした、通気と水抜きのためのドレインホール(トゥーガード周りに空いていた穴)は、完全になくなりました。初代は無く、アッパー生地の通気性も水抜けも良い今にあっては、かえってドレインホールが付いていることで、水や砂が不意に入ることが無くなるほうが良いという判断なのだと思います。

変化の中で注目したいのは、履いた時に感じる安定感です。これは、ローンピーク5から6に変わった時も同様の感想でした。ローンピーク6で変わったのは側面にある物理的な補強でした。しかしローンピーク6の補強では不足だったのでしょう。
ローンピーク7ではこの物理的補強を強化してきました。ヒールを巻き込むように付いた樹脂の補強だけでなく、ミッドソールの形状を変化させることで安定性を出してきているあたりにローンピークを常に進化させてきた経験蓄積を感じます。(詳細は『スタビリティ(安定性)』の項目)
たしかにこれまでのローンピークはヒールカップ周りの柔らかい履き心地が特徴のひとつでした。モカシンシューズのようなナチュラルな履き心地と説明したこともありました。しかし山道のトラバース時などでは、シューズ内部で足がずれてしまう、回ってしまう、ということも指摘されていました。今回の補強により、シューズ内での足の安定性が高まり、足のぶれが抑えられ、歩行を助けてくれるようになりました。

フラット感・ダイレクト感の第一世代(1.0、1.5)、広々としたトゥーボックスの第二世代(2.0、2.5)以降、クッション性と剛性感の第三世代(3.0、3.5)、そして第四世代は第一世代を彷彿とさせながら、全ての世代の特徴を融合させようとした挑戦的なシューズでした。4.5で見えた完成形への道筋を、第五、第六世代で意欲的に全世代の特徴を高レベルで融合し、長距離ハイキングに適した進化を感じとることできました。第七世代でも、細部へのこだわりを付加して、ソフトでありながら安定性を求めた進化を続けています。

各部の詳細

アッパー上部

アルトラオリジナルであり、見た目でわかる大きな特徴がFoot Shape™(フットシェイプ)。指先をリラックスさせ、かつそれぞれの指にしっかりと力を込めて大地を踏む感覚を引き出してくれる幅広のトゥーボックス。裸足で生活し、山野を移動する先住民族の足はそのほとんどが指先が大きく開き幅広の足となっています。人間本来の力で歩くならば、こうした型が理想的だとの考えから、足を締め付けない自由な足型はローンピークに限らずアルトラの大きな特徴になっています。甲周りに補強がしっかりと入り、変わらずの足の自由度とおさまりの良さは継続しています。
これまでと比べ、かなり意識的にメッシュを増やした印象です。アッパーのメッシュ素材は第四世代から第六世代まで続いてきたものを変更しました。格子のリップストップからX柄のダイアモンドリップストップへの変更です。見た目に基本的には同様の素材のようです。テストの結果からも見た目以外での差はまだ感じられていません。摩擦への耐久性と高い通気性がありながら、砂などが入りにくいものです。素材の定番化は安心材料のひとつです。第四世代になるまで課題だらけのアッパー生地でしたので、あえて基本素材そのものは変えてきていないと考える方が妥当です。
シームレスを意識したことからか、トゥーガードはローンピーク6と比べ、柔らかいものになりました。5、6の硬さは「長距離」というコンセプトを考えても、全体のバランスが良かっただけに、少し残念ではありますが、クッション材とコーティング補強でどの程度の調和が取れているのかは、引き続きテストが必要です。甲周りの作りは、大まかなデザインとしては引き継がれているもので、物理的に縫っていないということは大きい変化です。フィット感が高く、歩行時の安定感に良い影響をあたえています。
使われているメッシュ素材は、通気性が高く速乾性にも優れますが、「すぐに濡れる」「足が冷える」といったデメリットも生じます。メリットとデメリットは表裏一体ともいえるのですが、このメッシュ素材の乾きやすさという点を長距離ハイカーの多くが高く評価しています。特徴がはっきりしているシューズは、最適な履き方、使い方をしっかりと探せるものです。

アウトソール

MaxTrac™ Rubberといったオリジナルのラバー素材となっています。ローンピーク6まではオリジナルソールパターンを「TrailClaw™」とうたっていましたが、今回はないようです。
基本的なブロック形状は同様ですが、特徴的な矢印形状を前後に配したものになっています。また、足の骨から考えても負荷の大きい親指部分とかかとの外側には引っ掛かりを作り出す形状が追加になりました。ゼロドロップ、フォアフットを推進してきたアルトラです。要は、足全体を使っての歩きや走りを重視すれば、ヒールストライクや親指での蹴り出しは不要なはずです。しかし、歩く動きは骨格や動きの上では100%ヒールストライクをゼロにすることは難しいですし、不意にヒールから降りてしまう時や親指で踏ん張る時のことを考えたのかもしれません。今まで以上に、多用途に、地形や動きに対応する形状に変わっているといえます。ハイカーズデポの主観的な評価ではありますが、全モデルを見続けてきた意見として、ローンピークのトラクションは安心できるものといえるでしょう。またロッカーが強すぎないフラットなことも歴代ローンピークで継承されてきた特徴のひとつです。

ミッドソール

アルトラオリジナルのミッドソール「Altra EGO™ foam」は重要な地面へのダイレクト感にくわえ、高い衝撃吸収性を併せ持っています。変わっていないはずのミッドソールですが、後述『スタビリティ(安定性)』での理由もあってか、このところ続いていた柔らかさを感じにくいです。吸収性とダイレクト感のどちらかだけではなく、カチッとしている、リジッド感を感じます。今までのローンピークには無いミッドソールの感覚です。しかし、硬い地面と柔らかい地面を歩きわけると、従来はそれぞれの地面での違いを感じていましたが、どちらかといえば今作は、どこでも同じような感触で歩ける、という表現なのかもしれません。多種多様な地面を歩くことになる長距離ハイカーにとって、それぞれの場所で違う機能、柔らかい地面ではしっかりと硬い地面ではやんわりと、というのが良いでしょう。そうなっているはずなのです。テストしていても、ミッドソールの変化を見ていても、ちゃんと吸収してくれています。しかし、歩き心地は同じよう。これはある意味、今まで以上に、長い距離を安定して歩けると思います。より早くではなく、より長く歩き続ける、走り続けることを意図しているアルトラにとって、本来の目的に合致していると思います。

優れた速乾性と高い通気性を持ち合わせながらも、砂などが入りにくいのがこのアッパーの特徴です。トゥーボックスは指先の自由度を確保しつつ、甲周りに補強がしっかりと入り、特に内足側に大きな当てが入りました。これにより安定性が向上したように思います。第四世代以降に特徴的な補強コーティングから、第五、第六と物理的に当てをする補強する部分が増えています。

スタビリティ(安定性)

ローンピーク7で最も変化していているのが、中足部からかかと周りにかけてです。感心したのは、ひとつのパーツではなく、複合的にそれぞれの素材や配置しているところです。一度でもローンピークを履いたことがあるなら、安定性の違いはすぐに分かると思います。「かちっとしている」「しっかりしている」「硬い感じ」など人それぞれ表現は違うと思います。
まず分かりやすいところは、(1)かかと周りの樹脂パーツでしょう。ヒールカップの形状を保つのに役立ちますので、安定性の向上につながっているのは間違いないと思います。次に見るのは(2)ミッドソールを部分的に高くしているところです。外側と内側の両方とも高くなっています。この位置は足が横方向にずれる時、力がかかるところです。これがかなり効果的だと思います。そして何より面白いのは、(3)内側への切り込みです。この工夫はローンピーク5よりありましたが、均等な小さい切り込みが小指球から中足部にかけて、外側のみでした。クッショニングもですが、エッジ感にはひと役かっていました。しかし今回は中足部周辺のみの工夫です。そして深いです。下が広くなっているため、上から踏む力がかかった時に、その力が内側に入る手助けをしてくれます。要するに力が外に逃げにくく、内側に力がかかりやすいのです。そしてこれらが複合的に合わさって、このエッジ感、安定性を作っていると考えられます。
メッシュを意識的に増やしているのは、横から見た時も分かります。(4)ミッドソールのぎりぎりまでメッシュになっています。この部分は負荷が傷みやすい部分です。今まではコーティング補強が入っていましたが、なくなりました。これはメッシュ素材の耐久性への信頼とも取れるかもしれません。

①ドレインホール無し、②メッシュ部分の広さ、③中足部の補強と安定性の3点の変化ですが、実はこれが全て揃っているのは初代のみなのです。ある意味で今までの進化の形態は、最もアルトラの意思が詰め込まれている初代を、今の技術やこれまでの経験の蓄積で新たに作り替えたものとも言えるのだと感じています。

ローンピーク7気になる点は、、、

初代から全てのローンピークを履き込み、様々なトレイルを歩いてきたスタッフ長谷川が指摘するローンピークの欠点といえばヒールカップ内側の素材が弱いことです。100kmも使わないうちに、内側の生地に穴が開いてしまうこともありました。もちろんハイカーの歩き方使い方も大きく関わるので一概には言えませんが、ローンピークが好きだからこそ最も気になる点なのです。ローンピーク6もやはりヒールカップ内側の擦り切れは早かったそうです。もちろん履けないレベルではなく、ミッドソール部分が出てくるまで履いたようですので、数少ない気になる点と考えれば良いでしょう。その他に指摘される点としてはアウトソールの減りの早さもあげられますが、これはグリップ性能と引き換えという側面もあるので、評価は難しいところです。

今回どうしても評価し難いのは、シューレースの滑りの悪さです。ホールが小さいということではなく、ねばりつく感じがしますので、これも工夫の一つなのかもしれませんが、個人的には評価できません。軽く引こうと思っても引けない。少し強く引っ張ると引き過ぎる。微調整がし難い。シューレースは履いているうちに均等にならされて来てしまうので、キツく締めたつもりでも緩んできます。それを防いだり、部分的に締める強さを変えるための工夫かもしれませんが、現時点ではストレスしか感じません。今回ここだけは履きにくくなった点です。

今回は今までに無い変化がありました。ローンピーク6までは履き潰すまで履いても、予想の範囲内(良い靴)でした。しかし今回は、予想がしにくい未知数の変化があります。安定性の工夫についてもそうでしょう。確かに50kmテストでも良好の感触です。しかしながら、従来の柔らかさはある意味ローンピークらしさでもあったわけで、長期使用においてどのような変化がでるか分かりません。またアウトソールの変化も注目点です。簡単にいえば、ヒールストライクでも履ける靴へと変わっているとも言えるのです。この変化はおそらくローンピークの利用者が増えたからかも知れません。もしくは長距離ハイカーたちへのプレゼントかも知れません。しかしながら、言えるのは良いシューズだと言うことです。テストを担当したスタッフ長谷川は「もうローンピーク6には戻れないかも」とテスト後に語っていました。初代からランナーはもちろんのことスルーハイカーたちに人気ですし、これまでの変化の過程では着実に進化し続け、完成度を高めているシューズがローンピークなのです。

ローンピークの変遷

人間が本来もつ自然姿勢、自然な運動フォームに導くための「ゼロドロップ」はALTRAシューズに共通する最大の特色ですが、トレイルランニングシューズであるローンピークの個性は何なのか。それを理解するために6世代にわたるその歴史を紐解いてみましょう。

第一世代

・1.0【Origin】薄めでシンプルなソールユニット 柔らかいアッパー
・1.5【Tightly】薄めでシンプルなソールユニット タイトなアッパー

第二世代

・2.0【Wide】しっかりした厚みと広さをもつソールユニット 伸びの少ないアッパー
・2.5【Stretch】しっかりした厚みと広さをもつソールユニット ストレッチアッパー

第三世代

・3.0【Moderate】ロッカーと腰のあるソールユニット 適度なバランスのアッパー
・3.5【Durability】ロッカーと腰のあるソールユニット プロテクション重視のアッパー

第四世代

・4.0【Softy】腰がありフラットなソールユニット 柔らかく通気性高いアッパー
・4.5【Moderate】腰がありフラットなソールユニット 通気性高くバランスのとれたアッパー

第五世代

・5.0【Cushion】やわらかな接地感のソールユニット 通気性高くバランスのとれたアッパー

第六世代

  ・6【Stability】第五世代の完成度はそのままに、安定感という更なる強みが加わりました

第七世代

  ・7【fine tune】完成度のさらなる追求。踵まわりの安定感を軸に細部の微調整

ローンピークはALTRAにとって創業時から続くフラッグシップモデルのひとつですが、アンバサダーやカスタマーのフィードバックから実験的な改良を重ねてきました。そのため、各世代毎の個性が顕著なことが特徴でした。
ファーストモデル以降のローンピーク変遷を大枠でとらえると上記のようにハイカーズデポ では理解しています。第一世代から第二世代に至る過程はシューズトレンドが「マックスクッション」に傾倒するのと歩調をあわせています。その影響もあってか、第二世代以降、やや厚みのある柔らかいアッパーをもつ軽くフレキシブルなシューズになりました。
このようにローンピークは世代毎にソールとアッパーとのバランスが個性的なだけでなく、シリーズ全体を通じてソールの力強さに比べ、アッパーのおさえこみに物足りなさを感じる傾向がありました。ネイティブアメリカンのモカシンシューズを彷彿とさせるアッパーに頼らない構造はローンピークの特徴ともいえますが、使う人を選んでしまう、評価がおおきくわかれることも事実でした。こうした個性的なアッパーとソールのバランスが改善され、シューズとしての一体感を誰もが楽しめるようになったのが6年目の第三世代からと言えます。より良い可能性を模索した上で履き手を選ぶシューズから、長距離トレイルに代表される様々なコンディションに対応できるバランス感の良いシューズへ、そのひとつの方向性を指し示したのが第四世代です。第四世代は、ソールのフラット感は初代を彷彿とさせ、アッパーの雰囲気は第二世代を思い出す。そんな世代間融合をも感じさせるシューズでした。そして第五世代。世代間融合という方向性は第四世代と同じですが、オリジナルミッドソール「Altra EGO™ foam」により、第五世代ならではの接地感を手に入れました。この第五世代からはソールの特徴、アッパーの特徴という捉え方よりも、シューズ全体の完成度が一段階あがった感覚があります。第六世代は第五世代で手に入れたシューズとしてのトータルな完成度を継続的に発展させています。さらに「安定感」という強みが加えられました。

そして第七世代ではシューズとしての完成度を細部にわたってさらに追求しています。この細部の微調整とでもいえる方向性はしばらく替わらないのではないでしょうか。それだけALTRAとしてめざすべき完成形が近づいているのかもしれません。多くの方に足入れをおすすめできるハイキングシーン、トレイルランニングシーンのまさにスタンダードシューズです。

長距離ハイカー向けともいえる更なる進化
ローンピークからは目が離せません

(Taupeカラー 各部画像)