Mariposa 60 Backpack

ULバックパックメーカーの製品としてはじめてアルミフレームを搭載したモデルがGossamer Gear マリポサ。ウィークエンドハイキングに使えればよいとして過剰なまでの軽さに振り切る2000年代のトレンドに背を向け、あくまで長距離ハイキングでの使用のために作られた大型バックパック。20年にわたるULバックパックのロングセラー「マリポサ」が2024年にフルモデルチェンジ。従来から定評あるハーネス類のフィット感の高さはそのままに「腰荷重」を前提とした構造へと大きく舵をきりました。2020年代に入り、PCT、ATといった北米長距離トレイルにおいて腰荷重バックパックが再注目されている潮流と無関係ではないでしょう。
ロングディスタンスハイキングを支え続けたGossamer Gearの大黒柱。

仕様

重量:980g / Mサイズ(本体 535g、アルミフレーム 122g、パッド 65g、ヒップベルト 258g)

容量:60L

背面サイズ(適合身長):S(〜165cm)・M(160cm〜185cm)・L(180cm〜)

素材:100D & 210D Recycled Robic Nylon

色:Grey、Green、Tropic Mist

 

フレーム搭載ULバックパックの原点
容量、フィット感、荷重サポートの安心感
進化し続けるロングディスタンスバックパック

グレイ
グリーン
トロピックミスト

1998年に産声をあげたGossamer Gear(当時はGVP Gear)はULバックパックメーカーとして最古参のひとつであるパイオニアメーカーです。レイウェイバックパックの系譜を受け継ぐモデル、ひたすらに軽さに特化したモデル、ULバックパックメーカーとしてはじめてアルミフレームを搭載したモデル、と四半世紀を超える歴史の中でULバックパックのマイルストーンといえるモデルを世に出してきました。マリポサは、まさにその「ULバックパックメーカーとしてはじめてアルミフレームを搭載したモデル」なのです。衝撃的な発売から20年以上、北米のロングディスタンスハイカーを支え続けている代表モデルのひとつです。
アルミフレームとそれに接続したウエストハーネス、幅広く肉厚なショルダーハーネス、背中のカーブにフィットする背面。そのフィット感と適正な荷重サポート機能に加え、ベアキャニスターの搭載など携行食料や水が増量しても飲み込める安心の容量が大きな特徴です。そのマリポサが2024年、6回目のアップデートをむかえました。従来の肩甲骨から肩にかけての上半身荷重前提の構造から、腰荷重前提の構造へと大きく舵をきりました。マリポサは長きにわたりGossamer Gearのラインナップにおける最大容量クラスのバックパックです。完全腰荷重へのアップデートは60Lというその容量を活かすものだといえるでしょう。

 

現代のロングディスタンスハイカーのニーズ

ロングディスタンスハイキングにおけるバックパックの潮流
読み物
2024/07/21
ロングディスタンスハイキングにおけるバックパックの潮流
ロングハイクから産みおとされたULバックパック 1992年、レイ・ジャーディンが著した『PCT Hiker Handbook』により「ウルトラライトバックパック」はハイカーの前に姿を現しました。レイ・ウェイと呼ばれるそのシンプルかつ完成されたデザインはあらゆるULバックパックの原点とされています。この必要な要素以外を徹底的に省いたバックパックはPCT(パシフィック・クレスト・トレイル)などの長距離トレイルをスルーハイクするために生み出されました。当時は成功者が少なかったPCTのスルーハイク、その理由は25-35kg程度を担ぐことが一般的だったバックパッキングスタイルにあります。一週間程度ならば問題なくとも、その重量を半年担いで歩き続けると怪我をするハイカーが多かったのです。そこでバックパックその中身を軽量化してスルーハイク成功率をあげるためにうまれたのがレイ・ウェイバックパックなのです。ロングディスタンスハイキングを強く意識したバックパックの原点ともいえます。長期間長距離にわたるハイキングで体への負担を極力少なくするためにバックパックはもちろん、その中身に至るまで必要な要素のみに絞りこんだシンプルな方法論は2000年代にはいると「ウルトラライトハイキング」と呼ばれるようになります。  こうして産声をあげたULバックパックは1998年創業のGOLITEによりマスプロモデルとして市場流通するようになりました。また2000年代に入るとGranite Gearがヴァーガ、ヴェイパートレイルというバックパックを発表、AT(アパラチアントレイル)のTrail Daysでスルーハイカー向けのバックパック無償修理をおこなうなどロングディスタンスハイキングという文化に向き合うメーカーもでてきました。しかし北米のアウトドアシーン全体においてはニッチであることは変わりません。数千キロ、数ヶ月のハイキングをするハイカーなんで一握りという認識は日本もアメリカも変わりません。市場規模が小さいのですからマスプロメーカーは参入しないのです。結果、ロングハイキングシーンを支え、ハイカーから支持されていたのはマスプロではなく、小規模なコテージギアメーカーたちでした。 ロングハイクシーンから産み落とされた小規模コテージギアメーカーがつくるULバックパックは2000年代中頃においてその軽量化を先鋭化させます。使用シーンもウィークエンドの数泊というショートレンジハイキングに移り、ロングハイキングから距離をおくようになるのですが、それはまた別の機会に。   ロングハイクで必要とされた腰荷重モデル この時期のロングハイクシーンにおいてハイカーは軽量化を意識しつつも、レイ・ウェイのような典型的なULバックパックを使いこなせるハイカーは決して多くはありませんでした。レイ・ウェイでは長距離を歩くことにフォーカスするため、ハイキング中の生活に関わる用具を極端に簡素化させることで軽量化を実現しています。タープ&キルトを寝床とし、アルコールストーブで温かいものを口にする、そこまで振り切るスタイルを許容できるハイカーは今も昔も決して多いわけではないのです。長距離ハイカーの多くは床のあるテントで眠りたいし、ガスストーブを気軽に使いたいのです。レイ・ウェイのような狭義のULではなく、長距離長期間のトレイルでの生活に無理のない範囲での軽量化が支持されたと考えればよいでしょう。そうした志向はバックパックにも反映されます。2000年代後半、軽量志向の長距離ハイカーに支持されたのはGranite Gear ベイパートレイル、ULA サーキット、 Gossamer Gear マリポサといったモデルです。ヴェイパートレイル、サーキットはGREGORYやDANA DESIGNSといった北米トラディショナルな腰荷重を前提としたバックパック同様の構造をもっています。マリポサはULバックパックメーカーがはじめてアルミステイを搭載させたモデル。腰荷重を前提としてはいないものの、状況によってバックパックの背負うポジションを下げることで腰でもしっかりとサポートできるというのが特徴です。この流れはマスプロ大手のOspreyに波及します。2010年に軽量モデルであるエグゾスを発表するとロングハイクシーンを席巻したのです。この時期に小規模コテージギアメーカー、マスプロメーカー問わずロングハイキングシーンで生じた流れはどんどん大きくなります。2020年代の現在に至るまで、これらの腰荷重モデルとその後継モデルがロングハイクシーンの主流でありつづけます。 このように「腰荷重ができる800g〜1kgの軽量バックパック」がPCT、CDT(コンチネンタル・ディバイド・トレイル)、ATといった超長距離トレイルで支持されているのには以下のような事情があります。 ベアキャニスターを携帯する必要 山火事などで大きく迂回する可能性 季節をまたぐハイキングによるギアの増加 特に食糧、燃料、水といった消費材関連の重量が増加しているのです。結果パックウェイトが重たくなる。ベースウェイト4.5kgがウルトラライトの基準だとすると、現在のライトウェイト志向のハイカーのベースウェイトは6kgくらいを目安に考えるとよいでしょう。これに水2-4L、食料2-3kgという消費材が加わればパックウェイトは12-14kgくらいになることも想定されます。テント泊装備でのハイキングとして過剰に重たい重量ではありませんが、数週間から数ヶ月という長期間にわたって背負い続けるにはやはりフレーム入り、腰荷重可能なモデルを必要とするケースが多いという考えが主流になります。フレームなし、腰サポートなしという典型的なULバックパックの推奨パックウェイトは8-10kg程度なことを考えても、北米コテージギアメーカーのバックパックの主流もこうした腰荷重モデルに移行していることは多くのハイカーのニーズを考えると当然の帰結かもしれません。   長距離ハイキングにおける2つの潮流 それではレイ・ウェイを原点とするシンプルを突き詰めたULバックパックは絶えてしまったのでしょうか。そんなことはありません。ロングハイキングパックとしてのULバックパックの系譜は2015年創業のPa'lanteなどにしっかりと引き継がれています。彼らのバックパックは股関節の可動域を最大限に確保するため腰荷重を採用しません。そして上半身で長期間背負えるだけの体力や荷物をより軽量化する知恵と技術をハイカーに求めてさえいます。さきにレイ・ウェイを実践できるハイカーは決して多いわけではなかったという説明をしましたが、Pa'lanteのハイキングスタイルが伴うある種のハードルの高さはレイ・ウェイが登場したときのインパクトと同じだとといえるかもしれません。レイ・ジャーディンもPa'lante創業者のアンドリューやジョンZはとにかく歩きます。ひたすら歩き続けるハイキングスタイルです。ロングディスタンスハイキングで現在主流になっているバックパックは腰荷重に重きをおくようになりましたが、ULへの志向性をもつロングディスタンスハイキングでは歩き続ける、そのために腰を拘束しないというスタイルが基盤になっているのです。そして長距離トレイルをこうしたULスタイルで歩くハイカーは2020年代の現在、しっかりとその命脈を保っています。主流ではありませんが決して少なくはないのです。  現在のロングディスタンスハイキングシーンにおいて多くのハイカーが求めているのは腰荷重可能な軽量バックパックです。2000年代に比べればこの20年で格段に長距離志向のハイカーは増えました。当然その経験、体力、知恵、技術にも幅がうまれています。そうした状況もふまえれば、10-12kg程度の重量を安心して支えられる腰荷重モデルへの需要は必然といえます。しかしその一方でレイ・ジャーディンから続くひたすらに歩く正統ULスタイルもしっかりと息づいています。アリゾナトレイル、コロラドトレイル、バーモントロングトレイルなど1,000km前後の距離感のトレイルでは2000年代とは比較にならぬほどULに特化したハイカーを見かけることが増えました。2つのバックパックの潮流が存在するその多様性こそロングディスタンスハイキングの現在のカタチなのです。  

北米の長長距離トレイルであるパシフィック・クレスト・トレイルやアパラチアン・トレイルにおけるスルーハイク成功率をあげるための方法論としてうまれたのがウルトラライトハイキングとウルトラライトバックパックです。そこではハイキングで持つ道具を必要最小限の品目におさえ、かつそれらの道具を極限まで簡素化することが軽量化を支えています。こうしてベースウエイトを4-5kg、水や食料などを加えたトータルウェイトを8-10kg程度におさえることがULハイキングの基盤となったのです。しかし近年の北米長長距離トレイルのスルーハイクにおいては山火事の頻繁な発生により大幅な迂回を強いられることが珍しくなく、運搬する食料が増加傾向にあります。またハイカーの増加によりスタート時期が分散したことでハイカーによっては季節性ギアによって装備が増えてもいるのです。こうしたことからスルーハイカーのベースウェイト、トータルウェイトはともに増加傾向にあり、トータルで12-14kgの荷物を支える必要が強くなったのです。そこでコロナ禍以降、ロングディスタンスハイキングのシーンでは腰荷重を前提にした構造のバックパックへの関心が一気に高まったのです。

マリポサは元々、アルミフレームもしっかりとしたウエストハーネスも備えていましたが、腰荷重を前提としたつくりではありませんでした。腰を拘束することなく、歩行の自由度を高める意味からも、基本は肩甲骨から肩にかけての上半身荷重、ウエストハーネスはあくまでふられどめという歩荷のような背負い方を基本としています。そのうえで上半身の疲労が気になったり、荷物が重たく感じる時などはバックパックの位置を下ろしウエストハーネスで腰骨をホールド、状況によって腰荷重にも対応するというつくりなのです。これは他のおおくのULバックパックメーカーも同じです。
しかし、上記のようなロングハイキングシーンの変化に対応するように、マリポサも腰荷重を前提とした構造に大きくモデルチェンジしたのです。これによりGREGORY、OSPREY、MYSTERY RANCHといった従来からのバックパッキングパックと同じ構造、同じ背負い方になりました。先にも述べたように、Gossamer Gear最大容量クラスのバックパックであることを考えると、より幅広い長距離ハイカーのためのバックパックとして歓迎すべき変更といってよいでしょう。

 

腰荷重のための機構

アルミフレームとウエストハーネスの連結方式


Gossamer Gear マリポサでは、もとよりアルミフレームとウエストベルトは連結していましたが従来は固定式でした。そのためバックパックの荷重はしっかりと腰骨にのるのですが、ウエストハーネスが動くとアルミフレームも連動して動いてしまい、バックパックが揺れてしまいました。しかし今回のアップデートで可動式に変更。図のようにウエストハーネスが歩行時に動いても、アルミフレームには影響がおよびません。バックパック本体はハイカーの背中でしっかり安定するのです。状況によっては腰荷重もおこなえるという従来の在り方から、常に腰でしっかりと荷重を受け止めるという在り方への変化がはっきりと伺える点です。

ショルダースタビライザーの改良

外見上、もっともわかりやすい変更点がこのショルダースタビライザーの改良でしょう。ほとんどのULバックパックメーカーはバックパックの構造をシンプルにするため、ショルダーハーネスのバックパックへの取り付け位置を上部に移動させ、ショルダーハーネスそのものにスタビライザーの機能をもたせることにしています。そのためショルダースタビライザーを採用しているモデルと採用していないモデルとではショルダーハーネスの取り付け位置が異なるのです。マリポサでは従来よりスタビライザーを装備していましたが、スタビライザーの取り付け位置が低く、効果的な荷重移動は期待できませんでした。構造的にはショルダーハーネスの補強のためと考えた方が良いものでした。
今回の改良ではハーネスの肩への設置面積を増やすためにハーネス取り付け位置を若干さげたこと、前方への荷重移動をしっかり行えるよう、アルミフレームの全長を長くして、スタビライザーの取り付け位置を高くしたことが見てとれます。
左 アップデート後の現行マリポサ、右 アップデート前のマリポサ前モデル
同じ背面長のバックパックでもショルダーハーネスの取り付け位置が異なることがわかります。


より効果的に荷重移動をおこなうスタビライザーとして重要なアップデートだといえます。


マリポサの仕様

2024年のアップデートは背面構造一新に重きをおいているため、バックパックの表面的なデザインや機能に大きな変更はありません。2012年のアップデート以来、基本仕様は変わらないロングライフデザインです。
フロントポケットにサイドポケット、トップリッド的に使うことができるGossameer Gearならではのオーバーザトップローディング方式
ハイカーから見て右サイドポケットは上下2段組み。上段はヘッドライトやファーストエイドなどの小物収納に、下段は1Lボトル2本が収納できるたっぷりサイズ。
ハイカーから見て左ポケットは深さがある大容量サイズ。右側のウォーターボトルなどとのバランスを考慮すれば、このポケットにはテントなどの収納が適しています。
しっかりとした幅広で肉厚のハーネス類は変わらず。背中から簡単に取り外しできるパッドはGossamer Gearの特徴的な仕様です。
Gossamer Gear独自のオーバーザトップローディングを最大限伸ばした状態。
底部左側のトレッキングポールホルダーは樹脂パーツからよりシンプルなコード仕様に変更






Gossamer GearがULバックパックメーカーとして2006年にはじめてアルミフレーム搭載モデルとしてマリポサを発表した時もULハイカーたちは「改悪」だと評したことがありました。しかしGossamer Gearは同時期に軽さに特化したG5も発表しています。かたや長距離ハイカーのため、かたや先鋭的なULハイカーのため、両方のバックパックをULという土俵の中で表現できる。その懐のひろさがGossamer Gearが四半世紀の長きにわたり北米ハイキングシーンで支持されてきた理由でしょう。現在もG4-20、Kumo、MurMurとフレーム非搭載で軽さに軸足を持つULバックパックを同社は数多くラインナップしています。懐古ではなく、現在進行形のULバックパックを、ロングハイキングバックパックをつくり続けています。

腰荷重を前提とした構造に生まれ変わったマリポサは、海外長距離ハイキングにおいて 食料、水の運搬量が増大するセクションでも安心です。また軽量化を志向するけれども、いままで使ってきた腰荷重バックパックの背負い心地を手放したくない、容量も大きく変更したくない、というハイカーにとっては間違いのないバックパックではないでしょうか。軽量化の恩恵をより多くのハイカーに届けてくれるバックパックがGossamer Gearマリポサなのです。