2014年から続くハイカーズデポ別注バックパック。デザインや素材に目を奪われがちですが、パック本体、ポケット、ショルダーベルトのみというULバックパックの王道ともいえるシンプルな構造にこそこのバックパックの本質があります。
仕様
- 重量
- 340g
- 容量
- 最小容量 20L
最大容量 35L - 素材
- 本体 ECOPAK EXP200
背面・底部 ECOPAK EXPO200
ショルダー 210dn ダイニーマグリッドストップナイロン & 3Dメッシュ - カラー
- シルバーグレイ、ゴールデンデイジー、トロピックティール、コヨーテブラウン、ブラックナイト
小さいのにたっぷり
かわいいのにしっかり
シンプルだからこそ使える
Pika Pack HD ver.
デイハイクはもちろん普段使いにもという欲張りなハイカーはもちろんのこと、ミニマルなオーバーナイトハイキングを楽しみたいハイカーや藪漕ぎなども積極的にこなすハイカーにまで、広く多彩に対応するサイズ感と容量が特徴です。
ZimmerBuilt に依頼したのは2014年。まさかこんなにロングセラーになるとは想像もしていなかったです。ですが今でも最初にサンプルを見たときの胸がときめいた思いは忘れていません。他との比較はあっても、他と比べて何ものでもないオリジナリティあふれる、Pika Pack HD ver.(パイカパック ハイカーズデポバージョン)。
カラー展開は5色。10周年を前に2023年はフルカラーチェンジとなります。陽気な気分にさせてくれるカラーから落ち着いたカラーまでお好みのカラーをお選びください。
細めでスッキリとしたシンプルなデザインは古いウルトラライトバックパックを連想させます。容量は20リットルほどでデイハイクにはやや大きめかもしれません。ですが、生地に張りとこしがあるため型くずれしにくいので、パッキングをデリケートにする必要はありません。薄い軽量な生地でできているバックパックはコンパクトに収納できたり良い面もあるもののある程度物が入っていないと形が安定しません。そのようなバックパックを普段利用している人の中には少ない荷物の時に形を安定させるため、スリーピングマットなどを内側に入れて使っている人も多くいるでしょう。パイカパックならそのようなことをしなくても普通に使えます。
オーバーナイトハイキングには小さすぎるサイズなのですが、吹き流し(本体上部の余分な流し部分)が長いため、最大容量は25リットル以上になります。
また外側のメッシュポケットが秀逸で、普段はすっきりとして小さめに見えますが、多い荷物のときはたっぷりと収納できるよう、広がる工夫がなされています。ミニマリストハイカーであれば、夏のオーバーナイトハイキングを十分楽しめる大きさといえるのではないでしょうか。
メッシュポケットはとてもシンプルな構造なのですが、だからこそ大きさを自由に変えることができます。両サイドからコードを引くとポケット上部が締まるため、口から物が落ちるのを防ぐだけでなく、スッキリと本体に沿ってくれるため邪魔になりません。全開にすればテントも収納できてしまうほど。メッシュポケットと本体上部を締める部分が連動しているため、上を止めれば自然とメッシュポケットが締まります。またメッシュポケット下部が本体底部と連動するので、上を引けば底部が引き上げられるので荷物が安定するのです。
メッシュポケットのセンターに縫い目があるため、引っ張り上げるとしっかりと底部が持ち上がります。ポケットの出し入れがしやすいように、真ん中のフックパーツを外せばメッシュポケットが大きく開くように工夫されています。
素材
本体には軽量なリップストップを組み合わせたECOPAKを使用。ショルダーはダイニーマグリッドナイロンと3Dメッシュを採用。3Dメッシュはあまり軽くない素材のためほとんどのライトウェイトバックパックから姿を消してしまっていますが、通気性、耐久性の高さがとても優秀な上、着ている服の生地を傷めにくいにも関わらず滑りにくく、汗を吸収しても臭くなりにくいのです。
Pika Pack HD にXを使うことはハイカーズデポのこだわりでした。この生地は軽さと強さのバランスが良いと言われていますが、従来のライトウェイトバックパックに使われている素材と比べ決して軽量とは言えません。ですが、ECOPAKには軽量な生地にはない張りとこしにより、少ない荷物でもバランスを保ちやすくなっています。
お客様から普段も使える軽量なバックパックが欲しいと言われ続けていました。しかし、昨今のライトウェイトバックパックはより軽量な道を歩んでいます。もともとのウルトラライトバックパックは軽量な素材を使うよりはシンプル(簡素)なデザインにすることでの軽くなったものが多かったのですが、技術の進歩によってたくさんの軽く薄く丈夫な素材が生まれたことでウルトラライトバックパックは進化してきました。その進化は、ウルトラライトハイキングを魅力的にすると同時に、バックパックとしての強度や形状の安定性ということからは離れていったことは間違いない事実です。
では、軽量を保ちつつも安定する形と丈夫さを両立するには”デザインをシンプルにすること”というウルトラライトハイキングの原点に返るというとても簡単なことをすれば良かったのです。
ウルトラライトバックパックは軽くてシンプル。一度使うとその魅力に誰もが気づくはず。
皆さんも知らず知らずにシンプルなトートバッグを”使いやすい”と思っていたりするのではないでしょうか。バックパックも気室を増やしたりポケットをこれでもかとたくさん付けるよりも、最低限で十分なのです。Simple is best、とまでは言えなくとも、Simple is better、だと僕達は考えています。
ZimmerBuilt
ジマービルトはカスタムのバックパックやテンカラ用のギアなどを作っているアメリカのメーカーです。不意に出会ったメーカーで、そのデザイン性の高さはとても惹かれるものがありました。サンプルを依頼した際はその品質の良さに少し驚いたほどです。そして出来上がって来た物は、見た瞬間興奮するような、シンプルなのにどこか新しいものを見たような驚きがありました。基本はシンプルなのです。ですが、今の時代に合わせた素材を使うことはもちろん、その場所に合わせた素材の使い方がとても上手いと思いました。色や柄で勝負するのではなく、純粋に使いやすいシンプルなデザインで勝負している、そんな風に感じたのです。そしてもともとあったデザインを元に素材を変更して依頼した時も、快く対応してくれたのです。
細部の工夫
ジマービルトのバックパックを見たとき、はたと気づいたことがありました。それは上部を止める場所に太いバンジーコードを使っていたこと。「なるほど!その手があったか!!」と気づかされたのです。一般的には20mmやそれよりも細いテープ状のもので止めるのが一般的です。コードを使うことは思い付いたものの、バンジーコードで、しかもそれが前部のメッシュポケットと連動する様になっているのは新しい仕様だと思いました。「ウルトラライトバックパックにオリジナルは無い」とゴッサマーギアの創設者グレン・ヴァンペスキが言ったように、シンプルなものだけになかなか新しい発見も少ないバックパックにあって、シンプルさを変えなくてもまだ新しい発見があるのだと思わせてくれた構造です。
付属のバンジーコードとバックパックに付いているホールやスライダーパーツを使うことで、バックパックにコンプレッションをかけたり、何かを挟むことが出来るようになります。
下記写真はスタンダードなバンジーコードの通し方。メッシュポケットをめくってみるとどのように通っているのかが分かりやすいです。
*画像のレッドは廃盤カラーとなります。
バンジーコードの使い方 Extra
表側下部にあるホールに通してから両サイド上部のスライダーパーツに通します。そして中央で別売りのパーツを使って接続することで表側で荷物を固定することができるようになります。中央のパーツはコードクリップというものですが、カラビナなどでも応用できます。
*画像のブラックは廃盤カラーとなります。
フロントでバンジーコードを使うとメッシュポケットへのアクセスがしにくくなるのが難点ですが、この方法であればセンターのパーツもしくはカラビナを外すだけでメッシュポケットへのアクセスが容易になります。
〈外した状態〉
リッジレストのショートや山と道UL Pad15S+ などは十分に固定することができます。
オプションのウエストベルト
パイカパックと同じ30L前後の容量のULバックパックには山と道 ミニ、Trail Bumバマーなどがあげられます。この容量のバックパックに共通するのは腰のサポートを優先していない(できない)という点です。力学的にも安定し、荷物が軽く感じられる背面上部にバックパックを密着させて背負うとバックパック下部が腰骨には届かないのです。そのためウエストベルトは荷重をサポートするためではなく、フラレ留めとして機能することになります。そのためTrail BumバマーのようなULバックパックの原型に近いモデルではウエストベルトを完全に省いていますし、山と道ミニでもウエストベルトが不要な場合は取り外すことができるのです。
パイカパックではウエストベルトが必要な場合は、オプションベルトを購入、取り付けすることが可能です。
オプションウエストベルトを購入せずとも、25mm幅のナイロンベルトテープと25mmデュアルバックルをご用意いただければ、ウエストベルトは簡単にお作りいただけます。
拡張性
基本的に、普段も使える強度とシンプルな使いやすさ、を考えた小型バックパックを作りました。しかし、このパイカパックはシンプルなだけに拡張性が高いのも特徴です。こう使って欲しいわけではありません。このようにも使えるんだ、と気づいていただければと思います。
先述もした通り、吹き流しが長いので容量はそれだけでアップします。
フロントポケットを最大活用しようとすれば、こんなにも膨らむのでかなりの荷物が収納できます。写真の人物は身長175センチ、体重74kg、がっちり体型です。そう考えると、20リットルのバックパックとは思えないほど拡張しているのが分かると思います。
ポケットの横方向への絞りはしていない状態ですが、もっと閉じることも可能です。
さらに先述した外側にバンジーコードを付けることで、マットなどを外付けすることができます。こうなれば十分にオーバーナイトハイキングが可能ですね。もちろん美しい状態ではありませんが、とてもハイカーらしいバックパックの状態と言えます。
僕たちはロングハイキングでハイカーのたくましさをたくさん目にしました。その一つが、目の前にある道具(バックパック)の能力を最大限引き出して使うこと。これこそ本物のハイカーの真骨頂ではないでしょうか。
そしてこんな無茶なパッキングができるのも、シンプルな構造と丈夫な素材だからこそと言えるでしょう。
軽さへの追求はウルトラライトバックパックやウルトラライトハイキングカルチャーを大きく前進させる原動力になりました。ですが、それの行き着く先は”Zero"でしかありません。今改めてウルトラライトハイキングの原点とも言えるシンプルさに目を向けることは、原点回帰であると同時に、新たなウルトラライトハイキングカルチャーへの一歩であると思います。
Pika Pack はそんなシンプルさと丈夫さを兼ね備えた、ウルトラライトバックパックらしいバックパックと言えるでしょう。ぜひこのバックパックと共にハイキングを楽しんでもらえればと思います。
参考使用例
奥多摩一泊山行(5月上旬)
奥秩父2泊3日(5月GW中)
左から)パッドなし、パッド付けた場合
ヒマラヤ(ロブジェイースト)