2018年ヨセミテ国立公園付近の現地情報。
no.3 はドナヒューパスの制限がかかって以降注目されるMono/Parker pass を通るルートのリポート。
シエラ通信2018 no.3
モノ・パスをゆく
Tuolumne Meadow〜Mono/Parker pass〜Agnew Meadow/ Reds Meadow
Text By Loon
パーミッションについて〜代替ルートだなんて
セクションハイクでもいいから、JMTを歩いてみたい、という方は多いと思います。できれば公共機関が楽なヨセミテバレーからマンモスくらいで。ところが、ヨセミテバレーからもレッズメドウからも予約はいつも一杯。半年前に予約を取るなんて普通は無理ですよねー。
前回のように、ヨセミテバレーからスタートする代わりにワウォナはまあ、使えそうです。一方、もう一つのDonohue passドナヒューパスの人数制限問題があります。トゥオルミーからレッズメドウに向かうのに、途中にあるパス/峠を越えるのにもパーミットがいるのです。トゥオルミーのレンジャーステーションでは朝6時くらいからハイカーが寝袋にくるまって待っていました。
ヨセミテ国立公園はMono/Parker Passを代替に勧めています。ならば、モノパスを歩いてみましょう。ちなみにMonoの発音はモゥノゥです。
便宜上、モノパスと書きます。
さて、モノパスですが、実のところ、JMTのような新参者の代替に使われるような代物ではない、由緒正しきトレイルです。白人たちがヨセミテに来る前に、ヨセミテ一帯に住んでいたパイユート・インディアンとモノレイク周辺のイーストシエラに住んでいたモノ族が、交易をするために使われていた歴史あるトレイルです。デイハイカーも多く歩いています。
ジョン・ミューアも画家を連れて、ライエル山に向かったときに、このモノパス・トレイルを通っています。
モノパスをゆく
モノパスへの最大の難関は、トゥオルミーからトレイルヘッドまで5マイルもロードウォークがあることでしょう。それに登りです。ちなみに朝6時過ぎに出たら、8時半に着きました。ヒッチハイクでもしたほうが良いでしょうね。車で来るデイハイカーも多いですしね。
トレイルはヨセミテらしい針葉樹の森歩きから始まります。そして案の定、登りです。が、標高3000メートル近くから始まりますので、涼しいです。ライエルキャニオンは、登りが緩やかですが、木陰が少ないため、暑くなることも多いですから、モノパスの方が歩きやすいような気がします。
「モノパス」と言いますが、レッズメドウに向かうにはモノパス自体は通りません。トレイルヘッドから4マイルの分岐で、モノパスに向かうトレイルを0.5マイルほど東に進みます。パスまで登りはそれほどないので、時間に余裕がありそうな場合は、行ってみると良いでしょう。広い空の下、眼下には小さな湖サミット・レイクとその周りに青々とした草原が見えます。左手にマウント・ギブスのなだらかな斜面がすーっと伸びているのも印象的です。
モノパスに着くと、そこはすっかりイーストシエラ。分水嶺を越えたのはもちろん、足元にはイーストシエラの特徴の赤い石が散らばります。ヨセミテといえば花崗岩ですからね。
分岐に戻ってからは、次の峠「パーカーパス」に向かいます。森林限界を越え、木陰がいよいよなくなってきました。すこし楽しくない丘を越えると、草原が始まります。美しいです。右手には、クナ・クレストが北はマンモスピークから南のクナ山まで伸びます。その奥がライエルキャニオンとJMTで、ちょうど細い山脈を挟んで東西に分かれている格好です。
パーカーパス手前で、馬に乗ったレンジャーに出会いました。しばらくおしゃべり。彼もパーカーパスのほうが人が少なくて楽しいそうです。「先週はライエルキャニオン向けのパーミットに61人も並んでいたよ」と肩をすくめて言っていました。やれやれです。「今日は風もあるし、蚊も飛んで言ってしまうからいいね」
パーカーパスはとてもなだらかなパスです。近くに渓流が流れていて、お花畑が拡がっています。昼寝に最適です。お昼を食べて、しばらく横になっていました。空が青く、草原がふかふか。耳には流れのポタポタした音。幸せです。おやすみなさい。
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心地よいパーカーパスにいつまでも居たいのですが、このコースのラスボスは、まだ別にいるのです。次のKoip passコイップパスは3680メートルあります。ヨセミテバレーからスタートした方ならある程度は高所順応できているかもしれませんが、トゥオルミーからスタートする場合はお気をつけください(とくにワウォナからRed peakやヴォーゲルサングピークを越えた人なら安心ですね)
パーカーパスからはしばらく下っていきます。右手にはこれから進むコイップ山が見えてきました。雪渓がはりつき、そこからは雪解け水が白い蛇のように幾本も下ってきます。どこを登るのか心配になります。雪渓の上は歩きたくないですからね。ご安心を。トレイルは、雪渓や氷河を迂回して、大きな斜面をスイッチバックして、じわりじわりと詰めていきます。結構な大回りで、足元のガレた赤い石のトレイルを眺めて進むだけ。息が切れ過ぎたら休み。ただひたすら登ります。シンプルなゲームです。東に向かって進むときは、山の斜面の隙間からイーストシエラの有名な湖、ドーナツ状のモノレイクが姿を現し始めます。西に向かうときは、先ほどまで歩いてきたパーカーとモノパス・トレイルヘッド近くのタイオガパスの山々、マウント・デイナ、マウント・ギブスが見え、その奥にはヨセミテ北部の大きな山、マウント・コーネスが見え始めました。足元には赤い石礫とイーストシエラの小さな花々。眼下には雪どけの白い蛇。どこを向いても楽しいものばかりです。
スイッチバックが終わると、パスまで西に向かって高度をを維持しながら、ずんずん進んでいきます。ホイットニー山へのトレイルによく似ています。
パスは火星のような雰囲気です。朝までトゥオルミーのキャンプ場にいたとは思えないほどの景観です。パーカーパスからは誰にも会っていません。頂上は独り占め。JMTはパスが狭いところが多く、これほど広いパスはありません。キャッチボールができそうなくらい。
JMTならドナヒューパスを通りますが、パスにつくと携帯で電話している人がいたり、「ドナヒューパス、ナウ」と携帯をいじる人もいて、少し興ざめです。コイップパスは一人でゆっくり堪能できるパスです。素晴らしい。
パスからの下りもスイッチバックです。両面が傾斜があり似たようなスイッチバックが付けられた山は珍しいですね。両面スイッチバックだと、山自体が薄くなってしまいますもの。眼下には、今夜泊まるAlger lakesが見えます。近くに見えるのに、なかなか近づきません。早くキャンプサイトに着いて休みたいのに…。一日が濃厚で、心がいっぱいです。もう美しい景色は、明日に回しておきたい。モノパスはそんなトレイルでした。
明日はアグニューメドウまで出てからバスに乗り、マンモスの町におります。5泊6日のハイキングのおわりです。日本から来た知人のハイカーが町にいるはずで、どこかで遭遇する予定です。
そんなことを考え始めると、いよいよ心は町に戻ってしまうものです。山との繋がりがすっと薄れました。足早に山をあとにするだけです。
山から離れるのは寂しくもあり、すこしほっとする自分も見つけて一安心。