2009年から販売を続けてきたハイカーズデポの定番スリーピングバッグ「ダウンバッグ」が、2026年春に「ダウンバッグTS」となって登場。過去にも何度かマイナーチェンジを施し、今回で5度目のアップデートとなる同モデルを解説していきます。
ダウンバッグについて

ダウンバッグはハイカーズデポオリジナル製品として、国内老舗寝袋メーカーであるナンガにお願いして作って貰っている3シーズンモデルです。これまでにも国内外を問わず様々なフィールドで使われ、今もPCTなどのロングトレイルを歩くハイカーの寝具として利用されています。
その形は一般的な寝袋と違ってフードがありません。これは携行する防寒着・雨具のフードやニットキャップを被ることで頭部を保温できるので、重複する寝袋のフード部は省略して軽量化するというものです。この考え方自体は古くからあり、中にはフードどころか寝袋丈が脇までしかないハーフバッグや半シュラと呼ばれるものもあり、それらも携行する防寒着の併用前提で使われていました。
メリハリある特徴的なシェイプにより寝袋が体に沿う形となり、体温が及ばないコールドスポットが発生しないようにしています。これをもう少し詳しく話すと、寝袋はそれ自体が発熱する訳ではなく、寝ている人の体熱が綿に蓄えられることで暖かく感じます。つまり、体と綿の距離が近ければ近いほど体熱が伝わりやすく寝袋の保温性が高まるので、そういった部分を重視した結果のグラマラスシェイプとなっています。これは他メーカーにも見られる考え方で、昔のマウンテンイクイップメントやPHD、ヌナタクなどで顕著でした。話が逸れますが、体熱の伝導が寝袋の暖かさに直結するので、過剰な重ね着をした場合はその伝導率が低下します。寝袋の保温効果を期待するのなら、その点ご注意ください。
チタンスパッタリング

今回のアップデートで1番大きな変更点です。保温性向上のため「チタンスパッタリング(生地へのチタン層蒸着)」を施しました。これにより放散する体熱がチタン膜で反射され、再び身体へ当たることで寝袋の保温効率を上げてくれます。
生地厚

2番目に大きな変更点です。前トップキルトに使っていた生地厚15デニールから「10デニール」へ薄くしました。これだけ聞くと強度面を心配するでしょうが、バックパックやテントの底部などと違い、寝袋の生地に強い擦れや負荷が生じることは殆どありません。もっと薄い7デニールナイロン生地のダウンジャケットを10年以上使っているスタッフもいますが、特に破れもなく今だに現役です。つまり、10デニール厚なら余程変わった使い方でもしない限り大丈夫だと言えます。
グースダウン

ダウン品種は寒さが厳しい地域で育つグース(ガチョウ・ガン)を使っています。高価になるものの綿の膨らみが優れているので、軽量が優先されるダウン製品において最良種とされます。昔はどのダウンスリーピングバッグメーカーもこぞってグースを使い、ダウンボールが小さいダック(アヒル・カモ)は敬遠されました。しかし世界的なダウン需要増によりグースは供給量が不足して市場価格は高騰。今も年々値上がりしているので、各ダウン製品メーカーはコストダウンを図ってダックへと切り替えています。今もダックを扱わず頑なにグースだけを使い続けるのは、ウエスタンマウンテニアリングなど一部のプレミアムスリーピングバッグ専門メーカーに限られるようになりました。
ハイカーズデポでは価格面での動向を理解しつつも、軽さを優先するために引き続きグースダウンを採用しています。ただ、この時代の流れにいつまで逆らい続けていられるかは分かりません。そのくらいグースダウンは値上がりを続けています。
810FP

ダウン製品の軽さとロフトは封入する水鳥の品種だけでなく、フィルパワー(FP)も関わってきます。◯FPのような表記を見たことがあると思いますが、この◯の数値が高ければ高いほどダウンの体積(膨らみ)が大きくなるので、寝袋の区画を埋める綿量が少なくて済み製品の軽量化に繋がります。
ダウン製品における大まかなFP値ですが、カジュアルブランドのダウンウェアは500台FP、登山用ダウンウェア・寝袋の普及クラスが600台FP、軽さを最優先したもので800台FPが現在の主流です。ひと昔まえの話になりますが、ロストアローの2000年カタログをめくると高級ダウン製品メーカーであるフェザーフレンズが載っています。彼らが使っていた700台FPが当時の最高品質として知られていましたが、ダウンの洗浄技術が上がったことにより天井値も更新されました。
ひと昔前繋がりで言えば、その天井値更新を各社がこぞって競争していた時代もありました。その頃は「FP戦争」と揶揄されることもありましたが、1000FPが登場した以降はやや鈍化。FP値は洗浄次第でいくらでも上げられる、高いFP値になるほど高価、といった背景と共に前述のコストダウン優先が関係するのかもしれません。ちなみにダウンバッグTSは810FPですが、これは後述のUDD加工を施す前に計測した「最低保障値」で、加工後はその数値が上がるので正しくは810+FPとなります。ただ検査で数値化していないため控えめに見積もっています。
UDD加工

UDDとは「Ultra Dry Down」の略で、ダウンに撥水加工を施したものです。これはダウンの膨らみを妨げる湿気や水分を防ぎ寝袋のロフトを維持するのに役立ちます。
元々ダウンは水鳥の油脂を含んでいるので濡れに強いものです。しかし、そのまま寝袋へ封入すると臭いが発生するので洗浄加工をして臭いの原因である油脂を抜きます。洗浄して油分を含まないダウンは臭いもなく綺麗に膨らみますが、反面濡れに弱くなるというジレンマに陥ります。
就寝時にかく汗やテント内の湿気などでダウンの膨らみが低下するのを防ぐために、ダウンバッグTSにはUDD加工されたダウンを封入しています。また湿気を吸った寝袋は乾燥時と比べて重くなりますが、UDD加工をするとそれを抑えることができます。実際に湿度の高い雪山においてUDD加工モデルのテストを行いましたが、非加工の物と比べて就寝前と変わらぬ軽さを保っていました。この加工により長期縦走時にはストレスが減り、雨の多い季節にも安心してお使い頂けます。
コンテニュアンスバッフル

中綿の区画形状も引き続きコンテニュアンスバッフルを採用。これは寝袋へ封入されたダウンが区画内を移動できる構造を指します。それが何の役に立つかというと、気温に応じて上面(胸側)と下面(背側)に配置されたダウン量の比率を変えて対応温度が調節可能となるのです。
例えば寒冷期は上面へダウンを集中させてより暖かくすることができます。ダウンを全て上面に集めたとしても、下面にはちゃんと生地があるので、キルトのような背面が開いた構造に比べて寒気が入り込みにくくなっています。勿論、その場合は背中側に寒冷期対応の暖かいスリーピングパッドが必要です。逆に温暖期は下面へダウンを追いやり体重でロフトを潰せば過剰に暑くなることもありません。これは幅広い気温下で使われる3シーズンモデルに有効な構造と言えます。
綿の移動はとても簡単で、ジッパーを全開にしてブランケット状にしたら、両手で端を掴みダウン量を増やしたい面へ向かって寝袋を上下に適当回数振るだけ。ちなみにダウンを移動させられない寝袋の上下面ダウン比率は、上6:下4か上7:下3くらいが一般的なので、比率に悩んだ時は基本に立ち返ってください。
ボックスキルト

寝袋に詰め込まれたダウンは重力に従って下へ落ちていきます。寝袋全体に良い塩梅で分布配置させるには、その偏りを防止する「区画」を寝袋に設ける必要があり、そのためにあらゆるダウン製品の生地は縫われてキルト状になっています。
またどんなに素晴らしいダウンを封入しようと、その膨らみを生かしきれない構造では意味がありません。そのためキルト構造は各スリーピングバッグメーカーが工夫を凝らすところで、その形も様々です。ダウンバッグTSにはボックスキルトと呼ばれる箱型を採用。表地と裏地に通気性のあるメッシュ生地を縫い付けて隔壁を作り、ダウンのロフトを十分に活かすスペースを確保しています。その隔壁高は後述するダウン増量も考慮して、一般的な3シーズンモデルよりも高めに設定しています。
ダウン増量
ダウンバッグTSは有料でダウン量を増やすことができます。極度の寒がりならダウンを増量してより暖かい仕様にするのも良いでしょう。これは使用後でもできるので、試しにそのままで使ってみて寒いようなら検討するくらいで大丈夫です。また長年の使用によりダウンの膨らみが弱まってきた時にも有効です。料金や納期についてはスタッフにお尋ねください。
L字型ジッパー

3シーズンモデルとして温度調整に役立つのがジッパー。ダウンバッグTSはL字型のオープンジッパーを使っているので、春や晩は全閉して寝袋、季節の変わり目には半開でキルト、夏は全開にしてブランケットなど、気温の変動に対して形状変化でも対応できます。
また、ダウンバッグを2つ用意してジッパーを互いに組み合わせると、ダブルサイズの寝袋にもなります。2人で一緒に寝れば相手の体温により更に暖かく感じるので、夫婦や恋人、または子供と添い寝する親なら積極的に利用してみてください。ダウンバッグTS 同士は勿論、ダウンバッグTSと前ダウンバッグの組み合わせも可能です(前ダウンバッグは生産時期によって組み合わせ時のジッパー長が揃わないことがありますが、使用に問題はありません)。
そして、フードレスかつダウンを移動できるコンテニュアンスバッフル構造なので、ジッパーが右左どちらにきても機能は変化しません。これは特に左利きの人には嬉しい仕様かと思います。それ以外にもジッパー終端を少し開けてストラップを通せば、ハンモックごと包み込む寝袋として応用できます。1つの寝袋で様々な使い方ができるのは、L字型ジッパーを持つダウンバッグTSの良さです。
首元コード

「1.5mm径」の細さへ変更しました。また細かい部分ですが、コードの両端をコードスリーブ内で縫い留めず、スリーブ外へ出して結び留めています。コードが抜けたとしても自身で結び直すことが可能な上に、他の紐(伸縮ゴム・別色)へ変更することもできます。紐を出す穴は大きくないので、なるべく細い紐通しかヘアピンなどを使ってください。
収納袋

前の作りよりも「少し小さく」して、底面を角丸長方形としました。これはテント泊時に使うバックパック底面寸法との相性を考えたリサイズです。昔と比べてテント泊に使うバックパックは40L(写真はウィンドライダー40)が当たり前、それ以下も多くなりました。そうした容量に対して、丁度よく収まるようにデザインしています。
もっと小さい袋を用意すれば更に小さく収納できますが、特におすすめもしていません。過剰に小さくした状態はパック内でデッドスペースを生みやすいからです。収納袋を横にした状態でパック底部へ沈めれば、隙間なくパッキングできます。そしてその上へ他の荷物を積んでいけば、その重みで寝袋は自然と潰れてパック容量を邪魔しません。これは初代から続くパッキングへの考え方です。
日本のテント泊縦走から海外のロングトレイル、沢登りや川下りにバイクツーリング。遊び方や場所を問わず、ダウンバッグTSは幅広い季節で皆さんの安眠を約束してくれる道具です。


