寒冷季の行動着、温暖季の保温着
ULハイキングウェアのクラシック
ウールフーディーのパイオニア
春や秋の行動着として、夏の防寒着として、冬の肌着として、フードとサムホールで幅広い温度に対応するオールシーズンのハイキングアパレルです。繊維の細さによる肌触り、保湿・保温機能、防臭機能、こうした特徴はいつの時代もメリノウールの他にないアドバンテージ。2000年代、ハイキングにおけるウールフーディーの有効性を定着させたパイオニア的製品がこのインディーフーディーです。


アウトドアウェアとしてのウールフーディー
わたしがはじめてウールフーディーを意識したのはライトウェイトハイキングのポータルサイト「Backpacking Light」のオリジナルブランド「Bozeman Mountain Works」で2000年代中頃に販売されたウールフーディーがきっかけです。温度調整の幅が広いフーディーは動いていれば暑い、停滞時には寒いという寒冷期においては主力行動着として重宝します。patagonia R1 やキャプリーンEXPウェイトに代表される保温性を備えた適度な厚みと、通気性の高さ、サムホールやフードによるプラスアルファの防寒対策を施した高通気のグリッドフリースのフーディーは厳冬期に活動するアルパインクライマーの間で高い評価を得て定着した一着です。寒さが苦手な人にとって冬に欠かせない行動着といえるグリッドフリースですが、積極的に歩いたり、冬の縦走でそれなりの荷物を担ぐ場合には、当時のグリッドフリースでもまだ暑すぎるという声もありました。しかし、保温効果の調整に便利なサムホールやフードは魅力的。フリースほどの保温力は必要ないけど、保温効果を高めるギミックが付いた薄手の行動・保温着を望むハイカーに提案されたのがウールフーディーなのです。また、寒冷季以外でも直射日光による体力消耗を防ぐためのUPFフーディーがフィッシングウェアとして存在していました。このようにフーディーは一年を通じてフィールドにおける機能衣料品として評価されていました。なお2020年代の北米ハイキングシーンにおけるアクティブインサレーションフーディーやサンフーディーへの高い注目もこうした文脈の上にあるものです。
そんな2000年代中頃に提案されたBMWのウールフーディーは秋冬の行動着としてグリッドフリースとは異なるもうひとつの選択肢になりました。当時はウール衣料品のマスメーカーからはフーディーが販売されていなかったこともあり、ライトウェイトハイキングの文脈の中から提案されたBMWウールフーディーは当時のULハイカーから高い注目を集めることになりました。
Indie Hoodieの特徴
そんな当時、マスメーカーで最初期にウールフーディーを扱ったひとつがIbex。どこかウールフーディーをだしてくれないか、展示会で常に探していただけに嬉しかったのを覚えています。それがIndie Hoodieです。
フードとサムホールを装備した秋冬の行動着として意図されたこのモデルで採用された生地の目付(平米あたりの重量)は195g/㎡です。ベースレイヤーとして、カットソーとして最も厚手のものが250g/㎡程度ですので、いわゆる中厚手といえる生地厚です。低体温症を防ぐ濡れても高い保温力、長期山行でも気にならない防臭効果、フードよる幅広い調温機構と特色にあふれ、通年活用できるハイキングウェアがインディーフーディーです。
ウールの中厚生地
195g/m2 ウールジャージ素材は寒冷期に最適な生地厚。気温が一桁台のハイキングはちょうどイメージしやすい状況でしょう。こうした春や秋の単体使用では通気と保温の適度なバランス感に満足いただけるはずです。冬はベースレイヤーやミッドレイヤーとしても着用いただけます。そして出番がなさそうな盛夏 ですが、森林限界上での防寒着として活用できますので、寒冷期中心に一年中使うことができるのです。
フード&サムホール
フードにより首と頭からの熱放出をおさえ効果的な保温を行います。特に冬は体温の半分が頭から放出するとも言われています。帽子をかぶることはもちろん+の保温機能と考えてください。ニット帽を持っていかない温暖期にはふとした時に便利だったりします。
そして地味ながらも冬場の体感温度に大きな影響を与えるのが手首から甲までを覆うためのサムホール。これにより袖は常に手首を覆うだけでなく、ジャケットの脱ぎ気の際にも手首が露出しません。甲・手首から前腕にかけては血管が皮膚のすぐ下を通ることで、血液を冷やしたり温めたりするラジエーターとしての役割があります。ですので、サムホールで露出を抑えることだけでも体温の保持に大きな効果があります。
フードはウインドジャケット、レインジャケット等、他衣類のフードと干渉することもあるでしょう。またサムホールも運動量の多い人にとって不要に感じることもあるかもしれません。しかし、動きやすい熱を溜めにくい中厚のウールトップスにおいて、こうした工夫で保温性を向上させるのは注目したいポイントです。

長めのジッパー
フロントジッパーは長めです。2020年代以降、アクティブインサレーションを用いたフーディーでは素材そのものの通気性が高いことから首元の開閉機能を廃したフーディーが主流になっていますが、換気においては物理的に開け閉めすることに勝るものはありません。がっつり歩いて暑くなった身体をクールダウンさせる時にはフロントジッパーを全開にして温度調整しましょう。

ウールフーディーの目付と着用季節
こうしたウールフーディーですが、ハイカーズデポではIbexインディーフーディーと山と道100%メリノライトフーディーを扱っています。それぞれ生地目付は195g/㎡と150g/㎡です。ウール衣類としての基本機能に変わりはありませんし、ともに多彩な用途で通年活用いただけます。しかし生地厚の違いにより、主体とする季節が変わります。Ibexインディーフーディーは寒冷季を中心として、山と道メリノライトフーディーは温暖季を中心として、選んでいただくと良いでしょう。
ウールと汗冷え
標高の低いところや運動強度が高い活動をおこなう場合、化繊衣類を単体着用すると、高い速乾機能により気化熱で身体を冷やす効果が期待できます。しかし、重ね着を前提とするとまた事情が異なります。汗の逃げ場をどうするかを考えねばなりません。化繊は繊維内部での水分保持量が少ないため、繊維を伝わらせる拡散機能で空気と接する場所へ汗を移動させなければなりません。この機能をあげるためにメーカー各社が試行錯誤をしています。異なるメーカー同士の化繊衣類を重ね着した時に汗残りや汗冷えを感じるのはそのためです。特にレインジャケットなどの防水透湿素材の内側に化繊素材を着込んだ際、蒸れ感が強くなります。これは汗がレインジャケットから透湿されるまで、ジャケット内部の湿度はあがるものの、化繊素材の保水力が少ないため、保水しきれない汗が液体となって汗もどりするからです。
こうした「重ね着」の状況で汗冷え対策となるのがウールです。レインジャケット内部がたとえ濡れてしまっても体温の低下をできる限り防いでくれます。それも "一枚で" です。天候や温度変化が激しい春や秋には特に必要な機能です。フィシャーマンセーターに代表されるように漁師がウールに絶対的な信頼をおいていたように、現在ではカヤッ クなどのパドルスポーツで使う人も少なくありません。
ウールは確かに化学繊維と比べれば乾きにくい素材ですが、吸湿性と放湿性の高さにより一定の肌ざわりを保ってくれます。またウールは繊維内部の保水力は高いものの、繊維表面は水を含まないため、濡れていてもドライな肌触りを提供してくれます。濡れていても冷たさを感じにくく、いつの間にか乾いてしまっているウールは繊維の表面が水を含まないため濡れ感が伝わりにくいことに加え、乾燥が化繊と比べてゆっくりと行われるため、気過熱による急激な体温低下がなく、汗冷え感が少ないのです。これは速乾性能がないことによる大きなメリットといえるでしょう。
現在はアクティブインサレーションをはじめとした高機能化学繊維が高い注目をあつめています。しかし着た人にはわかるウールの良さが確かにあります。繊維の細さによる肌触り、保湿・保温機能、防臭機能、こうした特徴はいつの時代もメリノウールアンダーの大きなアドバンテージです。そしてフード&サムホールというデザインによる適応温度帯の拡大。2000年代以降、ウールフーディーはハイキングアパレルのスタンダードです。そしてIbexインディーフーディーはそのパイオニアのひとつとして今でも色褪せません。