UNBOUND40

より遠くへ、休憩はとらず、淡々とひたすらに歩き続ける。そんなFKTを強く意識したスタイルが2020年代のULハイキングの潮流です。FKTスタイルでのスルーハイキングのために開発されたハイキングバックパックがUNBOUND40。

仕様

重量
ホワイト 850g(M)
本体:630g
ウエストベルト:170g
アルミステー:50g
ブラック 914g(M)
本体:694g
ウエストベルト:170g
アルミステー:50g
容量
本体:40L
ポケット:9L
寸法
高さ:82.6cm
背面幅:25.4cm
底部周囲:88.9cm
素材
ホワイト:本体 DCH50、底部 DCH150
ブラック:本体&底部 DCH150
サイズ
S、M、L
カラー
ホワイト、ブラック
価格
ホワイト:¥66,000
ブラック:¥70.400

より遠くまでを求めるハイカーへ
FKTスタイルに対応した
2020年代のスルーハイクモデル

汎用ハイキングモデルであるウインドライダーに対して、現代のスルーハイカーのスタイルを強く意識したスルーハイク専用モデルがアンバウンド。
ブラックは本体生地に底部と同じ地厚のDCH150を採用しているため、重量、価格共にホワイトとは異なります。

Hyperlite Mountain Gear(ハイパーライトマウンテンギア)創業時のオリジナルラインナップは「ウインドライダー2400」「ポーター3400」「アイスパック2400」の3モデル。その中でもウインドライダー2400はアパラチアン・トレイルのハイキングを念頭においたハイキングバックパックとして長くHMGのフラッグシップモデルであり続けています。そのウインドライダーはこの10年間でポケット素材を多様化させることで様々なバリエーションを生み出しました。アメリカ南西部のデザートエリアで固いトゲを持つ灌木への対策として生まれた「サウスウエスト」。深いドライキャニオンを有する中西部での立体的なオフトレイルハイキングでバックパックが岩に擦れても安心な「ノースリム」。多様な地理的特徴や気候帯に幅広く対応するための「ジャンクション」です。
ウインドライダーのシンプルなデザインと構造はULバックパックとして完成されています。シンプルだからこそ様々なハイキングスタイルに応用がきく汎用ハイキングバックパックの代名詞なのです。

2010年代のULハイキングシーンを支えてきた汎用ハイキングモデルがウインドライダーだとすると、2020年代のULハイキングシーンを支えるFKT対応スルーハイキングモデルがアンバウンドです。HMG本国ホームページのアンバウンドの製品記載には「Thru Hiking(スルーハイク)」「Established Long Trail(管理運営されている長距離トレイル)」「Pack for the longest Trail(超長距離トレイルのためのバックパック)」こうした言葉がみられます。同じハイキングバックパックで何が違うのでしょう。ウインドライダーとアンバウンドとの製品意図の違いを理解するには北米におけるULハイキングのスタイル変遷をおいかけるのが最適です。

この記事で概観したように2010年代のマルチスポーツの潮流に対応しているのがウインドライダー、2020年代のFKTの潮流に対応しているのがアンバウンド、そのような意図が本国HPの製品紹介にあらわれています。同じハイキングバックパックでもそれぞれの個性が違うのです。

UNBOUND40

アンバウンド40は「FKTスルーハイキング」という明確なコンセプトがあります。しかしそのベースとしてウインドライダーの存在はやはり無視できません。シンプルな汎用モデル(ウインドライダー)から専門モデル(アンバウンド)への展開と考えてもよいでしょう。

フロント、サイドのポケット配置はULバックパックの基本を踏襲。ボトムポケットはFKTスタイルを象徴するアイコン。
背面側の最大の特徴はウエストベルトの脱着が可能であること。かつてウインドライダー1800というモデルが2年間ほどラインナップされていましたが、HMGではそのウインドライダー1800以来の脱着機構です。
バックパックの縫製パターンをウインドライダーから変更。それによってサイドパネルに効果的にバンジーコードを配置できるようになりました。

FKTスタイルのアイコン

2015年創業のPA'LANTE、彼らのバックパックで登場したボトムポケットはFKTをキーワードとする現代ULハイキング、ULバックパックの新たなアイコンです。バックパックを頻繁におろして休憩するならバックパックの底部にポケットを配置しようとは考えません。バックパックをおろすような休憩はとらずに、淡々とひたすら歩き続ける。そんなハイキングスタイルだからこそボトムポケットはうまれました。歩きながら、バックパックをおろさなくてもアクセスできるポケットをいかに配置するか。それが FKTをキーワードとするハイキングスタイルの関心事ですし、バックパックのデザインにも大きな影響を与えました。ボトムポケットは2020年代のFKTスタイルULバックパックのアイコンなのです。

ボトムポケットに何を入れるかにはハイカーの個性が反映されます。行動食、グローブ、ネックウォーマー、ウインドシェルなどなど。ちなみにユーロシュルムの傘のような折りたたみでは無いモデルをボトムポケットに挿すことも可能です。

多彩な収納ギミック

FKTというスタイルだけでなく、スルーハイクという期間をコンセプトにしていることもUNBOUND40のポイントです。ULを標榜するメーカーだけに容量は定番モデルであるウインドライダーの基本容量40Lと変わりません。そのうえで多彩な収納を可能にするため、各所にちょっとした工夫が凝らされています。特にフロントポケットの2重構造は小さな収納物へのアクセス、メインポケットの下の方に収納したモノへのアクセスを容易にしました。ボトムポケット同様、ダイニーマメッシュの採用もUNBOUND40の特徴になっています。

二重構造のフロントポケット。小さなギア類は手前の低いポケットに、長物や大きなものは背の高いメインポケットに、収納場所を分けて活用できます。またメインポケットの下部から収納ギアの出し入れができるようにもなっています。
ウエストポケットはウインドライダーやポーターなどの定番モデルと同容量。サイドポケットはペットボトルを2本ずつ収納できるよう、定番モデル以上の大容量となっています。

バックパックのパネル構造もウインドライダーやポーターなどの定番モデルから大胆に変更されています。レイ・ウェイバックパックの基本パターンを踏襲した構造です。これによりサイドパネルにデイジーチェーンが取り付けられるようになりました。大容量のサイドポケットに長物を収納した場合、それを押さえ込むバンジーコードが自由に配置できます。

写真のオレンジのテープがデイジーチェーン状に縫い付けられています。バンジーコードの配置はかなり自由におこなえます。

全縫製箇所の目止処理

ウインドライダーやポーターなど従来のHMGのバックパックは半筒状にした本体に背面パネル、底部パネルを縫い付ける構造をとっていました。これに対してアンバウンドは表から底部、背面までを一枚のパターンで構成。サイドパネルを縫い付ける構造になります。この構造変化によってサイドパネルにバンジーコードなどを配置しやすくなったことはすでに述べましたが、最大のメリットは全縫製箇所のシームテープによる目止め処理がおこなえるようになったことでしょう。HMGのバックパックはこれまでも高い耐水性を誇ってきましたが、その精度が更にあがりました。完全防水ではないものの、雨天時の使用における安心感はかなりものになりました。バックパックの完全防水化は登山形態によってはメリットばかりではありませんが、アンバウンドが想定しているトレイル、登山道を舞台にした長距離ハイキングでは間違いなくメリットのひとつでしょう。

いままでのHMGバックパックではシームできなかった底部に縫い目がなくなったことで、全縫製箇所へのシーム処理が可能になりました。なお、装備されているアルミフレームはセンターのみの1本となります。

ミニマム重量630g

収納面における工夫や、パネル構造の変更による耐水性の向上など、表面的なデザイン変更にとどまらない進化が施されたアンバウンドですが、軽さへのこだわりも忘れていません。
かつてウインドライダーには2年間だけ1800という容量がラインナップされていました。1800最大の特徴はウエストベルト脱着です。容量が小さいのに脱着機構のため2400よりも重たい。その事実によりハイカーからの評価は得られませんでした。長距離トレイルのスルーハイクでは水食料がどんどん増えていきます。いくらベースウエイトを削っても、パックウエイトは増大する傾向にあります。そのためスルーハイカーをターゲットにしたバックパック作りをしているUL系ブランドの場合、40L以上のバックパックには腰荷重を可能にするウエストベルトが標準装備されているのです。しかしUL化を推し進めるのであればウエストベルトは省きたい。これはULバックパックの基本的な考え方であることに変わりはありません。FKTというUL化を促進させるスタイル、スルーハイクというパックウエイトの増加を無視できない用途、その両方に対応するためウエストベルトの脱着が採用されたのでしょう。

ウエストベルト、アルミステーを取り外したミニマル重量は630g

2022年冬のアンバウンド発表時には完成度が高く、長年ULハイキングシーンを支えてきたウインドライダーをはじめとする従来のベーシックラインが存在するのだからアンバウンドは不要ではないか。そのように感じたハイカーも少なくないでしょう。わたしもそのように考えたひとりです。しかし先行する専門モデルであるプリズム、ヘッドウォールを手にし、ULハイキングのスタイル変遷を整理すると、現代のULハイキングやスルーハイキングのニーズにあわせたあらたなハイキングバックパックの発表は当然の流れだと理解できました。実際に構造などをつぶさに観察すると表面的なスタイルの模倣ではないHMGの本気を感じることができました。現代ULのエッジに対応したアンバウンドも、色あせないULバックパックのスタンダードであるウインドライダー同様、多くのULハイカーに使っていただきたいバックパックです。