PCTやArizona Trail、日本のハイキングを通して感じたものと加藤則芳との会話をきっかけに、日本の長距離ハイキングのあり方、可能性を模索した "五国ロングハイキング”。ハイカー長谷川の記録。その3(全3回)
五国ロングハイキング
〜日本のロングハイキングの可能性〜
Part 3 構想とトレイル紹介
記事:長谷川晋 aka Turtle
五国ロングハイキングの構想
- 以前から気になっていた苗場山から浅間山へとつながる道。その話を加藤則芳さんにした時に、加藤さんも歩きたいと話していた。
- AT や PCTは歴史に深い関わりのあるエリアを通ることが多く、そしてトレイルの大部分が有名な国立公園や国定公園ではない ”ローカルトレイル”。
- 歩くルートを考えた時に、古くは公益の道や街道も多く、古人の愛した山域とローカルトレイルを選びたいと思った。
- 道をつなぐために山を歩き、歩き続けるために町をつなぐ。繋いでいくこと。続けていくこと。
昔日の旅人のように歩きたい
ロングトレイルという言葉とロングハイキングという言葉
昨今安直に使われるロングトレイルという言葉への思い。ロングトレイルの定義がないとはいえ、ハイキングカルチャー、ハイカー不在 に見える多くの日本流ロングトレイル。縦走登山とは異なる、自由なハイキングへの憧れ。”ロングトレイル”を歩きたいのではなく、長い時間をハイキングに費やし、長い距離をハイキングしたい。そんな思いを込めて、ロングハイキング(Long Distance Hiking)という言葉を使うことを決めた。
トレイルの選定にあたって
町、村や里に下りることはロングハイキングの醍醐味の一つ。多くの古人、登山者は当たり前に里と繋がりながら旅を続けていた。補給をすることは続けるために必要なこと。それを意識しながら道を選んだ。
- 人と自然、里と山、川をつないで歩くことはロングハイキングをもっと魅力的にする。
- 多くの道、峠は人の生きてきた証。
- 人の歩くところに道はできる。峠はできる。
- 山を越え道を歩くことは、人と自然の歴史を追体験すること。
五国 Long Distance Hiking トレイル紹介
トレイルは4セクション
Section A 関東山地 甲斐〜武蔵
Section B 秩父・西上州 武蔵〜上野〜信濃
Section C 上信国境 上野〜信濃
Section D 信越国境 信濃〜越後
Section A 関東山地 甲斐〜武蔵
河口湖駅 から 秩父 川又バス停 まで
参考:手書きのデータブックSection A Data Book[JPG]、トレイルティップス Trail Tips [PDF] or [text]*PCではダウンロード
歩行日程:2013/5/28 〜 6/1、Zero Day 無し
概要:河口湖駅をスタートし、北へと向かう。特徴としては急な登り下りの多い、関東らしい山。前半水場が極端に少ないため、一旦笹子や初狩へ向かうのも良い。大菩薩を経て、進路をやや西へ。三窪高原をかすめて、再び北へ。秩父の山を歩き、補給の為、川又バス亭。時間に余裕があれば、Section B を少し歩き、行けるところまで行ってからバスで町に行ってもよい。補給のため秩父の町へ。ホテル泊し、ランドリーで洗濯。偶然町中で友人に会う。これもまた旅の楽しみか。
Section B 秩父・西上州 武蔵〜上野〜信濃
秩父・川又バス停 から 軽井沢駅 まで
参考:手書きのデータブックSection B Data Book、トレイルティップス[PDF]or[text]*PCではダウンロード
歩行日程:2013/6/2 〜 6/5、軽井沢にて Zero Day 6/6 ~ 6/7
概要:たくさんのトンネルを抜けて両神山のふもとへ。ニッチツの廃墟を抜け、歴史ある赤岩峠を越える。古くは採掘した鉱物を運んでいた運搬公益の道。ニッチツ鉱山から赤岩峠間は、地図によって破線となっているが、ニッチツ側は登山道が明瞭。上野村側は沢中に入るとやや道わかりずらくなるが、マーク有り。丁寧に歩けば問題は少ない。上野村集落を抜け里へと。武州街道を通り次の山へ。そして次の里へと抜けていく。数多くの峠。短い距離でも峠を越える度に文化が変化するのは日本ならではの現象。加藤則芳さんの受け売りだ。日本らしい風景が残る道々。西上州らしい岩峰の山々は見晴らしが良い。日本最初の洋式牧場「神津牧場」は120年の歴史。多くの登山家たちにも愛されていた。歩きやすい稜線をたどり、八風山を下りれば、軽井沢となる。
Section C 上信国境 上野〜信濃
軽井沢駅 から 草津白根 まで
参考:手書きのデータブック Section C Data Book、トレイルティップス [PDF]or[text]*PCではダウンロード
歩行日程:2013/6/8 〜 6/11、草津にて Zero Day 6/12
概要:軽井沢から浅間山へ。古くより愛された山。また修験の山でもある。軽井沢からしばらくは観光客も多いエリア。浅間山を登らずに迂回する道を選択。未舗装の林道。稜線を通らないハイキングルート。今までのエリアと違い情報は乏しい、もしくは情報のないところが多い。幾つかの地図を合わせて確認することも。未知への不安と挑戦。このセクションからは火山帯を北上。まるで日本の Cascade Range(PCTにある山脈)。火山帯は飲めない水も多く注意。川が鉄の色に濁っていることも。水場は多くない。麓や里に下りた際にお店も利用して水を確保。四阿山の先、浦倉山から毛無峠間は事前の調べで数年間草刈りに入っておらず、時間が読めない上に、一般に歩ける状態では無かったので Detour。この時は一度山を下り草津までロードウォーク。2014年秋は草が刈ってあったとの報告あり。数年に一度測量もしくは県境調査のため笹払いが入るようだが不確認。毛無峠周辺水は皆無。要注意。自然環境による迂回や予定変更は長旅、ロングハイキングならでは。ダメならば違う道を行けば良い。ロングハイキングは ”旅”。だからこそ選べる道がある。
Section D 信越国境 信濃〜越後
草津白根 から 苗場山 まで Extra Route:苗場山 から 森宮野原駅
参考:の手書きのデータブックはこちら Section D Data Book、トレイルティップス [PDF]or[text]*PCではダウンロード
歩行日程:2013/6/13 〜 6/17、Zero Day 無し
概要:志賀高原から苗場山へと向かう。志賀高原に近づくと湿原が見られる。湿原は低温になるからこその現象だけに、北もしくは標高が高いことを意識する。火山の山の特徴でキレイに見える水でも飲めない。池や湖も生物の生存ないところが多い。残雪が目に見えて増えてくる。入る人が少ない道が荒れている。このままでは数年で消えていく運命かもしれない。野反湖から一山越えると植生に変化が。日本海気質と呼ばれる植物の大型化。谷を下りれば魚野川水平歩道。野反湖キャンプ場から友人合流。新潟近くなるとさらに増える残雪。苗場山付近は残雪多く、諸般考慮により越後湯沢側へ下りることとなり、大幅な時間増、大きな迂回を余儀なくされた。苗場山周辺の道は主要ルート以外は地図上実線でも道不明瞭な箇所多く、十分な時間の余裕もしくは体力や読図技術等も欲しいところ。主要ルートを上がって下りるのが一番問題が少ない。
僕の思うこと
旅への憧れがあった
グレートジャーニーという人力の旅との出会い。そして人間は旅をしてきた動物と知った。青春18切符を持って初めての一人旅へ。そして自転車旅へ。旅の中での出会い、助け、学び。アメリカ長距離バスの旅の中で知った”AT”の存在。ロングトレイルへの興味。ハイキングとの出会い。そしてPCTへ
旅をする動物
人間は移動し、発達してきた。人間がもつ、移動する喜びと発見する喜び。旅という行為は人間の中にある喜びの本質の一つではないか。
歩くという行為は人間の原始的行為。そして唯一人間に許された二足歩行。だからこそ、歩くことは人間の根源的な喜びを感じさせてくれる。
人生はバックパッキングだ
どんなに丁寧に予定を組んでも、数週間、数ヶ月の旅になれば、何が起きるかわからないし、思い通りにはできない。どうせ思い通りにならないなら、その出会い、ハプニングを楽しもう。
人生は思い通りにならない。だから面白い。
ハイカーの指針
PCTの相棒 チャーリーが教えてくれた "Hiker Direction" という言葉は僕の心を自由にしてくれた。なんでも好き勝手にしろということではない。自らが責任を持ち、自分の体力や技術にあった選択をし、行動すること。そうすることで誰にでもハイキングの可能性は開かれる。
自由なハイキング
ハイキングは自由で開かれたもの。誰かが決めた道を歩くことが偉いのではない。長く歩いたからすごいのではない。誰かと比べ競うものではない。肉体に恵まれた誰かだけの特別なものではない。誰もが自分が歩くべき道を選択し、楽しむ自由がある。
一人一人が責任を持って選択することによって、ハイキングはさらに想像豊かになる
道を思い描くこと
アメリカみたいなトレイルは、日本では作れないだろうと考える。結果、ただ登山道を少しだけつなげた日本流ロングトレイルが出てくる。しかしそれは本来の形とは異なるもの。
PCTですらかかっている途方もない時間。構想から着工まで約40年の1968年のこと。盛り上がりを見せはじめたのは2000年に入ってから。実に70年以上かかっている。
数年でできてしまうものは、自然歩道のようにいつか形骸化し、風化していく恐れが大きい。
五国ロングディスタンスハイキングとは
日本のハイキングのこれからの可能性を広げていくことができる一つの方法だと思う。この動きがもしも大きくなれば、日本にも名のついた本物のロングトレイルが生まれるかもしれない。五国ロングハイキングが、みんなが考えるきっかけ、その一歩となればと願う。
自分一人でも歩き続けよう いつか周りに仲間がいるかもしれない まるでPCTを歩いた時のように
おしまい
2014年は縁あって書かせていただいた「Long Distance Hiking」の執筆と愛息誕生により”続き”ができませんでした。2015年から”続き”をつなげるため、五国ロングディスタンスハイキング南部編として、河口湖から箱根を越え、三島、伊豆と歩き、河津駅までのおよそ200 kmほどをつなぎました。五国ではなく七国になってしまいましたが、このルートもとても美しく変化に富んで面白かったです。その模様はまた別の機会に!?これは僕のライフワークです。まだまだ繋いで繋いでずっと歩いて行けたらと思っています。できる時に、できるだけですけど。
Hiker / Shin "Turtle" Hasegawa