ウルトラライトハイキングという文化が芽吹いた場所がアメリカ西海岸のパシフィッククレストトレイル(以下PCT)だとすれば、その種が最初に蒔かれたのはアメリカ東海岸のアパラチアントレイル(以下AT)だと言えます。ハイパーライトマウンテンギア(以下HMG)はそんなATの終着点であるメイン州ビデフォードにおいて、ATスルーハイカーであるマイクとダンのサンピエール兄弟の手により2010年に創業しました。
スタート直後はとことんまで軽さを追求していない点やDCHという新素材がファッション的だと一部のハイカーから揶揄され、決して順風満帆とは言えなかったHMGですが、ブレないモノづくりの姿勢で自らのスタイルを世の中に広めてきました。そんな彼らが生み出す道具に惹かれて、ハイカーズデポはHMG最初のインターナショナルディーラーとして2011年から同社製品を取り扱っています。
当時の西海岸ガレージブランド創業者勢と比べて歳がひと回り若かったサンピエール兄弟や異素材を使ったギアの印象から、文字通り「新世代のULガレージブランド」と記憶に刻み込まれたHMGですが、今ではビジネスの規模が大きくなりガレージブランドとは呼べない知名度と開発力を持つようになりました。そんなHMG社のバックパックにおいて中核を成すのがウィンドライダー。そして、その派生モデルであるサウスウエスト。両モデルはポケット部に使われる生地が違うだけで、あとは全て同じ作りとなっています。そのため、このページでは両モデルの特徴を一緒に説明していきます。
Windrider40

まず始めにウィンドライダーについて触れると、HMG創業当時からあるフラッグシップモデルです。現在までに様々な派生モデル(サウスウエスト・ジャンクション・ノースリム)が展開されていますが、それが可能なのもベースとなるウインドライダーの完成度があってこそ。視認性と排水スピードに優れたメッシュポケットは彼らが創業したアメリカ東海岸の湿潤な気候に適応するための作りですが、同じような気候である多雨多湿な日本にもぴったりと言えます。
Southwest40

続いてはウィンドライダーの兄弟モデルであるサウスウエスト。アメリカ南西部のデザートエリアでは、固いトゲを持った灌木がバックパックへ干渉するため、ウィンドライダーのようなメッシュポケットでは引っかかって面倒です。織生地ポケットを縫い付けたサウスウエストは、そんな環境で使われることを前提に開発されました。その仕様は日本の沢登りやバリエーションルートのような急峻な岩場や藪が繁る森林においても有効です。ポケットには水が溜まらないよう、ちゃんと水抜き穴が設けられています。
現在は両モデル共に40L・55L・70Lの容量展開がされていますが、創業時のオリジナルウィンドライダーは40Lのみ。それはULハイカーならこの容量で十分と考えるHMGの基本思想とも言えます。ハイカーズデポでは軽量化への姿勢とオリジナルモデルに敬意を表して両モデルとも40Lを展開しています。
新ウィンドライダー・新サウスウエストの仕様変更点
そんなHMGの中核モデルであるウィンドライダーとサウスウエストですが、2025年夏に仕様変更が行われました。以下では変更された点について説明していきます。個人的に1・2・3は大きな変更点だと感じます。4・5・6・7・8は感想に個人差が出るでしょう。これ以外にも各部に施されたアクセントカラーの配置やブランドロゴサイズの若干の変更などもありますが、機能に関係ないので割愛します。(説明写真はウィンドライダーを使用していますが、サウスウエストも変更点は同じです。)
1、生地 Dyneema® Woven Composite3.9への変更
新開発のDyneema® Woven Composite3.9(以下DWC3.9)を採用。それまでのDyneema® Composite Hybrids(以下DCH)と比べて更に生地強度が上がりました。これをもう少し詳しく説明すると、DWC3.9とDCHに使われる主要素材はダイニーマ繊維であり、その強度は同重量の鉄と比べて15倍の強さを誇ります。前ウィンドライダーに使われるDCHは「表層ポリエステル/中層ダイニーマ繊維/裏層フィルム」の3層ラミネート構成で、生地強度は主に中層が担います。新ウィンドライダーのDWC3.9は「表層ダイニーマ織/中層ダイニーマ繊維/裏層フィルム」で、生地強度は中層だけでなく表層も高めてくれます。つまり今までと比べて高強度なダイニーマ層が増えたので、より強くなったということです。
メーカー公表によると新DWC3.9と前DCHの強度比較は、バッグ本体部が「同重量ながら耐摩耗性が10倍増」となり、バッグ底部は「25%軽量化され耐摩耗性が2倍増」とのこと。ここまで読んで「???」となったしても大丈夫。数字の説明だけで実感できる人はいないでしょうし、私達も全くピンときません。実感で言うならDCH自体も高強度な生地であり、私達はそれをハイキングだけでなくオフトレイルでも酷使してきましたが、今まで不満を覚えたことはありません。なので「今までも十二分に強かったけど更に丈夫な生地が出てきた」くらいの認識で良いと思います。
防水性

強度以外に気になるのは生地の防水性。こちらもメーカー公称値となりますが、DWC3.9の対水圧値は20,000mm以上。一般的な登山用レインウェアと同じ数値で高い防水性を誇ります。以前のDCHも防水性が高い生地でしたが、その点においても引き続き安心できる仕様となっています。また、主要な縫い目には目止めが施されているので、縫い目からの浸水も心配ありません。ただし、底部だけは目止め処理がされていないので、水に浸かって行動したり落水が想定される場合は、パックライナーやドライバッグを併用して防水性を高めてください。
疎水性

また、防水に関わる点で見逃せないのが生地の疎水性。HMG社のバックパックは生地が水を吸わない=バッグの自重が増えない=重くならない点でも素晴らしく、それを徹底するために腰部を除き背面に汗を吸うパッド類はありません。これを「暑くて蒸れそう」と考える向きもあるでしょうが、涼し気に見える背面メッシュ構造だとしても背中に密着する以上はどんな作りでも汗をかきます。
換気重視の「パック本体から背面パネルを離して浮かせた構造」ならその点が緩和されますが、背面を浮かせるために構成されたフレームのせいで荷室が侵食されます。その結果、荷物が入れ難くなり表記容量よりも小さく感じるのは、使ったことがある人なら頷くでしょうし、そのフレームを含めた背面構成によりパック重量も重くなります。また、浮かないまでも吸汗を謳うメッシュパッド構造は、汗を吸うことで重量増と臭いの元になるだけでなく、冬山においては雪の付着原因となります。
何事もそうですが、同じ物を見ていても視点次第で見え方が変わります。これらの解釈は私達がそう考えるだけで、それが絶対に正しいとは言いません。ただ、水や汗を吸わず雪も詰まりにくい生地で構成されたHMGの背面は、ハイキングだけでなくアルパインクライミングや沢登り、パックラフトなどにも相性が良いと私達は思っています。
生地感と色による重さの違い

ゴワゴワとした厚紙のような質感だったDCHと比べて、DWC3.9は織り面が上層にくるので見た目は普通の生地と変わりません。昔を知る人なら、やや光沢がある500Dくらいのコーデュラナイロンと言えば伝わるでしょうか。
前ウィンドライダーは生地色ホワイトとブラックで生地厚が変わり、それ故に選ぶバックパックの色で重さが変わりました。ハイカーズデポではその重量差からメッシュポケットのウィンドライダー→藪漕ぎがない一般登山道に最適→生地への負荷が少ないのに重くする必要はない→ホワイト、生地ポケットのサウスウエスト→ポケットが藪漕ぎで干渉しないのでバリエーションルートや沢登りでも使える→生地への負荷が増える用途なので強度重視→ブラック、と用途を考慮して取り扱う色を選んでいましたが、新仕様からは色による重量差がなくなったので両色を取り扱うことにしました。
2、サイドコンプレッションベルト

着脱が可能になりました。取り除いて軽量化を図ることは勿論、その仕組みを利用して位置を上下にずらすことも可能です。長さ調整パーツはアジャスターからバックルへ変更されたので、トレッキングポールやテントポールなどの長尺物を差し込む際に便利です。また、ベルトをバッグ正面へ渡せば、パック内やポケットへ入れにくい物(スノーシューやスリーピングパッドなど)を固定することができます。ちなみに前仕様でもバックルとテープを付け足せば同じことが可能です。
3、デイジーチェーン

バックパック正面へ2本のコード状デイジーチェーンが新たに配置されました。サイドコンプレッションベルトとの接続部分にもなっていて、その位置調整に一役買います。収まりきらない荷物を止むなく外付けする際や、何かを引っ掛けたりする時に重宝します。
4、ショルダーベルト

付け根からのS字カーブ具合がやや強くなると共にベルト幅が若干幅広になりました。デイジーチェーンのステッチ間隔が狭まったので、チェストベルトの高さ調節がより細かくできます。
5、サイドポケット

ポケットの縫い付け位置をやや低くして物を出し入れしやすくしました。
6、ハイドレーションリザーバーのホース出し口

右ショルダーベルトの上へ移動されシンプルな作りになりました。
7、 アックスホルスター位置

左側寄りになりアックスの柄を留めるコードが追加されました。
8、内部ポケット

内メッシュポケットを省略。別売りポケットを必要に応じて後付けできるよう、ループが2箇所設けられています。
以上が新しくなったウィンドライダーとサウスウエストの仕様変更点です。そして以下は前仕様から変わっていない部分の説明となります。
ショルダーベルトへのアクセサリー取り付け

ショルダーベルトに縫い付けられたデイジーチェーンを利用して各種アクセサリー(ボトルポケット・ショルダーポケット)を取り付けられます。同じような接続パーツが次いていれば、他社製のものでも取り付けられます。
ウエストベルト

幅広なパッドを備えたウエストベルトは荷重の分散に役立ちます。ポケット付きなので、スマートフォンやカメラ、行動食に地図などを入れるのに便利です。
トップストラップ

Y字型なのでスリーピングパッドなどを外付けする際にしっかりと固定できます。
フレーム

アルミフレームが2本備わっていて、荷重の分散や背面の歪み防止に役立ちます。フレーム2本/110gの軽量化を目的として抜いて使うことも可能です。尚、抜く場合はどのように入っていたか「フレームの上下表裏が分かるように印」をつけて、後で戻したくなった時に困らないようにしておいてください。既に困っていて途方に暮れている人はスタッフまでご連絡ください。
ここまで読んで「結局のところ新・前のどちらが良いの?」と悩む方もいるかと思います。人によって関心を持つところが分かれるでしょうが、仕様変更の中で2のサイドコンプレッションベルトの脱着・位置アレンジが可能な点と、3の色々と応用が効くデイジーコードチェーンの新設は個人的に嬉しい作りです。価格は前仕様の方が幾分安いので、もし適応背面サイズが残っているなら検討するのも良いと思います。とても乱暴に結論づけるなら、余程特殊な使い方をしない限りは新・前どちらを選んでも不満を持つことはないでしょう。


