Zelt II Wide

結露が少なく軽くて温かい。一度使うとその魅力がわかるfinetrackのツェルトシリーズ。それをちゃんと2人で使える“ワイド”幅にしてハイランドデザインオリジナルとしてリリースしました。色の名前は赤朽葉(あかくちば)。

結露が少なく軽くて温かい。一度使うとその魅力がわかるfinetrackのツェルトシリーズ。それをちゃんと2人で使える“ワイド”幅にしてハイランドデザインオリジナルとしてリリースしました。色の名前は赤朽葉(あかくちば)。

仕様

重量
383g
本体:378g
収納袋:5g
サイズ
フロア:全長220 x 幅130cm 
天井高:95cm
天頂部長:170cm
素材
生地:15D リップストップナイロン PU透湿コーティング
耐水圧:1,000mm
透湿性:8,000g/m2
カラー:赤朽葉(Aka-Kuchiba)

1人での「積極使用」から2人での「積極使用」へ

ツェルト2ロングがスルーハイキングのような多様な季節・環境に対応しながらの生活に向いたソロ向きの超軽量テントだとすると、2人でのスルーハイキングでのキャンプライフ、近くの山での親子のオーバーナイトスローハイキング、荷物が制限されるグループでのリバーツーリング、2人でさらなる軽量化を計るULハイキング、荷物を小さくまとめたいチームレーサーまでをカバーする、2人のための超軽量テントです。2人でのオーバーナイトハイキングを軽く、楽しく、自由にハイキングして欲しい。そんな思いが詰まっています。

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“ワイド”というくらいなので、ツェルト2ロングよりも幅が広くなっています。幅は広過ぎずかといってギリギリにもならないように130cm。スリーピングマットが二枚並べても腕がぶつからないくらいの十分な余裕があるように考えました。ですので、名称通り、ちゃんと2人が寝られるテントになっています。ですが、重量は実測で378g(本体のみ)と非常に軽量です。

奥行きはロングと同様の220cm。高さは非常に苦しい悩みでしたが、95cmと同じくしました。理由はツェルトをしっかり張る場合は上に引っ張り上げる必要があり、その場合に必要なポールはツェルトの全高が上がるほどに長くなしなければならないからです。

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通気口の形状はオールドスタイルに戻しました。今の側面に付く形状が悪いわけではないのですが、あれはあくまでもタープとして使うためという前提があっての機能です。しかしテントとしてのみ使うのであれば不要なので、より雨水や風が入りにくいように縦側に戻しました。ですがジッパーは現行品と同様に上下のどちらからも開閉できるダブルスライダーを採用し、換気を行いやすいようにしています。

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内側にはループを天頂部に合わせて5ヶ所付けています。全てのループに通して端と端だけを結べば、ものをぶら下げるのに使えますし、たるんで真ん中にだけ集まってしまうことも防げます。

出入り口は両側にあるので、それぞれの出入り口や調理スペースとして使えます。床は完全に開くのはやめました。要するにテントとしての使用に制限したわけです。ですが土間として使えるように両側共に床が部分的に開けるようにしました。

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サイドリフターは横に三ヶ所。高さは下からおよそ30cm。この位置は“ロング”よりも低いです。ツェルト2ロングの幅だと肩幅のある男性はやや高めの位置からサイドリフターを引かないと肩付近に余裕ができません。ですが“ワイド”ならばサイドリフターを引かなくても十分な幅があるのです。けれど寝る時に2人が並んで、しかもスリーピングバッグの膨らみがあるのを考えると、おおよそ地面から30センチくらいのところを外に引き出せば広々と寝ることができるのです。さらにサイドリフターを低くするほど張り出しの距離は短くなります。幅が“ワイド”なぶん張り出しの距離を短くすれば、全体的な張り出しスペースを取らなくても設営できるようにとの工夫です。

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なぜツェルトが人気を得るに至ったのか

原点回帰という言葉では片付けられない何かがあるのでしょう。この数年で、ビバーク用品としてだけでなく、軽量な非自立テントの一つとして認知されるようになったツェルト*ドイツ語でテントの意味。そのきっかけを作ったのは、ファイントラックがリリースした超軽量な防水透湿性生地を使用したツェルトで、それが「緊急用ではなく積極使用」を推進しました。それは forecast bivouac(予測してのビバーク) としてはもちろんのこと、いわゆる“テント”としての使用のことでした。それより数年後、ウルトラライトハイキング(以降ULハイキング)文化が日本でも広まる中で、ツェルトがさらに注目を浴びることになりました。

ツェルトの良い点は軽くてコンパクト。防風性、耐風性。それもそうですが、なんといっても床があることです。これは防水性という観点だけの良さではありません。風が下から入ることを防ぎ煽られにくくなる、すなわち耐風性が高いということです。耐風性が高いのであらゆる環境での使用が可能になります。

快適さでは勝るダブルウォールテントは今ではテントの定番です。結露が直接見えないまたは触れないので快適ですが、フライシートの構造上耐風性という点ではシングルウォールテントに敵いません。しかも軽量化をするために生地がどんどん薄くなるにつれ強度面では不安が残り、価格も高くなる傾向にあります。

シングルウォールテントは、フライシートが無い分耐風性が高く、密閉性保温性に優れることや、設営がダブルウォールと比べ簡単なのが特徴です。ですが一般にダブルウォールより重く、結露がダイレクトになりますし、さらに高価でしょう。

ツェルトはいわば非自立式テントなのですが、一番そこがハードルと感じる人も多いでしょう。どうやって立てるの?1人で立てられるの?確かに僕も初めはそうでしたが、やってみると数回でどんどん上手になり、意外と簡単なのが分かります。ポイントさえ押さえてしまえば設営は大して難しくないのです。本当です!
さらにファイントラックのツェルトが登場してからというもの、結露もしにくくなり快適性も増しました。ものにもよりますが、時に自立式ツェルト*非常用としての意味で解釈と言われたりするテントと比べれば圧倒的に結露しにくいです。それは透湿性を重視した素材選びの結果ですが、耐水性も傘と同じように生地に張りを出すことによって補っています。だからファントラックはその張りが出やすいようにテンションのかかるラインにダイニーマテープを入れているのです。
もちろん、雨の中では空気中の湿度が高いため結露を防ぐことはほとんどできませんが、かなりの確率で結露をせずに朝を迎えた経験が僕にはあります。雪の中でも条件さえ合えばほとんど結露しなかったこともあります。

そして、ツェルトが広まる決定的なきっかけは当店別注から始まったツェルト2ロングの発表だったのは間違いないと思います。それは長さを変更したことでさらに快適性を手にいれただけではなく、カラーも当時非常用として主に考えられていたツェルトにはない、自然の中で馴染みやすい「青朽葉」(現行ではMOSSと呼称)という色を採用したことも大きな要因となりました。そして今ではファイントラックのレギュラーラインナップになっています。

 

ワイドへの道

ツェルト2ロング以前はツェルト2で2人使用というのは大学探検部経験者やストイックな沢屋やクライマーたちに限られたいたように思います。ですので、お客様からも「2人で使いたい」なんて言われたことはありませんでした。いや、そもそもツェルトにたいして人気がなかったのかもしれません。

ところがツェルト2ロング以降、軽くコンパクトに行きたいグループ、カップルやファミリーから「2人で使えるのか」というご質問が増えたように思います。長くなったぶん大きくなったように感じるからでしょうか。ですがその都度お答えしていたのは「できなくはないけれどオススメしません。」でした。

たしかに“2”は2人用という意味ではあるのですが、あくまでもギリギリ2人が横になれるサイズです。ツェルト2ロングの幅は100cm。通常のマットは幅50cmなので、二枚並べたら幅に余裕はありません。それだけ聞けばなんとかできそうですが、ツェルトは三角屋根のため、一番幅が広いの底面でそれより上にいくほど幅がどんどん狭まるのです。結果、スリーピングバッグに人が入ると常にツェルトの壁に触れている状態になります。そうすると寝袋が結露の影響をダイレクトに受けてしまいますし、寝袋の保温力にも変化が出るのです。ではスリーピングバッグカバーを併用すれば良いのではと思いがちですが、透湿性があるスリーピングバッグカバーで1人150g〜200g、2人合わせて300g〜400gのものを持つようになりますが、だったらその重さ分を足した別の軽量なシェルターやテントを探した方が良いかもしれません。それにテントの保温性を最大限活用するためには、密着しないようにすることがとても重要なのです。

では幅の広いツェルトはないのかといえばあります。アライテントでは幅だけでなく高さも含め広いツェルトまたはツェルトと同形状のシェルターを出しています。しかし、結露がしにくいとは言えないものです。またツェルト設営において重要なテンションをかけるためのダイニーマテープで補強するという方法はファイントラックならでは。そこで改めてファイントラックへの協力を仰ぎ、ツェルト2ワイドの制作となりました。

実は構想自体は2013年頃から始まっていました。ツェルトにこだわって考えていたわけではありませんが、「2人が使えること」「軽いこと」「風に強い」ことなどいくつかの条件はありました。その中でスノースカート付きのフロアレスシェルターや前室付きのものなどいくつかの案がありましたが、どれも余計なものが多すぎてしまい、シンプルではありません。ハイランドデザインとして「構造はできるだけシンプルに技にはしらない」ことや「あるべきものはあり、あると良いものはいらない」という思いがあります。その考えの中で、できるだけシンプルに、でも不足なく機能があるようにと考えていった結果、どうしても最終的にツェルトにたどり着いてしまうのです。では幅はどれくらいが良いだろうか。高さは。試行錯誤を重ねてデザインしていきました。サイドリフターの位置や構造にもこだわりました。

さらにこれを作ろうと思ったきっかけの一つは、当時とは状況が変わった自らの環境も少なからずあると思います。いつか子供と一緒にハイキングに行ったとき、自分が本当に使いたいテントはなんだろう。できればソロ装備とそれほど重さは変えたくない。もしくは子供のものを持つとなったら軽くできることは少しでも軽くしたい。
また、OMMレースなどあの頃にはなかった状況も生まれました。ただ軽ければソロ装備で良い、という単純なメソッドでは通用しないのです。2人で使いたい、でももう少し軽いのが良いというリクエストに応えながら自分たちが本当に納得してお勧めできるものが欲しい。正直2人での装備を考えた時にソロで持つ道具、例えば寝袋やウェアなどの軽量化はある程度限界が見えてきています。そうしたら2人での装備“団体装備”を軽くするしかないでしょう。

 

ソロではロングかワイドか

僕の中ではロングとワイドは明確に別れています。2人で使うのならもちろんワイドから検討しましょう。しかし、ソロでの使用を考えた時、重量で言えば40gほどの差しかないとなれば、欲が出てしまい悩む人もいるでしょう。もちろんソロでワイドを使っちゃいけないとは言いません。テントの買い方で広く認識されている「1人なら2人用のテントを使った方が良い」ということ。しかし1人用でも荷物置き場に悩むことなんてありません。1人は1人用で良いと思うのです。なぜならソロで“ワイド”を使うことは快適性はプラスとなりますが重量と労力もプラスになり、保温性においてはマイナスになるからです。

簡単に比較してみます。

  • ツェルト2ロング 本体のみ331g(実測)、幅100cm、長さ220cm、高さ95cm
  • ツェルト2ワイド 本体のみ378g(実測)、幅130cm、長さ220cm、高さ95cm

基本的には長さ、高さは同じなので、幅が違ったり細かい仕様が違うことによる重量差が47gという差を作っています。確かにこれだけ見るとなんのことない差に思えるのでだったら広い方をと思いがちですが、実際の使用においてはもっと大きな差になります。

経験上の話ですが、1人用のツェルトのサイズもしくはテントのサイズというのは実に微妙に作られていると思います。というのは、例えばそこが整地されたテン場であっても、不整地のビバーク地であっても、だいたい幅1mくらいで長さが2mくらいで、ほぼたいらの場所というのは結構見つかります。今までの経験や感覚では“見つけやすい”という認識です。しかし、長さが2.2m要するに“ロング”と同じ220cmになっただけで、うまくハマりそうなのにはまらない。ぴったり収まりにくいという場所が増えてしまうのです。まあ当然と言えば当然のことですよね。小さいサイズの方が自由がきくのです。

ですので、ロングだけでなく“ワイド”になることで幕営地が選びにくくなることは想像に難くありません。場所を見つけるための範囲も広がるでしょう。整地作業も広範囲になるので労力は増すばかりです。ツェルト全体にかけるテンション、張りも1人のサイズの時よりも上手にバランスをとってかける必要があります。確かに広い空間を得られるので快適で結露がしにくくなるかもしれませんが、その分空気が対流しやすく熱が逃げてしまうでしょう。要するに空間が広くなった分寒いということです。

ですので僕の中では“ロング”が1人用としては過不足のないギリギリでいてジャストなサイズのテントだと思っています。なのでワイドを1人で使うということはまず無いでしょう。それに“たかが47g。されど47g”です。結果的にサイドリフターのロープも増えるし、インナーに敷くシートも大きくなることを考えれば、重量差はさらに大きくなるので、1人なら1人用のサイズを選ぶことに躊躇はありません。

ですが、“ワイド”が2人用だとすれば問題点が解消する可能性が高まります。なぜなら“2人で働く”ことができるからです。テン場探しはもちろん、多少スペースが合っていなくても荒れていても、整地作業を分担してやったり、1人では増えてしまう手間を半分にすることだって可能です。それにツェルトを設営するのに必要なステイクの本数や立て方はほぼ同じなので、実際には2人で設営することで、ソロの労力の半分どころかそれ以下にできる可能性があるのです。あっちに行ったりこっちに行ったりする必要もないので、上手くバランスをとってテンションをかけるのも容易です。それに、ロープなどの付属品が重くなっても、2人で分担すれば、ソロの時よりも軽量にすることだって可能になります。ツェルト2ワイドは、2人で使ってこそそのメリットを最大限に活かすことが可能なテントだと思うのです。

けれども、これはとてもスルーハイキングやウルトラライトハイキング的な思考なのかもしれません。ですので誰にでも当てはまるものではないのかもしれません。

ツェルトIIワイドの仕様について

世界的にも稀な軽量シェルターといえるツェルトですが、製品的には後発メーカーであるFinetrackのツェルトがバックカントリースキーや沢登りのシーンで高い評価を得るようになりました。メーカー自身が「積極使用」をうたっているモデルです。当店HPでもツェルトII(2015年で販売終了)について詳しく述べています。

1、透湿性の高い生地

このツェルトが世にでるきっかけともなったポイントです。生地は15D リップストップナイロン PU透湿コーティング。耐水圧は1,000mmと低めですが、生地の張りで補っています。透湿性は8,000g/m2(A-1)とかなり高いです。数値データ以上に、多くのユーザーの使用実感が口コミでひろまりました。ただし結露が少ないのであり、決してゼロではない点に注意してください。

<ツェルトの知恵その1>
結露を減らす為にできるコツを紹介します。ツェルト内で活動する時間帯は体からの放湿も多くなります。できる限り通気を良くして湿度が抜けるように工夫します。その時に意識するのは高低差と大小差です。空気は暖かい空気と冷たい空気が循環しやすいように上から下へ流すこと。また大きいところから小さいところへと流れやすいので、入り口は大きく開け、反対側の下部を小さく開けます。そうする事で効率よく空気を流し、湿気を出せます。これも両側が開くツェルトIIシリーズならではです。(ツェルトI は片側のみ)

もう一つはフロアに防水性のシートを敷くことです。透湿性はできる限りない方が良いです。なぜかというと地面は非常に湿気を含んでいます。そこにテントを立てておくとテント内部の温度上昇にともなって地面からの湿気が室内に上がってきます。これが日が落ちて気温が下がると結露の原因の一つになります。ですので地面からの湿気をシャットアウトするためにも防水シートが良いのです。これもツェルトが密閉されているから有効な方法で、極力室内の湿度を抑えることができます。タープは密閉されていないので地面や空気中の水分が結露するのを防ぎきれないのでツェルトよりも結露が起こりやすいです。軽量なものであれば、SOLヒートシートエマージェンシーブランケット(1人用)またはヒートシートサバイバルブランケット(2人用)を使うと良いでしょう。

2、出入り口の構造

ツェルトⅡワイドは前後ともにジッパーを設け、出入りができるように作られています。これは換気の面でも2人用として出入りをしやすくする面でも効果的です。“ロング”の時には換気がメインで、設営後に風の吹く向きによって出入りの場所を選ぶなどが主な機能でしたが、“ワイド”になると本格的に2人が出入りするためのそれぞれの出入り口というのがメインになるでしょう。

ツェルト2ロングはビーク(ひさし)をなくし、上までジッパーが開けるようになったことでタープとしての使いやすさや出入りのしやすさを手に入れました。ですがワイドではあえてオールドスタイルに戻しています。理由としては、その方が雨風の侵入を防げる構造であること。ワイドになった分高さが少なくても出入りがしやすくなったことが挙げられます。

ビークは戻しましたが、ダブルスライダーのジッパーはそのままなので、換気の際に一役買います。

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3、ツェルトの張りと安定性を生み出すダイニーマテープ

天頂部(リッジライン)と入り口の両側(Aのライン)には強度に優れるダイニーマテープが縫いこまれており、設営時のテンションが出しやすくなっています。それが、ツェルトの張りを生み、生地の撥水性を最大限い活かすことに繋がるのです。また負荷の多くはダイニーマテープにかかるため、風を受けた際の生地へかかる負担が軽減されるのも大きなポイントといえます。しっかりとテンションをかけることで、自然なカーブが生まれ耐風性も向上します。

<ツェルトの知恵その2>
きれいに張り出すコツは、斜め上に引っ張ることです。おおよそ40度くらいでしょうか。そうすることで縦方向にもしっかりと張りがでるのでツェルトが綺麗に立ち安定します。


*旧タイプの写真となります。

4、2人用のために考えられたサイドリフター

本体両側面についているサ イドリフターを使い外側に引っ張ることが可能です。天井高が少し下がりますが、内部を横方向に広がりを出すことができます。

この位置は苦心しました。“ロング”の場合は底辺の幅こそ100cmはありますが、三角形状のため上に行くほどに狭くなっていきます。ですので寝ているときは気にならなくても、座っているときなどは横が広がると良いわけです。その場合は肩周辺が横に広がって欲しいので、高めの位置にしておく必要があります。

しかし、“ワイド”の場合はサイドリフターを引かなくても十分に幅は確保できます。ですので無理に引く必要はないのです。ですが2人用として、寝る時に窮屈でなく側面に触れない余裕があることが重要で、そのために、地面から約30cm程度のところを引くように考えました。さらに中央一ヶ所ではなく、3点でうまく引き出すと横方向にゆったりと広げることができるので、寝ているときの肩や腰、太ももあたりが側面に触れることを気にしないゆとりが生まれます。

さらにサイドリフター位置が低いことで、張り出す直線距離も短くなります。およそ80cmくらいでしょう。

<ツェルトの知恵その3>
引っ張り具合ですが、天井高が下がらない程度に少しだけ引っ張るのがコツです。あえて本体ループとコードの中間に髪ゴムくらいの柔らかく伸縮性のあるゴムを入れると、引っ張りすぎることもなくなりますし、夜露で幕が湿ってたるんだ時にも、サイドの引っ張り具合を適度に調整することができます。

3点の端と端の距離は約100cm。ロープで正三角形を作るように引いてもらえると綺麗にテンションがかかると思います。写真ではVのラインにIのラインを引っ掛けて返してから結び、それをまとめるために小さなループを用いています。Iのラインは横から見ると直角三角形のような形になっており、底面のループとも接続しています。

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<ツェルトの知恵その4>
オススメしないサイドリフターの引っ張り過ぎ。
下の写真はツェルト2ロングですが、あえて意識的に強く引いています。体積は変わらないので、横方向に広がった分、縦方向には大きく沈んでいるのがわかります。実際にはここまで強く引かないほうが良いです。サイドリフターを引くことで横方向に大きく広がり居住性は向上します。しかし以下写真のように、強く引き過ぎた結果、天井高が5センチくらい下がるので縦方向は圧迫感が増します。経験は必要ですが、適当な引っ張り感を自分なりに探してみて下さい。(写真はツェルト2ロングのもの)

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5、閉じたフロア構造

ツェルト2ワイドでは二つに別れるフロアはやめ、中央付近は完全に繋がっています。これはタープとして使用することを捨て、テントの機能を高めるために行ったことです。ですが、出入りのしやすさや、調理の場所としても便利な“土間”機能は残しました。土間は二ヶ所付いているひもとループを結んだり、ほどいたりすることで開閉します。これがあることで、全室のないシングルウォールでも炊事スペールや玄関が作れるのです。どちら側にも付いていますのでそれぞれの入り口としても使えますし、背中合わせにはなってしまいますが2人同時に両側で調理を行うことも可能です。雨天時は積極的に床を開き、出入りの際にテント内部が濡れるのを防ぎます。

ベルクロやジッパーにしないのは、壊れる可能性が高い部分や経年劣化があるところを少なくしたいからです。立てる時には必ず紐を結んでおくことをお勧めします。そうしないと底面を引っ張るときの張り具合が変わってしまうので気をつけましょう。

重なる部分のフラップは従来のタイプとは異なり“返し”が付いているので、今まで以上に水が入りにくようになっています。

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6、全長220cmロングサイズに幅130cmのワイドサイズ

ツェルト2ロングと同様です。ツェルトの多くは非常用としてデザインされていたため最小寸法で設計されていることが多いようです。全長は200cm前後。これではスリーピングバッグの頭や足がツェルトに大きく接してしまい結露の影響をうけてしまいます。またFinetrackのツェルトは前後の入口が内側に傾斜しているため内部では数値よりも前後の短さを感じてしまうのです。

この長さがあれば十分に快適に過ごせるようになります。それは今までの実績や多くのユーザーの声にも証明されていると思います。一人用自立式テントの中にはこれよりも長辺が短いものが普通にあります。

*モデル左/身長 165cm。モデル右/身長175cm。

zelt2wide_akakuchiba_13 男性が二人横になってもゆとりあるサイズ。
zelt2wide_akakuchiba_14 座ってもどちらかに寄れる余裕のある空間

7、日本の自然からうまれた伝統色「赤朽葉」

ツェルトのカラーはオレンジやイエロー、鮮やかなグリーンが一般的。緊急用としての用途を考えれば遠目に映えるエマージェンシーカラーをその色に選ぶのはもっともです。しかし、テントとしての積極使用を考えると他のカラーが欲しいところです。またエマージェンシーカラーの内部にいると明るいのは良いのですが、目が疲れるという意見も耳にします。正直言って疲れたことはないですが。

「自然に溶こむようなステルスカラーのツェルトならば使ってみたい。」

そう思っているハイカー、実は多いのではないでしょうか。そしてツェルト2ロングの時に日本のULテントということから、日本の伝統色のカラーを選びました。その時の色は“青朽葉”。

今回の色は「赤朽葉」です。

いにしえ、人々は自然界の様々なものに目を向け、色を見出してきました。朽ちていく葉の色をみて“朽葉”という色を見出し、黄色く朽ちる“黄朽葉”。青く朽ちる“青朽葉”。そして、枯れた草木が黄色より濃く、赤まで行かない濃い橙色を見て“赤朽葉”と名付けました。

写真の写り方によっては、最近のデジタルですと勝手に補正処理が入ってしまい、橙色が強くなってしまうのです。それはそれで間違ってはいないのですが、実際には、茶色と黄色と赤色が混ざった中間的な色合いで、赤身の強いライトの下で見れば橙色に見えますが、茶色っぽいという感想を持つ人もいます。陽の当たりかたや角度で色の印象が変わるのは青朽葉の時と同じです。やや明るめではありますが、内部にいても落ち着ける色だと思います。

張り方について

スタンダードな張り方として以下の手順となります。

  1. 床面を全て結んで閉じた状態にし、まず床面の四隅をしっかりと引っ張り四辺に張りをかけます。
  2. 前後を立ち上げます。その時に天頂部とAラインに張りがかかるように、やや斜め上を意識します。ここまでで、最低限立たせて寝ることができます。
  3. さらに安定させるには、長辺の中央部を固定します。床が浮き上がらなくなり、全体に張りがかかりやすくなります。
  4. 必要に応じてサイドリフターを使用して下さい。

従来のツェルトはそれ以外にも用途に応じて張り替えられるように床が完全に開くようになっていました。ですが、“ワイド”ではテントとしての使用を主にしたため、床が全部開かなくなったため、バリエーションはありません。唯一あるとすれば、タープポールやトレッキングポールを使わない「小屋がけ」という方法です。以下でご紹介します。

 

小屋がけ

ツェルトポールやトレッキングポールを使わなくても張る方法で立木を利用したものです。立木から立木へロープを渡 し、そこに被せるようにツェルトを掛けてから、ステイクもしくは石で固定し張ります。下の写真ではツェルトにあらかじめ付けてある張り綱を利用し木に結び ました。この張り方はポールを利用する際でも用いることができます。タープと同じ張り方で、先に主となる天頂部を張り、その後広げていきます。ですので、 張り始める時に高さに注意をして下さい。後からでも微調整は行えますが、高さが足りない場合はAラインに十分なテンションがかかりにくくなります。片側だけトレッキングポールなどを使う方法もあります。

 


シームシーリングについて

テント全般において縫い目の目止め“シームシーリング”は重要な作業です。最近では多くの自立式テントでシームテープによるシームシーリングがされているものが多いですが、以前はテントのシームシーリングも自分でやるものでした。ダブルウォールの場合はバスタブとフライシートがシームシーリングの対象になり、シングルウォールテントは全体がシームシーリングの対象です。

ツェルトも非自立のシングルウォールということで、全てがシームシーリングの対象にはなりますが、要所を抑えて無駄なく、最低限にした方が手間も減らせるでしょう。ツェルトを使ってきた経験に基づいて重要度順に記載しますが、本当はこの3部分は全部やった方が良いと思います。

1、天頂部(リッジライン)とセンターラインループの付け根周辺
2、サイドリフター周辺
3、入口の部分をまとめておくためのヒモの付け根

1のリッジラインは雨が強いとかなり浸水の可能性が高いです。特にテンションをかけてはりますので、リッジラインに自然なカーブが生まれます。そして雨で濡れた縫い糸を伝って中央部に集まり、雨漏りをします。ですので、センターラインのループの付け根からリッジラインにかけてはしっかりと入念にシームシーリングをした方が良いでしょう。2のサイドリフター周辺も雨漏りしやすい箇所です。折り返しもなく、縫い糸がシンプルに貫通しているからです。万が一漏れても内壁を伝うので気にならない人もいるでしょうが、床にどんどん水が溜まっていくことにもなるので、シームシーリングしたいところです。3は想像しにくいところですが、実際に使うとかなり雨漏りが激しい箇所の一つです。なぜかというとツェルト両側にあるAのリッジラインは角度がきついので、縫い糸を通して一気に下まで流れて行こうとします。なにもなければシームシーリングが不要なのですが、ヒモがあり表裏にしっかりと貫通して縫われています。ですのでそこに水の流れが逃げてしまうわけです。ですが、その付け根周辺を水が染み込まないようにしてあげることで中に水が伝うのを防ぐわけです。

 

・シームシール剤、シームシーリングする側、塗り方について

ウレタン系のシームシーリング剤「Gear Aid シームグリップ」や類似のシームシール剤「アライテント シームコート」などを使用してシームシーリング処理をします。

メーカーによっては表側からの処理を勧めているところもありますが、それは有機溶剤を使っているからかもしれません。しかし、裏側から塗った方が良いです。それは単に見た目の問題ではありません。たいていのテントの生地は撥水処理をしてあります。いつかは効かなくなってしまう撥水ですが、シームシーリングを塗るタイミングの多くは買って直ぐだと思いますので撥水効果が一番効いているときです。そうすると、しっかりとシームシール剤が乗らなかったり染み込まないのです。実際に僕はツェルトの表に塗ったところ数年で剥がれてきました。ですので、裏側に塗ります。時間はかかりますが、しっかりと乾燥させれば溶剤も揮発します。それにもう簡単には剥がれません。

塗るのは「少しずつ、丁寧に」がポイントです。一気にやってしまいたくなりますが、そうすると大抵綺麗にはできません。特に家庭内でこんなに場所のとる作業をできる人も限られるでしょう。ですので、僕の場合はリッジラインを塗るだけでも二日間かけることもあります。テントをきれいに畳んで、塗りたい部分だけを出して処理をするわけです。面倒に感じますが、一回の時間が少ないので疲れませんし、集中力も続きます。

僕のパターンは、夜のうちにシームシール剤を塗る(30分くらい)。そのまま放置して朝。だいたい乾燥して他には付かなくなるので場所を移動して乾燥を続ける。仕事に行く。帰宅後次の箇所を塗る。それの繰り返しです。確かに日数はかかりますが、1日の作業自体が短くて済むので飽きませんし、辛くなることもありません。また雑な作業にもなりにくいので綺麗に仕上げられます。
待てない人は、上手に広げてやってください。

塗るために必要な道具ですが、Gear Aid シームグリップを買った場合は付属のハケで少しずつ塗って行くのが良いでしょう。裏書の説明書きはあまり鵜呑みにしないことをお勧めします。もしくは市販の接着剤を買うと付いている「ヘラ」を使ってもよいでしょう。こっちの方が僕は使いやすいので、最近ではもっぱらこれを使っています。もし身近になければ、使い捨てのプラスチックのナイフでも良いですし、ステンレス製のバターナイフも良いかもしれません。ポイントは幅があって濡れることと角が尖っている部分があることです。

塗る量ですが、厚塗りは不要です。それよりも薄めにしっかりと伸ばしながら塗るのがよいです。少しシームシール剤をヘラかハケに付けるかシームシーリング箇所に乗せて少しずつ塗って広げていきます。ちょっと足りないと思ったら足します。後からでも足せますがいっぺんにやった方が綺麗に仕上がります。最初はヘラなどの引いた後がありますが、粘性が残っている間にきれいに広がって平らになります。

あとは、案ずるより産むがやすし、でチャレンジあるのみです。

 

・補足説明

薄め剤はお勧めしません!十分に塗りやすいです。それにこれ以上薄めると乾燥した時にシーム剤が痩せたり、垂れて汚くなる可能性も増えます。

シームテープは数年で劣化が起こり、剥がれたり割れたりします。そのテープを新しく貼ることは非常に難しく、できたとしても同じような防水性は確保できません。本体は問題なくても先にシームテープが劣化してしまうことからも、メーカーによっては今後シームテープを再びやめるところも増えてくるかもしれません。それにシームテープが最初からしてあることはサービスではあるもののテントの価格にしっかりと含まれていることも忘れてはいけません。
それに対してウレタン系のシームシール剤は一度塗れば半永久的に剥がれることはありません(*使用場所・方法や保管状況により異なります)。また多少劣化したり削れることはあるかもしれませんが、上塗りもできますので簡単に補修できます。最初の手間はどうしてもかかりますが、あとあと面倒がなかったり、長旅の途中で劣化したりする不安も少ないので、個人的にはシームシール剤でのシームシーリングの方が安心できます。

シルナイロン製のシェルターの場合は「Gear Aid シルネット」を使用しますが、シームシーリングが必要のない場合もあります。全てに当てはまるわけではありませんが、シリコン含有の生地全体が撥水するため、縫い目を通しても浸水が少ないように思います。ですが、生地をまとめておくヒモの付け根付近は漏れが激しい可能性があるので必要に応じて行ってください。シルネットはシームグリップよりも粘性が高いですが、滑りやすいシルナイロンに固着させるためには必要です。丁寧に引き伸ばして塗ってください。薄め液はお勧めしません。


必要なロープとペグについて

ツェルトを含めたウルトラライトギアの特徴としてシンプルという部分があります。シンプルなものだけに、簡単、便利、とはなかなかいかないもので、十人十色の使い方があります。汎用性の高さは熟達度によって大きく左右されますので、初めから何でもできる組み合わせはありません。また使いやすさは個人の感覚により異なるため、これといった決まった使い方があるわけではありません。ですので、参考までに以下をお読み下さい。これは私達の経験において使用してきたことを前提にご提案させて頂いております。それを踏まえ試行錯誤しながら自分の使いやすい組み合わせを考えて頂ければより楽しみも増すと思います。

*必要な数量について

ロープ(張り綱) 最低限8m~ 自然物を最大限利用15m~

最低限ということならば、センターと底面で石を固定するためのロープくらいでも良いです。ですが、サイドリフターを張り出したくなるのは人情というものです。以下には一般的にツェルト2ロングでご案内しているロープの長さについてです。

  • 支柱(ポール&木)とからめ設営するためのセンターのメインロープ(各1本ずつ) 2.5m×2本 =5m
  • 広い面のサイドリフターを引っ張りだすためのロープ 2m×2本 =4m
  • 底面四隅と底面の長辺中央を石などで固定するためのロープ(ループにして使用)1m×6 =6m
  • 全部で15m

自然物を利用する方がロープの長さを必要とします。だからといって長いままでは使い勝手が悪いので、継ぎ足すなりして工夫することも重要です。紹介したロープの長さは私達の経験においてのものです。あくまで目安としてお考え下さい。

ワイドの場合、センターロープと底面ロープ変更はありません。サイドリフターを上述したように3点で引く場合ですが、サイドリフターの端から端の距離に対して正三角形を作るようにしたいです。

  • 上から見てV字状のロープ(1本) 2.3m*結び目の分を含む
  • センターから見てI字、横から見て直角三角形のようになる部分(1本) 2m *全体の張りを見ながら長さを調整します

ペグ 6~10本

  • 最低で必要な本数は、フロア四隅(4本)とセンターガイラインの固定(各1本ずつ)分の6本。
  • 耐風性や居住性を重視。サイドリフターは3点から1点に引く場合。10本。
  • 全てを一箇所ずつ固定する場合。18本。
  • センターロープを前後2股で固定するなら、2本を追加。
  • ペグは異なるものを2種類か3種類持っていると、様々な状況にも対応しやすくなると思います。

もちろんペグを使用せず石などで固定しても設営できるため、この本数は絶対ではありません。もしくは太めのペグを刺して抜いた穴に枝を差し込んでペグ代わりにする方法もあります。

 

ラインロック(自在) 2個

これは必要ではない道具です。しかし、センターロープの長さ調整にはあると便利です。道具を用いると一定の使い方は簡便になりますが、結びで対応できる方がどんな状況にも合わせて使えます。

写真下/室内で石でのみ固定して設営しています。センターロープは一本で張り出しています。昔と違い、今のツェルトは軽いので一本でもちゃんと立てることができます。

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写真下/ポールや木への固定はインクノット(クローブヒッチ)が定番。仕掛けを作る場合もあります。写真はイタリアンヒッチ(半マストノット・ムンターヒッチ)の変形。

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写真下/1mのワッカでこのようにしてツェルト四隅を固定。写真は50cmロープをループにして使用。

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